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第7幕 悠久へと架ける希望

40 凛々しく咲き誇りし少女

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 まぶたを開くと真っ暗だった空間から、日差しが照らす眩しい世界が見える。

 目の前には大きくひろがる敷地が飛び込んできた。

 久々に自分の足で地面に立った感覚。
 細く頼りない足は懐かしい地面をかみしめた。

 いつも二つに結っていた髪も今は風になびかせて自由に揺らいでいる。

 私、観咲花凜はいま有明に転移し離れた場所から眺めていた。

 黒いはずの『虚層黒積体』は、終末大転移の発動によって白く眩しく輝いている。

 胸に手を当てると心臓が鼓動していた。
 数日ぶりの生命機能を再開した体は、今の私に不思議な違和感をもたらす。

 境空間で実体のない状態で漂っていた時、
 そこから窓を覗きこむように現実世界の事を見つめることができていた。

 あの人・・・・悠希遥架君のことをずっと追いかけていた。

 彼の心は深い悲しみに覆われ、激しい後悔、冷徹な思考、その全ての想いを私は感じ取っていた。
 激情を抑え込むために、理屈だけを自分の中に中に残してそれを行動原理にしている。

 ホークスさんという人は気体化しても意識が残っていた私に世界で起きる多くの事を伝えてくれている。
 それは言葉ではなく、心象風景として。

 だが世界の事よりも私は遥架君の事を追いかけ続けていた。
 ホークスさんもそれを止めなかった。

 ホークスさんの異能はエヴァさんのクローンの一体から得た異能。
 その異能『シンクロ』がホークスさんに渡った事で私はエヴァさん越しに遥架君を追いかけ見ることが出来た。

 遥架君は私との約束を守るために、警察、軍とも協力し結果を優先させるための冷酷な手段までも選んだ。

 それはあの人に、大きな業を背負わせてしまった事となる。

 私達の幸せを願うがゆえに。

 私はあの人の願いを叶えたい。
 私の幸せのためでなく、彼の幸せのために私は全力で彼に報いたい。

「あの人の望む未来を」

 エレメンタルアーツは私の呼び掛けに共鳴し、虚層塔以上の光とエネルギーを解き放つ。

 アーツは虚層塔システムを凌駕し、大転移制御を奪いとるものだとわかった。
 そしてこれが、未来視で予言された結末を大きく変えていく事象の始まりだという事も。

 神級を呼び込ませない。

 蓄積されている大転移エネルギー、その多くをここで分散消費させる要領で放出させる。
 他の虚層塔ともリンクさせ、それらのエネルギー内包量と合わせても神級召喚に届かない域まで枯渇消費させる。

 私の制御で三~ニ級までの異生物を大量転移させるように命令を変えた所で、虚層塔システムはこれに反発した。
 エレメンタルアーツの適合者の存在を検知したことで、突如その制御を神級転移にシフトし始めた。

 とてつもない強制力 ・・・・私の制御力では足りなかった。
 まだ結晶をコントロールするための細胞の高質化が届いていない。

 後ろを振り替える。

 遠くに古雅崎さんがいた。
 遥架君を支えている強い人。
 あの人みたくなりたいと思える憧れの人。

 そしてその近くにカノンという少女もいる。

 信者により奉られた亜高質適合者。

 私は少女へと辿るように体を浮かせた。
 まるで宙を跳ぶような事が異粒子結晶の力で出来る。

 それを見た教団の子供達が驚いた顔で声を上げた。

「空飛んでる!」
「天女さま?」

 私は大きな布地を体に巻きつけただけの格好なので少し現実離れして見えるのだろう。
 空を浮いていれば尚更だ。

 少女に向かって声をかけた。

「はじめまして、私は花凜。このエレメンタルアーツは私が引き継ぐわ。あなたの使命も引き受けちゃうね」

「彼が言っていた・・・・あなたが、私の換わり?」

「ええ、でも今はまだ力が足りないの。だからお願い、私に力を貸してほしいの」

 カノンという少女は戸惑っていた。
 この子もわずかながらに未来視を持っていたから、今起きている光景のギャップに驚いてるのだと思う。

 そしてこの子の持つ高質細胞はまだわずかであっても、私の不足分を補うに十分なもの。

 ・・・・私は遥架君みたく、上手に理屈的に交渉が出来ない。

 だから、私なりのお願いをした。

「全部終わったらお姉ちゃんの美味しい料理、いっぱい食べさせてあげる!」

「え?」

 キョトンとした顔をしている。
 だが私の言葉にまわりの子供達の方が大きな反応を示した。

「美味しいごはん食べさせてくれるの?」
「え、食べたい!」
「僕も!」

 食べ盛りの子供達なのだ。

「うん、お姉ちゃんの料理はすごいんだよ。量を作りすぎていつも大変だけど・・・・ここにいるみんなも食べられる位いっぱい作れるんだから」

 すると少女が笑ってくれた。
「クスクス、すごいお姉ちゃんだね」

「うん、すごいの。ね、皆で一緒に食べよ」

 ひとりでも多く、救って、みんなで笑おう。

「私は白木 香音しらき かのん。ここにいるみんなのために、アナタに力を託します」

「ありがとう、香音ちゃん。・・・・・手を!」

 私は左手でエレメンタルアーツを掲げ、彼女の右手でそれをで支えてもらう。
 そしてもう片手でお互いの手をつなぎ、高質細胞の力を循環させてエレメンタルアーツへと力を流した。

 エレメンタルアーツはさらに共鳴を高める。

「素晴らしい・・・・これが、真の女神の輝きか・・・・」
「メシュア様だ、メシュア様が、光臨された」

 ネオズ教団の人間が到着し、彼らは私達の行動を邪魔する事はなく、その行く末を見守っていた。

 私たちは虚層塔の制御を奪い返した事で、有明の敷地には膨大なエネルギーを消費して転移させたさらに大量の異性物が一堂に現れる事となる。

 この場を乗り切るために、私はアーツの力をここにいる適合者達全員に伝播させていく。

 ネオズ教団の新生児達、大人達。
 周囲を囲っていたトーラス私兵の適合者。
 さらにはギアーズの異粒子適合者にも。

 敵味方関係なく結晶の力を与え、そして声も届ける。

「今は人間同士で争う時ではないよ。みんなで力を合わせよう」

「ネオズ教団の皆、彼女の言葉に従いなさい。終生の世を生きる者達よ、憂いを掃い尊厳を守れ!」

 彼女の言葉が強い意志力を持って、声が届く者達すべてに行動を促す。
 か弱く見えていた少女は、儚くも強く彼らの心を突き動かしていった。

 しばらく経つと、虚層塔を中心に転移した大群の異性物に対して、その周囲から崩し始める人間達の姿が見えてくる。

 虚層塔を北に起き、西から警視庁対策工作員が、東をトーラス適合者。南から教団の子供達が攻め入っていく形だ。

 ブラックウィークエンド時でも使用できるカスタム銃で工作員達は狙撃し、適合者達はエレメンタルアーツの恩恵を受けて底上げされた身体強化で切迫していく。

 群集戦へと突入した。
 人類存続に向けたホークスの選ぶ未来視のひとつの道へと辿り始めた。

 しかし異生物の転移はいつまでも終わる事がなく、次々と数を増やしていった。

「ダメ・・・・まだ転移エネルギーが削り切れない」

 押さえ込んでいた勢いに負けて、ついに一級の異性物までも出現させてしまった。
 今いる彼らでは対処できない異能持ちの異性物だ。

 私は心の底から頼りの祈りを叫んだ。

「・・・・遥架君、お願い!」

 すると虚層塔の中心域から球状の衝撃波が大きく放たれた。
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