地球は異世界に侵されました ~黄昏れた世界で見つけた大切な場所

七梨黒狐

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第6幕 世界の優先順位

36 階級の定義

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 A級適合者を倒した先では銃弾が目の前で飛び交う兵士同士による戦術へと展開していく。

 俺と同行している警視庁管轄の工作員達は、この一連をロシア企業のテロ行為と捉えて動いていた。
 その先にあるネオズ教団の未成年を保護する、という事も目的のひとつだ。

 だが日本国内における銃撃戦などこれまでほとんど起きていない事から、経験値という点で軍事国家であるギアーズ側に分がある状態だ。

「これではキリがないな」
 一進一退の部隊戦の攻防が続く事に如月は戸惑いを見せていた。

 だがこの硬直状態は戦略のための時間稼ぎである。
 現状を打破出来たのは斎藤譲治が率いている部隊の合流が間に合った事から状況が逆転した。

 側面からの奇襲。
 8人の兵を引き連れた斉藤譲治がこの戦場に参加した。

「遅くなった、こちらからも突入する」

 虚層塔を挟んで俺たちと反対側、東側からの突破に成功したトーラス私兵部隊。
 これで挟み撃ちが成立し、虚層塔研究エリアへ向かうための最終防衛ライン攻略に至る。
 敵側の残党を降伏させるまでに追い詰めた。

「中央部を抑えました。これで防衛ラインは完全に鎮圧、制御下に治めました」

 無線からDIAC部隊の制圧完了の報告を受け、合流した斎藤さんと対面する。

「斎藤さん、突破出来て何よりです。おかげで戦術が成功しました」

「ああ、お前達の方こそ、こんなに早く突破していて驚いたよ」

「東側のDIAC部隊に適合者はいましたか?」

「こちらにもA級の厄介な奴がいた。だがこちらにはトーラスの適合者をつけていたからな。ありったけをぶつけて数で圧倒出来た」

 斎藤組は4人の適合者を引き連れていた。
 斎藤同様にB級の者が二人もいる。

「どんな異能でしたか?」
「真空使い・・・・。障害物を通り越して切り裂く能力だった。射程範囲も広くて骨が折れたよ」

 詳しく聞いてみると、射程は広くとも連写性や同時射出数が少ないタイプだったようだ。
 複数人でのB級身体強化者に包囲されればA級適合者と言えども叶わない異能だ。

 対して、俺が戦った重力制御の異能は対多人数能力であった事から、複数のB級適合者がいても対処出来なかっただろう。
 俺の異能特性によって勝負がついた。

 今回の対戦カードは偶然にも俺たちに優位な組み合わせとなり、都合の良い展開に進んでくれた結果だ。

「ここからは掃討戦、といきたい所だが?」

「敵を殲滅させるのが俺の目的ではありません。達成に殲滅が効率的ならそうしますが、エレメンタルアーツがすでにこの近くにある以上、最速でそこを目指します」

「そうだな。じゃあお前はそのポイントに真っ直ぐ向かえ。俺たちは周囲を包囲して、自陣の防衛圏を作る」

「はい、ここからはどんな展開になるか予測がつきません。ギアーズ重工とネオズ教団の企みが実現した場合は、臨機応変に対処してください。撤退も想定のうちに」

 さらに終末大転移、エレメンタルアーツの暴走、それぞれが大災害に至る事象だ。
 現戦況は完全にこちらに分がある展開だが、それを一変させる程の混乱状況となるりうる

 ここから先は予測不能の戦線と考えて動くべきだろう。

「わかっている。お互い死なずにまた明日を迎えよう」

「・・・・いってきます」

 俺はその誓いには答えられず、ただその言葉だけを放って単独で虚層塔へと向かった。

 俺は自分の目的のためにこの人たちを犠牲にする事を選んでいる。
 警視庁特殊部隊、トーラス工作員、すでに多くの死傷者が出ている。
 死なないでください、などと善人ぶった事を口にする資格はない。

 俺に出来る事は目的達成時に副次的に成立するトーラスのメリットと日本の治安維持だ。

 ギアーズ重工の独占する異世界資源を開放する事で各国に均等の競争状態が生み出される。

 この、未来に向けたバランス作りに対して理解してもらう事は難しいだろう。

 それで何かが償われるとも思ってもいない。
 別種のエレメンタルアーツ取得への協力もただの交換条件でしかない。

 人の生死を受け持つ上での身勝手な俺の言い訳だ。

 自分すらも騙して、己の行動に迷いが起きないように言い聞かせている。
 今はこれでいい。苦悩や後悔は後にまわす。

 軍器が積み重なっていたエリアを抜けると有明地帯特有の開けた敷地が広がる。
 その中心地に、まるで昔からそこに居座っていたかのように平然とした違和感として虚層塔がそびえ立つ。

 そのふもとには特設されたギアーズ重工の数十名の弊社と実験設備、そしてネオズ教団の集団が合流していた。

 寒気のする組み合わせだ。
 特にネオズ教団は科学的でなく、事業的目的でもないため俺の思考が巡らない相手だ。
 スピリチュアル系は専門外・・・・。

 俺たちからの襲撃を受け、周囲が侵攻されているにも関わらず彼らは気にせずに行動を続けていたようだ。

 この余裕はなんだ?

 俺は少し高台に設置された軍器の箱の影に隠れそこから見おろす形で監視していた。

 そこはまるで式典を開催しているかのように教団の幹部が信者を引き連れて歩いている。
 そして軍服を来た、おそらくギアーズの司令官であろう男のもとへと辿りつき握手を交わした。

「教団側の男・・・・アイツは新宿虚層塔で会った男だ」

 白スーツで着飾った30代後半の男。
 異能適合者である。

 エヴァの調べで名は博賀善次、適合者を教団信者の中から大量に生み出し、ネオズ教団の実質トップ幹部となった男だ。

 いくつかの言葉を交わしている。
 ここからじゃ聞き取れないな。

 異能を発動して聞き取るか?
 ・・・・そう思った瞬間。

 ネオズ教団の博賀は何かを司令官に伝えて笑った。
 そしてこちら側を指さす。

 司令官も笑い顔で俺の方に顔を向けた。

 バレた?
 ・・・・察知されていたか!

 教団側の数は、圧倒的に少ないはず。
 それなのにギアーズ側からは見つからず教団のアイツに見つかったという事は、誰かサーチ系の異能適合者がいるのか。

 ・・・・もしくはこれも教主の見識能力か?

 俺は物影に潜み沈黙を守っていた。
 だが、こちらに向けて攻撃の手が伸びてくることはなかった。

 しばらくの間が続いたあと博賀は、物の影に隠れている俺に対して手招きをしてきた。

 DIACの傭兵部隊に続いて宗教団体までもが俺に交渉事か?

 エレメンタルアーツがまだ視認出来てない以上、ギアーズの兵士によって厳重に包囲されているこの場では待ち伏せを続ける他ない。

 いや、終末大転移が始まってしまえば大局が混乱に陥ってしまう。

 それはエレメンタルアーツ奪還という点において長期化する事はこちらの分が悪くなる。
 事態を前進させよう・・・・。

 俺は立ち上がって両手を上に上げながら歩みを進めた。

 博賀も司令官もニヤニヤと笑いながら迎え入れてくれている。

「やあ悠希君、ご健勝でなによりだよ。新宿ではお世話になったね」

 博賀の方から声をかけてきた。

「世話になったのはこっちの方だろ。異粒子適合したばかりの子供を戦わせてきて。能力実験に付き合わされたこっちはケガを負わされたんだからな」

「いやいや、まさかあの子が異能まで授かっていたとは思わなくてね。少し遊び過ぎたと思っているよ」

 謝罪もなければ悪気もないらしい。
 目を細め、歪んだ笑い顔をこちらに向けてくる。
 そこへ隣にいたロシア人司令官が入ってきた。

「私はギアーズ重工のミハイル・グラシモフだ。君がテレキネイサーを倒したという事は聞いてイル。中々信じられない所ではあるガネ」

 日本語が堪能な人のようだ。
 既に俺の事は知っているようなので事後承諾は省いた。

「主力を欠いてしまう形になりましたかね?」

「いやいや、DIACは傭兵組織。我々からすればただの下請けの立場ダ。指示した事をこなしているなら内情がどうあれ感知はシナイ」

 あのDIACを駒扱いか。
 さすがは親会社、懐が深いな。

 ということはこの周りにいるのはギアーズ直属の私兵であってDIAC傭兵団ではなきのか。
 どうりで装備が違うわけだ。

「ならば俺をどうするつもりだ?現状俺はギアーズに銃口を向けられて、いわば捕虜の状態にあると見えると思うが」

「ハハハ、一見すると確かにそう見えるナ。だが、君は内心そうは思ってはいない。そうだろう適合者。私は君を過小評価しないヨ」

「・・・・まあ俺はDIAC支部長の永井と同じ級らしいですからね」

「ふむ・・・・当初設定していた定義づけももう古いナ。A級といえど幅が広くなりすぎタ。上限が高まり続けて下限の者との差が広がりすぎてしまったカ」

「ミハイル司令官、それは新規階級設立の事ですね?」

「ああソウダ、では悠希遙。せっかくだから君をS級の認定者第一号としようじゃナイカ」

 パチパチパチ
「おめでとう、悠希君。さすがDIAC戦線を突破しただけあるね」

 なんだこの茶番は。話の展開が前に進まない。
 呆れている俺の顔に対してニヤつきを止めたミハイルは神妙な面持ちで話を切り替えてきた。

「さて、悠希君。ひとつ聞かせてくれ」
「なんだ?」

「キミはこの異界化した世界をどう考えてイル?」

まるで面接の試験官のような質問だ。
こんなものいくらでも答えようがあるだろうに。
俺は一考した結果、コイツらが喜びそうな回答を選んだ。

「・・・・。優生思想が広がる時代だと思っている」

「ほう、興味深い考えダ。君の年頃の者は人類が絶滅する時代を悲しんでいるのダガナ」

「詳しく聞かせてくれないか?我々の思想にも通じそうな話だ」

「おまえ達の思想?」

「要約するならば人類が地球の支配者であること、これを真実にしようというものだ」

「その願望とも共通してるかもな。異世界の浸食は人類よりも上位の生物がわかりやすい形で顕在化した。それをもし一部の人間でも超え返したのならば、その存在は優性遺伝子として優遇されるだろう」

「その者達が新たな時代の上級階級とナル、という予見か。なるほど、良い見識ダナ」

「そうしたら我々はその階級の人間となれるワケだ。おもしろい」

 共感どころか喜ばす事までさせてしまった・・・・。
 これはエヴァからの提案にあった雅一族を存続させる案にもあった事だ。
 だがそれは雅に限らずどの国、どの種族にもあてはめられる事だ。

 ミハイルはさらに言葉を続けた。

「産業革命から始まり、情報革命、知能革命と続いタ。そしてついに異界革命へと突入したノダ」

 話が世界産業の話にまで広がった。
 これいつまで続けるつもりだ?

「革命が進むごとに工業事業は影を潜めてくる。たが我々はこの機において――――」

「うるさい黙れ」

 俺は唐突に話の腰を折った。

「俺はあんたらと議論をしにここへきたワケじゃない。俺の目的はエレメンタルアーツ。俺を懐柔したいならそれを渡したあとにしろ。話はそれからだ」

 ミハイルは驚き、博賀はため息をついてあきれていた。

「ふう、思想は近くとも目的が対立すればこうも立場が遠のくのかね」

「君の思想ではこの世界で権威を持つ事が出来る立場なのダロ?富だってそれについてくるものでがないのかネ?」

「俺とあんたらとじゃあ目指している世界が違う」

「ならば我々と提携という形ならドウダ?」

平行線を辿るしかない思想の会話、それに目的が対立しているにも関わらず、不毛な議論を続けようとしていた。

おかしい。
この話合いに決着が着くことはないのになぜ続けようとする?
目的は・・・・やはり時間稼ぎか?

【身体強化】展開!

俺は身勝手に話を終わらせ、問答無用に奇襲を始める事にした。

 上級適合者である博賀を狙いナイフを突き出す。

 だがそれを予測していたのか博賀は瞬時に異能を発動し、実体を無くして俺の攻撃を交わした。
 朧気となり俺の攻撃を無効化する。
 ・・・・厄介な異能だ。

「ふむ、行動の切り替えも早く的確な判断だな」

 俺はすぐさま反対方向に向きをかえて、ミハイルにベアリングボールを投げつけた。

 しかしそれはミハイル自身により片手で止められてしまった。

 マジか?フツーの人間に出来る芸当じゃないだろ。
 キャッチする瞬間に金属音が聞こえたから義手か?

 俺は後ろへ後退し、二人から距離を取って構える。
 そして耳につけている無線で通信を始めた。

「如月、斎藤、攻撃開始だ」
「わかった。布陣が途中だが今いる人数的で開始する」

 俺は二人へと言葉を投げつける。

「武力で交渉させてもらう。あんたらの得意分野だろう?」

「オモシロイ。日本はいつの間にか好戦主義になったのダナ。我々の経験と計画に対してどんな対処手段を持っているか楽しませてもらオウ」
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