上 下
24 / 33
見えない殺意

違和感と提案

しおりを挟む
部屋にはいるなり、メルヴィルは奥にあるソファに突っ伏し、授業のベルが鳴っても起き上がってこなかった。

「令嬢はこちらへ」
メルヴィルの護衛らしき騎士のひとりがフィオラを小窓のまえに座らせ、窓についた面格子を回転させて授業が見えるようにした。
「……メルヴィル皇女さま」
振り返り、一応声をかけると、彼女はゆっくりと顔をあげて机のほうへやってきた。
「大丈夫よ。昔はあんなじゃなかったのだけど、あの男爵令嬢がやってきてから、皆おかしくなったのだわ。まるで私の意見など聞こえないみたい」

それをきいて、私は顔をあげた。
「リアムも、ですか?」
ン?とメルヴィルは首をかしげた。
「まあ、そうね。生徒会の方がたは、同じ時期に同じように彼女の護衛みたいになったのだけど、バセッティ子息はそうでもなかったような…」
口許を隠して、少し俯き加減にメルヴィルが話す。
「それ、なんだか変です」
え、とメルヴィルはフィオラをみた。

フィオラは、バセッティ司祭の命令についておもいだしていた。バセッティは、リアムにメルヴィルに近づくよう命令していたはずだ。もちろん、それをメルヴィル本人に言うわけにはいかないが。

「変です、あきらかに。皆同時になんて、あの人数ですもの」
代わりに、リアムと男爵令嬢が並んで座るあたりを指差した。そこには前後左右の段を入れて7人ほどの男子生徒が付き従うようにとりかこんでいた。
「私、調べてみます」

フィオラは部屋に保管しているあの魔法書のことを思い出していた。なにか、ヒントがあるかもしれないと。
メアリグレースがミアである以上、弱いとはいえ魔方陣がつかえる。生徒会が無関係の彼女に盲従するのは、なんらかの魔力が働いていると考えるべきなのではないか。フィオラは唇をかんだ。

「……わかりました、お願いします」
メルヴィルがフィオラをちらりと見た。ためらいがちに、口をひらく。
「ジャスパーを、取り戻せるかしら?」
フィオラは首を傾げた。
「わかりません。あの彼女はかなりやり手みたいだから。でも、ひとついえるのは、皇女さま?」
フィオラはぎゅっとペンを持つ手に力をいれた。キシッとペンの軸が音を立てる。

「けして彼らをかんたんに赦してはいけません。貴方はこの国の最も高貴なかた、それを愚弄して、あのような振る舞い。繰り返させては、皇女さまの威厳にも傷がつきます。もし、改善しないとなれば、婚約破棄もお考えください」

フィロニアのようにならないように。とフィオラはまっすぐメルヴィルを見た。メルヴィルはちょっとおどろいたようにフィオラの顔をみてから、ええ、と頷いた。
「私も浮気性な王配なんて御免だわ。わかりました。彼の卒業式までに改善しないなら、そうします」

それきり、フィオラとメルヴィルは授業に集中していた。話題は現在教員が出した問題の、年代やその背景にうつり、ふたりは学ぶことを楽しんでいた。


だから、気付かなかったのだ。ふたりのうしろで侍女のひとりが、憎々しげにフィオラを睨み付け、音もなく小部屋を立ち去ったことに。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~) パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。 この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。 しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。 もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。 「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。 「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」 そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。 竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。 後半、シリアス風味のハピエン。 3章からルート分岐します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。 https://waifulabs.com/

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話

みっしー
恋愛
 病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。 *番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします

天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。 側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。 それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。

処理中です...