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私にまつわる日常的な困難について

幼馴染をエスコートしましたが

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その期待は新学期を前にして、夏至の夜会でばらばらに砕け散ることになった。


その夜、14になった令嬢たちはデビュタントを迎えることになっていた。私も久しぶりに社交界へ顔を出し、エリーゼをエスコートするはこびとなった。
見目だけはずば抜けて麗しいエリーゼだ。多分、この日一番美しいデビュタントは彼女だったろう。

そんな美少女をエスコートする、ということは、私の僅かな矜持を満足させてくれた。

大広間には既に王侯貴族が着飾って、思い思いに過ごしていたが、エリーゼの名前が呼ばれ、姿を現したとき、彼らはみな、はっと息をのんだ。
私はエリーゼの手をとったまま、つい口元が緩んでしまわないよう奥歯を噛み締めていなければならなかった。




そんなちょっとした優越感など吹っ飛ぶ大事件が、このあと起きるとは、その時は思いもしなかったのだ。


「お前、噂になっているぞ」
エリーゼが女王陛下へ謁見するため、他のデビュタントと隣室へむかったあと、囁きかけて来たのはマリアテレサ女王陛下の長男、ヴィルヘルム皇太子だ。背筋が凍るとはこのことだろう。

「殿下、それは、どのような?」
カラカラになった舌が絡まりながら尋ねると、皇太子優雅に一礼してから、踊れよ、と笑いかけてきた。んん?私に女役を踊れと命じてるのか?


それはもう、地獄のようなひとときだった。そもそもこれはなんなのだろうか?

大勢の子息令嬢の揃ったデビュタントの夜に、エスコートしてきたエリーゼを差し置いて、男である皇太子と踊る。いくら皇太子が絶世の美男子だとしても、こんなバカな話があっていいわけがない。

目立つな、事を荒立てるなという父と母の教えが、何より私に重くのしかかってきた。


「あの、これは一体?」
王の子である皇太子に、こちらから声をかけてはならないのは、分かりきっている。しかし、こんな無茶苦茶をされては、そうも言ってはいられなかった。

「彼女は、コーデリア宰相の娘だろう?」
そう言われて、はい、と答えた。ぐるりとターンさせられ、腰を抱き込まれて、密着したあまりのむさ苦しさに唸るしかなかった。

上背があるからちょうど私の顔が胸板にあたる。見た目より鍛えてあるのか、最悪に固いな。

「随分好かれているそうではないか?」
成る程と頷いた。美しいデビュタントが、つまらない斜陽貴族の息子と現れた、ということがプライドの高い皇太子には気に入らなかったのだろう。

ましてそのデビュタントが、実力者である宰相の娘であればなおさらだ。
「エリーゼは幼馴染ですが、それ以上でも以下でも御座いません……お望みでございましたら、エリーゼを御前へ連れてまいりますが、う!」

たのむからあまり強く締め上げないでほしい。ほぼ抱き寄せられている感じがとても、イヤなのだ。
助けを求めてエリーゼが去った謁見の間の扉を見ると、ちょうど彼女が扉の前に立っていた。

なぜか頬をそめ、それはそれはうれしげに両手をたたいては微笑みをうかべ、トウトイ、マジカミ、などと唱えている。やめろ、その詠唱をすぐ止めてくれ。そのせいで皆が私を奇異な目で見るじゃないか。

せめてと私は豪奢なシャンデリアの下がる天井を見上げた。うん、まちがいなくキレイだなあ、うん、もうすぐおわるかなあ…

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