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第6幕 世界の優先順位
38 同じ想いの少年達
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エレメンタルアーツは想像以上に体の消耗が激しかったため途中からは通常の身体強化の強度を落とした。
車両すら動かなくなる終末大転移の最中でミハイル達は徒歩でしか移動手段がないはず。
そのため教主のエレメンタルアーツを使った実験儀式の場所までたどり着くには時間がかかるだろう。
博賀は戦闘特化型ではなかった。
適合者とはいえ、大した身体強化者ではなかった。
彼らを振り切れた状況だが、それでも急がなければならない。
博賀は教主に対してだけ異常な執着を見せている。
ガソリン車や電子機械が動かないとはいえ時間は多くはない。
追い付かれるまでに古ヶ崎と合流し、教団共の制圧を済ませるべきだ。
俺の消耗状態で、この先で待ち受けるギアーズの適合者と戦えるか懸念が残るが。
だがなんとしてもエレメンタルアーツを奪う。
虚層塔から離れた高台の位置、そこには祭壇が設置されており
それはまさに儀式が行われるような装いの場所として装飾されていた。
教団の人間らしき大人と、屈強そうな兵士達。
だが高台の祭壇へ続く坂道にはこの二派閥の人間達がなぜか気絶して横たわっていた。
・・・・すでに倒されている?
ミハイルが自信満々そうに言っていた自慢のギアーズ所属の適合者だった者達なのに。
古ヶ崎の姿が見えた。
長い髪を縛り上げて、装束の姿に黒光りする木造の薙刀を持っていた。
全く息切れしてる様子もない。
それどころか虎の子であったであろう教団の大人適合者まで手玉にとっていた。
前の方にいる古雅崎の方も俺の到着に気づいた。
「古雅崎・・・・まさかこの短時間で殲滅したのか?」
「ええ、異能持ちが何人かいたようだけどね。大した事のない相手だったわ。異粒子の循環をなくさせればたわいもないのね」
コイツもう完全に適合者の天敵に成り上がってないか?
というか今起きた大転移により現れた3級異生物もついでに討伐している跡があった。
「どうなってるんだよお前」
「ただそれも彼女には通じないわね」
高台の頂上にある祭壇の中心地にいる人間、エレメンタルアーツを持つ教主だ。
ついにみつけた。
間違いない、襲撃される前にトーラスの研究所が保有していたものだ。
すでに儀式という名の虚層塔制御が行われていた。
「古ヶ崎でも止められないのか?」
「私の技の特性は、妨害とカウンターが主体なの。守に徹してくる相手には弱いわ。あと子供相手というのもやりづらいわね」
教主は少女であった。
顔はやつれているが恐らく中学生くらい。
エレメンタルアーツを共鳴させており、その表情は苦悩の色が見えていた。
その周辺には他の、同じ年頃の少年少女が囲っている。
「わかった、ここからは俺が行く」
俺にとっては立ちはだかる相手が子供だろうが邪魔なら押し退けるだけだ。
近づいていくとその少年達が教主である彼女をかばうために異粒子エネルギー結合を始めた。
やはり適合者か。
新宿の終末大転移でこれだけ新生していたとは。
「くるな!これ以上近づいたら容赦しないぞ!」
「どけ。用があるのはその教主だけだ。おい、儀式を止めろ」
俺の目的のためには、大転移はもうしばらく稼働を続けてもらう必要があった。
すると俺の声に応じるように、教主の少女は腕を下ろし、こちらに対して横目で視線を合わせてくる。
「あなたは誰ですか?」
「お前たち組織の戦争相手だよ。その手にしているものが俺には必要だ。渡してもらう」
「いけません、これは私達に必要なものなのです」
「なぜだ?」
「・・・・必要だからです」
なんだ?コイツもしかしたら目的を聞かされていないような雰囲気だな。
よく見ると顔がさっき見た時より青ざめてやつれている。
アーツ使用の影響だろうか。
俺は小さな欠片を使うだけで全身の消耗感が尋常ではなかった。
虚層塔を制御するために使うアーツはたとえ高質のマギオソーム細胞持ちであっても計り知れない消耗なのだろう。
いや、そもそもこの少女の高質度が低いという可能性もある。
なのに新宿に続いて有明でも制御しようとしているのか。
すると子供達の中からひとりの男子が先頭に出てきた。
どこかで見た顔。
・・・・ああ、どうやら新宿で新生適合者になった所を遭遇した時の子供だ。
しかも俺に傷を負わせた奴だ。
「・・・・・新宿では世話になったな、あの時のような奇襲はもう俺に通じないぞ?」
「・・・・カノンには触れさせない」
カノン?・・・・このメシュア教主の事か。
名前で呼んでいる所からすると、特別に仲がいいという事なのだろうな。
いや、ここにいる子供達が皆そういう繋がりでいるようだ。
理屈で説得できる様子はなさそうだ。
「悪いが、強行させてもらうぞ」
俺は子供達を押しのけるつもりで歩を進めた。
その男子は前回の戦闘時と同様、遠隔の爪撃を繰り出すが、この異能は新宿大転移の時にすでに見た技で対処が容易だ。
俺は半身だけ体をズラし回避する。
「な・・・・!」
「おまえの技は俺に届かない」
何の工夫もない子供が扱う異能だ。
あの時は状況が混乱していた事もあったが、技の特性を知っている上で対峙したのならば俺の相手にはならない。
「カノ・・・・メシュア様。オレに・・・・アーツの力を」
「・・・・。」
「大丈夫だ!」
教主はエレメンタルアーツの持つ異粒子結晶としての力を少年へと流し始めた。
テレキネイサーや俺が戦術として採用していた異粒子の高濃度供給フロー。
だがこの少年は細胞適合してまだ日が浅いだろう。
キクチカズマのように大出力を放てる程の許容量は持ち合わせていない。
もしオーバーヒートすれば体は修復出来ない状態になりかねない。
「やめるんだ。言う事を聞けばお前たちに危害を加える気はない」
「そういって何人もの大人たちがオレ達を追い詰めたんだ!この作戦が成功しなきゃカノンはまた施設に閉じ込められるんだよ!」
・・・・そうか。
やはり儀式自体、主体的な行動ではなかったか。
当然だ、こんな年端のいかない少年少女たちにとって宗教団体になんの大儀があるものか。
世界のためでも利益のためでもない。
行動理由なんかみんな、大切な人を守りたい、それだけだろう。
「オレ達はもう離れたくはないんだ!『玄延狩爪』!!」
自由距離で放たれる特性の異能斬撃は先ほどよりも増えた威力と数で迫ってきた。
しかし俺はこれを『局所衝撃波』で相殺する。
衝突したふたつの異能の力は拮抗する事なく、余剰した俺の衝撃が勝ち残り、そのまま彼らの元へと向かった。
少年と数名の子供は咄嗟に教主メシュアの前に立ち、自らを壁として盾となる。
適度に加減はしてやった。
致命傷になることはないだろう。
必死に守ろうとした行動から、おそらく教主に身体強化は備わっていない。
「カノン・・・大丈夫?」
「うん、大丈夫。みんなは?」
「平気だよ。だから、教主としてのお務めを・・・・メシュア様」
「うん・・・・続ける」
するとアーツを手で持ち上げた少女は再び虚層塔へ向き、力の発動を始めた。
子供達はこちらを向き、守りの陣を以てして俺に対抗する姿勢を見せる。
「邪魔はさせない」
「これ以上近づくな!」
この子達の事はトーラスと警視庁が調べ上げ元は孤児院の子供達であった事がわかつた。
世界が異界化し、こういった施設への政府補助は薄まってしまう傾向にあったのだ。
エレメンタルアーツの発掘、研究に国家予算を割く事も要因たっただろう。
そして幼少である程、異粒子への天然適合する確率が高い事を知ったネオズ宗教団体は、そういった経営難に老いる施設から子供達を次々と引き取っていたのだ。
その中の一人の少女が、天然適合者として覚醒し、未来視の異能を持っていたことで、新生の教主、メシュアとして奉られた。
さらに、微弱ながらも高質細胞の兆しを持っていた事からギアーズ重工との提携が実現し、ロシア国政における終末大転移の制御実験へと繋がる。
「お前たちの事については調べがついている。施設にはもう・・・・戻りたくないのか?」
「戻るものか!今の方がずっと・・・・俺たちは一緒にいられるんだ!」
「そうよ、私たちはこの世界でみんなと生きていくの!」
俺はさらに、先頭に立つ少年の目を見て聞いた。
「友達が・・・・大事か?」
「何を犠牲にしてでも・・・・守る!!」
「・・・・そうか」
俺と一緒であった。
ここにいるのは、地球が異界化した事で、自分の大切なものを守れるようになった者たちだ。
この子供達はたとえ国を、世界を壊す事になってでも、今自分にとって大切なものを一番にしたいと願っている。
「悠希くん!!きたわ!」
古雅崎の声で後ろを振り向く。
後方のはるか先で、先ほど俺が振り切ったミハイルと博賀の集団がこちらに向かってくるのが見えた。
トーラス軍との戦闘も始まっているようでその対処をしながらの進軍であった。
「どうするの?」
「何もかわらない。俺は俺の優先事項を強行する」
祭壇に体を向きなおし、改めて歩を進める。
「メシュア教主・・・・いや、カノンと言ったな。オマエはどれだけの未来が見えている?」
「・・・・。」
「まだ具体的に見れていないんだろう。そもそもお前の細胞質は高質にまで至っていないレベルのものだ。アーツも使いこなせていないから、見れるのはせいぜい概念程度だろ」
「それが・・・・なに?」
「ギアーズ重工が大転移を止めたい理由はなんだと思う?」
「それが聖なる儀式だから」
「転移エネルギーのしわ寄せを他国に集めるためなんだよ。その先にあるのはモスクワで起きた悲劇をを競争国にもたらして破滅させる事だ」
「破滅ではない、私たちは神の降臨をもたらす」
「そうだな、それは確かに神と言える。でもそれはやっぱり異生物だよ。神級の異生物だ」
「異生物?」
「しわ寄せで溜まった転移エネルギーは強大な異生物を転移させられるようになる。ロシアの敵国はそれで確実に壊滅できるだろう。だが神級は誰にも制御できないぞ」
「なんでアナタはそんな事を知っているの?」
「お前の未来視の異能が・・・・俺の中にあるからだ」
俺が未来で得る事になっている、細胞同期は、取得対象の存在と出会った瞬間に未来異能細胞の同期条件が満たされる。
麒麟の加速神経、菊池和馬の衝撃波《ショックウェーブ》。
・・・・そして、この少女の『未来視』。
俺は会話をしている中でこの未来視を発動する事が出来るようになっていた。
それはこの少女からマギドプラズムを得るという・・・・未来の死を意味する。
「・・・・キミは今すぐに死ぬ必要なんてない。そのアーツは別の子が引き受けるよ」
「そんな子・・・・知らない」
「君と同じ女の子だ。明るくて元気で・・・・いつもみんなを笑顔にしてくれる子。きっと友達になれるよ」
「私と・・・・同じ・・・・?」
そう、必ず会わせてあげよう。
そのために俺はここまで来たのだから。
身体強化・・・・ブーストトリガー、全開!!
俺は少年少女の適合者達ですら目に止められない程の体移動を発動した。
高速で彼らに差し迫り、異能の空中跳躍を使わずとも、一段飛びで頭上を通り越していった。
エレメンタルアーツを持つ少女の手元まで辿りつき、奪取した。
ついにその目的の対象物を奪い取る事に成功する。
何重にも張った計画がこの瞬間に実を結んだ。
俺は止まる事なく、彼らを通り過ぎてもそのまま距離を取り、虚層塔へ向かって突き進む。
誤算だったのはエレメンタルアーツ本体の力が俺にも発動出来てしまった事だ。
異粒子の結晶体であるアーツはただ持っているだけで無尽蔵のエネルギーを俺に対して供給してくる。
「やばい・・・・膨大すぎて・・・・制御が・・・・出来ない!!」
俺は体が壊れる事を覚悟して、この膨大なエネルギーの行き先を、すべて身体強化の燃焼へと回した。
結果として加速神経よりも増幅された身体強化となり、俺は何度も転げながらそれでも止まらず高速で虚層塔の麓まで走り続けた。
そして叫んだ。
「ホークス!!約束を果たす・・・・俺を転移しろ!!」
アドレナリンで痛みに鈍感になっている筈が、それでも全身がひび割れていく感覚に襲われた。
それほどのエネルギーが体に流れている。
虚層塔がもう目の前に立ちはだかる。
だが走りは止めない。
日の光を受けない漆黒の壁に向かって衝突してしまう事も考えず走りを止めなかった。
もう時間があとどれくらい残っているのかわからない。
時間の経過が確率を低下させてしまうものかもわからない。
もう、彼女を・・・・
「花凛ちゃんを元に戻せ!!!!」
そしてぶつかってしまうその瞬間・・・・俺の見えていた視界は湾曲して歪み、暗闇へと景色が変わる。
そしていくつもの世界が・・・・宇宙が・・・・俺の中を何度も通り過ぎていった。
車両すら動かなくなる終末大転移の最中でミハイル達は徒歩でしか移動手段がないはず。
そのため教主のエレメンタルアーツを使った実験儀式の場所までたどり着くには時間がかかるだろう。
博賀は戦闘特化型ではなかった。
適合者とはいえ、大した身体強化者ではなかった。
彼らを振り切れた状況だが、それでも急がなければならない。
博賀は教主に対してだけ異常な執着を見せている。
ガソリン車や電子機械が動かないとはいえ時間は多くはない。
追い付かれるまでに古ヶ崎と合流し、教団共の制圧を済ませるべきだ。
俺の消耗状態で、この先で待ち受けるギアーズの適合者と戦えるか懸念が残るが。
だがなんとしてもエレメンタルアーツを奪う。
虚層塔から離れた高台の位置、そこには祭壇が設置されており
それはまさに儀式が行われるような装いの場所として装飾されていた。
教団の人間らしき大人と、屈強そうな兵士達。
だが高台の祭壇へ続く坂道にはこの二派閥の人間達がなぜか気絶して横たわっていた。
・・・・すでに倒されている?
ミハイルが自信満々そうに言っていた自慢のギアーズ所属の適合者だった者達なのに。
古ヶ崎の姿が見えた。
長い髪を縛り上げて、装束の姿に黒光りする木造の薙刀を持っていた。
全く息切れしてる様子もない。
それどころか虎の子であったであろう教団の大人適合者まで手玉にとっていた。
前の方にいる古雅崎の方も俺の到着に気づいた。
「古雅崎・・・・まさかこの短時間で殲滅したのか?」
「ええ、異能持ちが何人かいたようだけどね。大した事のない相手だったわ。異粒子の循環をなくさせればたわいもないのね」
コイツもう完全に適合者の天敵に成り上がってないか?
というか今起きた大転移により現れた3級異生物もついでに討伐している跡があった。
「どうなってるんだよお前」
「ただそれも彼女には通じないわね」
高台の頂上にある祭壇の中心地にいる人間、エレメンタルアーツを持つ教主だ。
ついにみつけた。
間違いない、襲撃される前にトーラスの研究所が保有していたものだ。
すでに儀式という名の虚層塔制御が行われていた。
「古ヶ崎でも止められないのか?」
「私の技の特性は、妨害とカウンターが主体なの。守に徹してくる相手には弱いわ。あと子供相手というのもやりづらいわね」
教主は少女であった。
顔はやつれているが恐らく中学生くらい。
エレメンタルアーツを共鳴させており、その表情は苦悩の色が見えていた。
その周辺には他の、同じ年頃の少年少女が囲っている。
「わかった、ここからは俺が行く」
俺にとっては立ちはだかる相手が子供だろうが邪魔なら押し退けるだけだ。
近づいていくとその少年達が教主である彼女をかばうために異粒子エネルギー結合を始めた。
やはり適合者か。
新宿の終末大転移でこれだけ新生していたとは。
「くるな!これ以上近づいたら容赦しないぞ!」
「どけ。用があるのはその教主だけだ。おい、儀式を止めろ」
俺の目的のためには、大転移はもうしばらく稼働を続けてもらう必要があった。
すると俺の声に応じるように、教主の少女は腕を下ろし、こちらに対して横目で視線を合わせてくる。
「あなたは誰ですか?」
「お前たち組織の戦争相手だよ。その手にしているものが俺には必要だ。渡してもらう」
「いけません、これは私達に必要なものなのです」
「なぜだ?」
「・・・・必要だからです」
なんだ?コイツもしかしたら目的を聞かされていないような雰囲気だな。
よく見ると顔がさっき見た時より青ざめてやつれている。
アーツ使用の影響だろうか。
俺は小さな欠片を使うだけで全身の消耗感が尋常ではなかった。
虚層塔を制御するために使うアーツはたとえ高質のマギオソーム細胞持ちであっても計り知れない消耗なのだろう。
いや、そもそもこの少女の高質度が低いという可能性もある。
なのに新宿に続いて有明でも制御しようとしているのか。
すると子供達の中からひとりの男子が先頭に出てきた。
どこかで見た顔。
・・・・ああ、どうやら新宿で新生適合者になった所を遭遇した時の子供だ。
しかも俺に傷を負わせた奴だ。
「・・・・・新宿では世話になったな、あの時のような奇襲はもう俺に通じないぞ?」
「・・・・カノンには触れさせない」
カノン?・・・・このメシュア教主の事か。
名前で呼んでいる所からすると、特別に仲がいいという事なのだろうな。
いや、ここにいる子供達が皆そういう繋がりでいるようだ。
理屈で説得できる様子はなさそうだ。
「悪いが、強行させてもらうぞ」
俺は子供達を押しのけるつもりで歩を進めた。
その男子は前回の戦闘時と同様、遠隔の爪撃を繰り出すが、この異能は新宿大転移の時にすでに見た技で対処が容易だ。
俺は半身だけ体をズラし回避する。
「な・・・・!」
「おまえの技は俺に届かない」
何の工夫もない子供が扱う異能だ。
あの時は状況が混乱していた事もあったが、技の特性を知っている上で対峙したのならば俺の相手にはならない。
「カノ・・・・メシュア様。オレに・・・・アーツの力を」
「・・・・。」
「大丈夫だ!」
教主はエレメンタルアーツの持つ異粒子結晶としての力を少年へと流し始めた。
テレキネイサーや俺が戦術として採用していた異粒子の高濃度供給フロー。
だがこの少年は細胞適合してまだ日が浅いだろう。
キクチカズマのように大出力を放てる程の許容量は持ち合わせていない。
もしオーバーヒートすれば体は修復出来ない状態になりかねない。
「やめるんだ。言う事を聞けばお前たちに危害を加える気はない」
「そういって何人もの大人たちがオレ達を追い詰めたんだ!この作戦が成功しなきゃカノンはまた施設に閉じ込められるんだよ!」
・・・・そうか。
やはり儀式自体、主体的な行動ではなかったか。
当然だ、こんな年端のいかない少年少女たちにとって宗教団体になんの大儀があるものか。
世界のためでも利益のためでもない。
行動理由なんかみんな、大切な人を守りたい、それだけだろう。
「オレ達はもう離れたくはないんだ!『玄延狩爪』!!」
自由距離で放たれる特性の異能斬撃は先ほどよりも増えた威力と数で迫ってきた。
しかし俺はこれを『局所衝撃波』で相殺する。
衝突したふたつの異能の力は拮抗する事なく、余剰した俺の衝撃が勝ち残り、そのまま彼らの元へと向かった。
少年と数名の子供は咄嗟に教主メシュアの前に立ち、自らを壁として盾となる。
適度に加減はしてやった。
致命傷になることはないだろう。
必死に守ろうとした行動から、おそらく教主に身体強化は備わっていない。
「カノン・・・大丈夫?」
「うん、大丈夫。みんなは?」
「平気だよ。だから、教主としてのお務めを・・・・メシュア様」
「うん・・・・続ける」
するとアーツを手で持ち上げた少女は再び虚層塔へ向き、力の発動を始めた。
子供達はこちらを向き、守りの陣を以てして俺に対抗する姿勢を見せる。
「邪魔はさせない」
「これ以上近づくな!」
この子達の事はトーラスと警視庁が調べ上げ元は孤児院の子供達であった事がわかつた。
世界が異界化し、こういった施設への政府補助は薄まってしまう傾向にあったのだ。
エレメンタルアーツの発掘、研究に国家予算を割く事も要因たっただろう。
そして幼少である程、異粒子への天然適合する確率が高い事を知ったネオズ宗教団体は、そういった経営難に老いる施設から子供達を次々と引き取っていたのだ。
その中の一人の少女が、天然適合者として覚醒し、未来視の異能を持っていたことで、新生の教主、メシュアとして奉られた。
さらに、微弱ながらも高質細胞の兆しを持っていた事からギアーズ重工との提携が実現し、ロシア国政における終末大転移の制御実験へと繋がる。
「お前たちの事については調べがついている。施設にはもう・・・・戻りたくないのか?」
「戻るものか!今の方がずっと・・・・俺たちは一緒にいられるんだ!」
「そうよ、私たちはこの世界でみんなと生きていくの!」
俺はさらに、先頭に立つ少年の目を見て聞いた。
「友達が・・・・大事か?」
「何を犠牲にしてでも・・・・守る!!」
「・・・・そうか」
俺と一緒であった。
ここにいるのは、地球が異界化した事で、自分の大切なものを守れるようになった者たちだ。
この子供達はたとえ国を、世界を壊す事になってでも、今自分にとって大切なものを一番にしたいと願っている。
「悠希くん!!きたわ!」
古雅崎の声で後ろを振り向く。
後方のはるか先で、先ほど俺が振り切ったミハイルと博賀の集団がこちらに向かってくるのが見えた。
トーラス軍との戦闘も始まっているようでその対処をしながらの進軍であった。
「どうするの?」
「何もかわらない。俺は俺の優先事項を強行する」
祭壇に体を向きなおし、改めて歩を進める。
「メシュア教主・・・・いや、カノンと言ったな。オマエはどれだけの未来が見えている?」
「・・・・。」
「まだ具体的に見れていないんだろう。そもそもお前の細胞質は高質にまで至っていないレベルのものだ。アーツも使いこなせていないから、見れるのはせいぜい概念程度だろ」
「それが・・・・なに?」
「ギアーズ重工が大転移を止めたい理由はなんだと思う?」
「それが聖なる儀式だから」
「転移エネルギーのしわ寄せを他国に集めるためなんだよ。その先にあるのはモスクワで起きた悲劇をを競争国にもたらして破滅させる事だ」
「破滅ではない、私たちは神の降臨をもたらす」
「そうだな、それは確かに神と言える。でもそれはやっぱり異生物だよ。神級の異生物だ」
「異生物?」
「しわ寄せで溜まった転移エネルギーは強大な異生物を転移させられるようになる。ロシアの敵国はそれで確実に壊滅できるだろう。だが神級は誰にも制御できないぞ」
「なんでアナタはそんな事を知っているの?」
「お前の未来視の異能が・・・・俺の中にあるからだ」
俺が未来で得る事になっている、細胞同期は、取得対象の存在と出会った瞬間に未来異能細胞の同期条件が満たされる。
麒麟の加速神経、菊池和馬の衝撃波《ショックウェーブ》。
・・・・そして、この少女の『未来視』。
俺は会話をしている中でこの未来視を発動する事が出来るようになっていた。
それはこの少女からマギドプラズムを得るという・・・・未来の死を意味する。
「・・・・キミは今すぐに死ぬ必要なんてない。そのアーツは別の子が引き受けるよ」
「そんな子・・・・知らない」
「君と同じ女の子だ。明るくて元気で・・・・いつもみんなを笑顔にしてくれる子。きっと友達になれるよ」
「私と・・・・同じ・・・・?」
そう、必ず会わせてあげよう。
そのために俺はここまで来たのだから。
身体強化・・・・ブーストトリガー、全開!!
俺は少年少女の適合者達ですら目に止められない程の体移動を発動した。
高速で彼らに差し迫り、異能の空中跳躍を使わずとも、一段飛びで頭上を通り越していった。
エレメンタルアーツを持つ少女の手元まで辿りつき、奪取した。
ついにその目的の対象物を奪い取る事に成功する。
何重にも張った計画がこの瞬間に実を結んだ。
俺は止まる事なく、彼らを通り過ぎてもそのまま距離を取り、虚層塔へ向かって突き進む。
誤算だったのはエレメンタルアーツ本体の力が俺にも発動出来てしまった事だ。
異粒子の結晶体であるアーツはただ持っているだけで無尽蔵のエネルギーを俺に対して供給してくる。
「やばい・・・・膨大すぎて・・・・制御が・・・・出来ない!!」
俺は体が壊れる事を覚悟して、この膨大なエネルギーの行き先を、すべて身体強化の燃焼へと回した。
結果として加速神経よりも増幅された身体強化となり、俺は何度も転げながらそれでも止まらず高速で虚層塔の麓まで走り続けた。
そして叫んだ。
「ホークス!!約束を果たす・・・・俺を転移しろ!!」
アドレナリンで痛みに鈍感になっている筈が、それでも全身がひび割れていく感覚に襲われた。
それほどのエネルギーが体に流れている。
虚層塔がもう目の前に立ちはだかる。
だが走りは止めない。
日の光を受けない漆黒の壁に向かって衝突してしまう事も考えず走りを止めなかった。
もう時間があとどれくらい残っているのかわからない。
時間の経過が確率を低下させてしまうものかもわからない。
もう、彼女を・・・・
「花凛ちゃんを元に戻せ!!!!」
そしてぶつかってしまうその瞬間・・・・俺の見えていた視界は湾曲して歪み、暗闇へと景色が変わる。
そしていくつもの世界が・・・・宇宙が・・・・俺の中を何度も通り過ぎていった。
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