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第3幕 求め継ぎし者たち
18 それぞれの行き先
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目が覚めて見えたものはまたしても自分の部屋ではない天井だった。
「・・・またこれか。古雅崎の家の天井だなこれは。」
ひょっとしたら俺は最近毎日気絶しているんじゃないかと思えてきた。
頭がボーっとするが体を起こしてみる。
この感覚はだいたい1~2日間寝てた感じだな。
もう慣れたモノなので足を踏ん張ればフラつきながらも立ち上がる事ができる。
障子を開ける。
空は相変わらず異世界の大気で深い蒼色に染まっているが昼前の午前の陽気が気持ちが良い。
異生物と戦っていた事が夢だったようにも思えてくる。
異粒子エネルギーのオーバーヒートは仕方ないものの、幸いにも俺自身にケガはない。
あれからどうなったのだろう。
失神する直前に大霊術の発動と効果が成立していた事と、この屋敷の平和そうな空気が朗報を予感させてくれる。
道場の方から声が聞こえてきた。
こんな広い屋敷で届いてくる程の大きな声だ。誰かが稽古をしているのかもしれない。
廊下を歩いていくと敷雅がこちらを向いて立っていた。
手がギプスで固められている。
「起きたか。調子はどうだ?」
「まあ、あなたよりは元気だと思いますよ」
実際に異粒子による恩恵もあり、体の回復は常人よりも早いのだ。
敷雅は右手を見せてくる。
「これは俺も予想外であった。
異粒子に適合した霊樹木刀がもたらす力は強大でその反動を抑え込むには私の力が不足していたのだ」
どうやら異生物から受けたケガではなく、自身の武器使用による負傷だったようだ。
「じゃあ古雅崎も?」
「お嬢様に大事はない。
それこそ今も異粒子霊樹刀を使いこなすための修練をこなしておられる。
その力はこの異界化した世界での新たな希望と成りえるだろう。
男として生まれていらしたらこの雅をこれまでにない程に発展して頂けただろうにな・・・。」
遠い目をしだした。しきたりを憂いているんだろうな。
お家事情の事はよくわからんが是非頑張ってもらいたい。
「俺も雅の一族が発展してくれる事を望んでますよ。古雅崎は道場に?」
「ああ、友人と一緒におられる」
友人?雅の関係者か?
道場に入ってみると、・・・というか入る前から誰かわかった。
屋敷中に響きわたるかけ声は聞き覚えがある気がしていたのだ。
「せやっ!!はあ!!迷虚風帰衝!!どうだ!!」
そこには道着を身に着けた郷野がいた。
俺と同じくトーラス理工学研究所の治験で異粒子結合細胞、マギオソームに適応した同級生だ。
部活の道着を来ており、手には霊樹製と思われる木刀を持って振り回している。
柔道出身の人間だから武器の扱いは全くのド素人の様子だ。
まあ武道経験者ならそこに通じる部分もあるだろうが、それよりアイツ変性術名叫んでたな。
「あら悠希君、気がついたのね。もう出歩いて大丈夫なの?」
「ああ、古雅崎。悪いなまた世話になったみたいで」
「フフ、いいえ。眠りっぱなしのあなたのお世話をするのは楽しかったわ。」
「・・・それは、なんだか複雑な気分だな。で、なぜアイツがいるんだ?」
「あら、アナタと同じエヴァの会社の薬による適合者なんだから拠点を同じ雅の屋敷にしてもらおうと呼んだのよ。その方が都合がいいでしょ?」
「俺はいつのまにこの家が拠点になっていたんだ?」
まあ正直この屋敷は居心地が良いから住まわせくれるというなら喜ばしい事なんだろうがな。
「おお!悠希!起きたのかー!!」
「声がうるせー」
「がはは、すまんすまん。無事でよかったぞ。
オマエの方はなんだかいろいろ大変だったらしいな」
「そんな一言で片づけられないほどホントに大変だったぞ」
麒麟討伐の後、エヴァの会社での襲撃で死にかけて、目が覚めて今度は大猩々との死闘だ。
その前に敷雅との試合もさせられてたな。
こんな連続で災難が起こってでよく五体満足でいられたものだなと自分でも不思議に思う。
「がはは、だが安心しろ!オレが来たからにはもうオマエ達に苦労はさせない。
オレが悪の存在を全部引き受けてやるからな!」
その自信は一体どこから来るんだろうか。
このポジティブシンキングは正直憧れる所でもあるな。
「郷野君!まずは霊樹の一体感覚を得る所からよ。
変性術はその先の先にあるのよ」
「悠希は1日で3つも体得したと言っていたじゃないか」
「素振り3000回追加」
「ひいいいいいい」
なんだか楽しそうである。
「意外と郷野と気が合っている様子だな」
「んー・・私の言うことは全部素直に聞いてくれるわね」
「だったら雅の存続に向けて・・・エヴァの言っていた、子作りの対象者は俺じゃなくて郷野でもいいだろ」
「え・・・いえあの、それは・・・彼には、知的さの方がちょっと足りなくて・・・」
「・・・アイツが婿入りして次期当主になったら、それこそ存続の不安が続きそうか」
すると敷雅が急に横から突っ込んできた。
「例えおまえ達の血を受け継ごうとも、お前たちが当主になる事はない! なるのはその子共である!」
オマエはいつもどこかに潜んでいるんだな。
「まあそういうことよ、あなたは私に子種をくれさえすればいいわ」
「俺は種馬扱いか!」
「悪い話ではないと思うんだけどなあ。ヤリ捨てOKを本人が公認しているわけなのよ?」
「おまえはたまにビッチな言動をするよな」
「疑われるのは心外だから言っておきますけど、私ちゃんと処女ですからね」
「なおさら重いわ!」
死闘を経て、気が晴れやかになり戦友としてお互いに軽口が叩けるようになっていた。
敷雅も俺に対しての態度が柔らかくなっている気がする。
「お嬢様と我々はこれからあなたを守っていく事を決めた。
先ほど口にした雅の発展を望むという旨、こちらからも尽力を願おう」
「勝手に俺を守り始めるな!この件は保留だ。
今の俺にはそんな大それたものを背負える程の覚悟はないっ」
「それでいいわ。
だからアナタがこの異界化世界で死んでしまわないように私たちが守るの。
悠希君がくれた二本の異粒子霊樹刀でね。」
古雅崎の傍らには黒くなった木刀と薙木刀があった。赤い血が酸化して黒くなったのだろう。
「ふー、まあこの家には企業襲撃の時に助けられた恩があるから無下にはしないが、もう異生物相手に同じような無茶はするなよ」
自分で言っていて違和感で笑えてしまう。
俺はこんなに人の事を気遣う人間ではなかったのに。
世界が滅茶苦茶になってからの方が人間らしくなる事もあるとはおかしな話だ。
「ふふ、無茶をするのはアナタの方でしょ。
でも・・・おかげで助かったわ。
今回の事、そしてこれからに向けても・・・本当にありがとう」
古雅崎が俺の目を見つめてくる。
道場の窓から差し込む光が彼女を照らし、黒髪と黒い瞳が美しく輝いて反射している。
その澄んだ目でずっと見られているとなんだか照れてしまったのでその場をあとにする事にした。
「俺は家に帰るよ。じゃあな、また連絡する」
---------------------------------------
屋敷を出て神社エリアの境内に立つ。
壁には霊樹箒が立てかけてあった。
俺が使っていたヤツだな、コイツには随分と助けられた。
「んふふ、その武器も異粒子適合霊樹武器にする事が出来るよ~」
エヴァが近くに立って話しかけてくる。
「いや、いい。俺はこれの副作用がおそろしい」
「副作用?へ~そんなものあるんだ。」
「なんでもない。とりあえず俺がコイツを持って歩く事は滅多にない。
変性術は戦略的に効果的なシーンはあるんだろうがどうもエネルギー効率が悪いように感じるんだ」
「へー、それは興味深い検証結果だ。
雅の者にとっては新しい画期的な対異生物武器になるけど異粒子適応者にとってはベストではないって事なんだね?」
「もっと最適化されたエネルギーにしないと・・・なんだろうな、
石油を原油のまま使うのではなくキチンと精製して用途に合わせてガスやガソリンに使い分けられるといいって感じの?」
「なるほどね、言いたい事はわかるよ。それを実現出来てるのがエレメンタルアーツなんだ。」
「・・・へー」
「手元にはもうないからどうにもならないけどね。
でもそっか。それなら異粒子適合霊樹刀は適合者向けに量産する必要はなさそうだね」
「量産?どうやってするつもりだったんだ?」
「大獣級大猩々はその活動を停止しているけど、生命体としてまだウチの研究所に存在しているんだ」
「死んで気化したのかと思ったが・・・まだ生きていたのか?」
「動き出す事はないよ。自我がない植物状態。
だからそこから血液を利用する事が出来るんだ」
「それでマギア霊樹刀の量産か」
「いや、それだけじゃない。
異生物は死後その姿を流体気化して消滅してしまう事からこれまで生体調査が一切出来なかったんだ。
だからこの検体の価値は世界を見渡してもとてつもない価値を持っている」
「魂だけを消し去る技なんて世界中のどこを探しても中々ないだろうからな」
「現代科学を扱う僕らには魂の存在を定義してはならないんだ。
国は今回の件を脳死として取り扱っていて僕らはそれに反論が出来ない。」
「これだけ異世界とか霊樹とか認めておいて魂はダメとか・・・今更何を言っているんだ?」
「それは大猩々の取り扱いでトラブっているからなんだ。
この貴重なサンプルの保有者について僕たちはいま国とモメている最中。」
「トーラス理工学研究所と国がか?」
「正確には警察庁。対異世界災害部だね。」
「婦警の如月が所属している所だったよな。」
「彼女が撃った左目への狙撃によって討伐が成されたという主張を対策部はしてきているんだ」
「だから脳死か。けど異生物の特性からして植物状態で維持される根拠としては成立しないのにな」
「むこうもそれを分かって言っているさ。大猩々 の研究は異化世界の主権を握るためのワイルドカードだからね」
「政治の事はわからんからもうそこまででいい。俺がそもそも知りたかったのはもっと基本的な事だったハズだ」
「そうだったね。ちょっとまたトーラス研究所に寄ってく?」
「あの場所は若干のトラウマが少しあるからまた今度にしておくよ。
そうじゃなくて・・・ギアーズ重工の動向は?近い時期俺への襲撃はありえるか?」
「可能性で言えば0ではないだろうけど。
でも彼らは今エレメンタルアーツの研究やセキュリティを一番にしているワケだから、
今ここで攻撃的な動きをするとは思えないよ。むしろあっちが逃げる側になっているんだ」
「なら安心だ。」
「あ!君いまから観咲家にお邪魔するつもりだね!?僕もいくーーーー!!」
「ついてくるな!オマエがいると団らんの空気に血生臭い話題が交ざっちまう!」
「そんなー僕もあそこの料理食べたい~」
結局俺はエヴァと二人で神社の長い階段を下りて、午後の昼下がりの街道を観咲家の家まで歩いていった。
こうして連続して続いた波乱万丈は過ぎ、しばらくの平穏が俺の周りに訪れる事となった。
そして俺はこの日以降、本格的な異界浸食現象についての調査に乗り出す事となる。
「・・・またこれか。古雅崎の家の天井だなこれは。」
ひょっとしたら俺は最近毎日気絶しているんじゃないかと思えてきた。
頭がボーっとするが体を起こしてみる。
この感覚はだいたい1~2日間寝てた感じだな。
もう慣れたモノなので足を踏ん張ればフラつきながらも立ち上がる事ができる。
障子を開ける。
空は相変わらず異世界の大気で深い蒼色に染まっているが昼前の午前の陽気が気持ちが良い。
異生物と戦っていた事が夢だったようにも思えてくる。
異粒子エネルギーのオーバーヒートは仕方ないものの、幸いにも俺自身にケガはない。
あれからどうなったのだろう。
失神する直前に大霊術の発動と効果が成立していた事と、この屋敷の平和そうな空気が朗報を予感させてくれる。
道場の方から声が聞こえてきた。
こんな広い屋敷で届いてくる程の大きな声だ。誰かが稽古をしているのかもしれない。
廊下を歩いていくと敷雅がこちらを向いて立っていた。
手がギプスで固められている。
「起きたか。調子はどうだ?」
「まあ、あなたよりは元気だと思いますよ」
実際に異粒子による恩恵もあり、体の回復は常人よりも早いのだ。
敷雅は右手を見せてくる。
「これは俺も予想外であった。
異粒子に適合した霊樹木刀がもたらす力は強大でその反動を抑え込むには私の力が不足していたのだ」
どうやら異生物から受けたケガではなく、自身の武器使用による負傷だったようだ。
「じゃあ古雅崎も?」
「お嬢様に大事はない。
それこそ今も異粒子霊樹刀を使いこなすための修練をこなしておられる。
その力はこの異界化した世界での新たな希望と成りえるだろう。
男として生まれていらしたらこの雅をこれまでにない程に発展して頂けただろうにな・・・。」
遠い目をしだした。しきたりを憂いているんだろうな。
お家事情の事はよくわからんが是非頑張ってもらいたい。
「俺も雅の一族が発展してくれる事を望んでますよ。古雅崎は道場に?」
「ああ、友人と一緒におられる」
友人?雅の関係者か?
道場に入ってみると、・・・というか入る前から誰かわかった。
屋敷中に響きわたるかけ声は聞き覚えがある気がしていたのだ。
「せやっ!!はあ!!迷虚風帰衝!!どうだ!!」
そこには道着を身に着けた郷野がいた。
俺と同じくトーラス理工学研究所の治験で異粒子結合細胞、マギオソームに適応した同級生だ。
部活の道着を来ており、手には霊樹製と思われる木刀を持って振り回している。
柔道出身の人間だから武器の扱いは全くのド素人の様子だ。
まあ武道経験者ならそこに通じる部分もあるだろうが、それよりアイツ変性術名叫んでたな。
「あら悠希君、気がついたのね。もう出歩いて大丈夫なの?」
「ああ、古雅崎。悪いなまた世話になったみたいで」
「フフ、いいえ。眠りっぱなしのあなたのお世話をするのは楽しかったわ。」
「・・・それは、なんだか複雑な気分だな。で、なぜアイツがいるんだ?」
「あら、アナタと同じエヴァの会社の薬による適合者なんだから拠点を同じ雅の屋敷にしてもらおうと呼んだのよ。その方が都合がいいでしょ?」
「俺はいつのまにこの家が拠点になっていたんだ?」
まあ正直この屋敷は居心地が良いから住まわせくれるというなら喜ばしい事なんだろうがな。
「おお!悠希!起きたのかー!!」
「声がうるせー」
「がはは、すまんすまん。無事でよかったぞ。
オマエの方はなんだかいろいろ大変だったらしいな」
「そんな一言で片づけられないほどホントに大変だったぞ」
麒麟討伐の後、エヴァの会社での襲撃で死にかけて、目が覚めて今度は大猩々との死闘だ。
その前に敷雅との試合もさせられてたな。
こんな連続で災難が起こってでよく五体満足でいられたものだなと自分でも不思議に思う。
「がはは、だが安心しろ!オレが来たからにはもうオマエ達に苦労はさせない。
オレが悪の存在を全部引き受けてやるからな!」
その自信は一体どこから来るんだろうか。
このポジティブシンキングは正直憧れる所でもあるな。
「郷野君!まずは霊樹の一体感覚を得る所からよ。
変性術はその先の先にあるのよ」
「悠希は1日で3つも体得したと言っていたじゃないか」
「素振り3000回追加」
「ひいいいいいい」
なんだか楽しそうである。
「意外と郷野と気が合っている様子だな」
「んー・・私の言うことは全部素直に聞いてくれるわね」
「だったら雅の存続に向けて・・・エヴァの言っていた、子作りの対象者は俺じゃなくて郷野でもいいだろ」
「え・・・いえあの、それは・・・彼には、知的さの方がちょっと足りなくて・・・」
「・・・アイツが婿入りして次期当主になったら、それこそ存続の不安が続きそうか」
すると敷雅が急に横から突っ込んできた。
「例えおまえ達の血を受け継ごうとも、お前たちが当主になる事はない! なるのはその子共である!」
オマエはいつもどこかに潜んでいるんだな。
「まあそういうことよ、あなたは私に子種をくれさえすればいいわ」
「俺は種馬扱いか!」
「悪い話ではないと思うんだけどなあ。ヤリ捨てOKを本人が公認しているわけなのよ?」
「おまえはたまにビッチな言動をするよな」
「疑われるのは心外だから言っておきますけど、私ちゃんと処女ですからね」
「なおさら重いわ!」
死闘を経て、気が晴れやかになり戦友としてお互いに軽口が叩けるようになっていた。
敷雅も俺に対しての態度が柔らかくなっている気がする。
「お嬢様と我々はこれからあなたを守っていく事を決めた。
先ほど口にした雅の発展を望むという旨、こちらからも尽力を願おう」
「勝手に俺を守り始めるな!この件は保留だ。
今の俺にはそんな大それたものを背負える程の覚悟はないっ」
「それでいいわ。
だからアナタがこの異界化世界で死んでしまわないように私たちが守るの。
悠希君がくれた二本の異粒子霊樹刀でね。」
古雅崎の傍らには黒くなった木刀と薙木刀があった。赤い血が酸化して黒くなったのだろう。
「ふー、まあこの家には企業襲撃の時に助けられた恩があるから無下にはしないが、もう異生物相手に同じような無茶はするなよ」
自分で言っていて違和感で笑えてしまう。
俺はこんなに人の事を気遣う人間ではなかったのに。
世界が滅茶苦茶になってからの方が人間らしくなる事もあるとはおかしな話だ。
「ふふ、無茶をするのはアナタの方でしょ。
でも・・・おかげで助かったわ。
今回の事、そしてこれからに向けても・・・本当にありがとう」
古雅崎が俺の目を見つめてくる。
道場の窓から差し込む光が彼女を照らし、黒髪と黒い瞳が美しく輝いて反射している。
その澄んだ目でずっと見られているとなんだか照れてしまったのでその場をあとにする事にした。
「俺は家に帰るよ。じゃあな、また連絡する」
---------------------------------------
屋敷を出て神社エリアの境内に立つ。
壁には霊樹箒が立てかけてあった。
俺が使っていたヤツだな、コイツには随分と助けられた。
「んふふ、その武器も異粒子適合霊樹武器にする事が出来るよ~」
エヴァが近くに立って話しかけてくる。
「いや、いい。俺はこれの副作用がおそろしい」
「副作用?へ~そんなものあるんだ。」
「なんでもない。とりあえず俺がコイツを持って歩く事は滅多にない。
変性術は戦略的に効果的なシーンはあるんだろうがどうもエネルギー効率が悪いように感じるんだ」
「へー、それは興味深い検証結果だ。
雅の者にとっては新しい画期的な対異生物武器になるけど異粒子適応者にとってはベストではないって事なんだね?」
「もっと最適化されたエネルギーにしないと・・・なんだろうな、
石油を原油のまま使うのではなくキチンと精製して用途に合わせてガスやガソリンに使い分けられるといいって感じの?」
「なるほどね、言いたい事はわかるよ。それを実現出来てるのがエレメンタルアーツなんだ。」
「・・・へー」
「手元にはもうないからどうにもならないけどね。
でもそっか。それなら異粒子適合霊樹刀は適合者向けに量産する必要はなさそうだね」
「量産?どうやってするつもりだったんだ?」
「大獣級大猩々はその活動を停止しているけど、生命体としてまだウチの研究所に存在しているんだ」
「死んで気化したのかと思ったが・・・まだ生きていたのか?」
「動き出す事はないよ。自我がない植物状態。
だからそこから血液を利用する事が出来るんだ」
「それでマギア霊樹刀の量産か」
「いや、それだけじゃない。
異生物は死後その姿を流体気化して消滅してしまう事からこれまで生体調査が一切出来なかったんだ。
だからこの検体の価値は世界を見渡してもとてつもない価値を持っている」
「魂だけを消し去る技なんて世界中のどこを探しても中々ないだろうからな」
「現代科学を扱う僕らには魂の存在を定義してはならないんだ。
国は今回の件を脳死として取り扱っていて僕らはそれに反論が出来ない。」
「これだけ異世界とか霊樹とか認めておいて魂はダメとか・・・今更何を言っているんだ?」
「それは大猩々の取り扱いでトラブっているからなんだ。
この貴重なサンプルの保有者について僕たちはいま国とモメている最中。」
「トーラス理工学研究所と国がか?」
「正確には警察庁。対異世界災害部だね。」
「婦警の如月が所属している所だったよな。」
「彼女が撃った左目への狙撃によって討伐が成されたという主張を対策部はしてきているんだ」
「だから脳死か。けど異生物の特性からして植物状態で維持される根拠としては成立しないのにな」
「むこうもそれを分かって言っているさ。大猩々 の研究は異化世界の主権を握るためのワイルドカードだからね」
「政治の事はわからんからもうそこまででいい。俺がそもそも知りたかったのはもっと基本的な事だったハズだ」
「そうだったね。ちょっとまたトーラス研究所に寄ってく?」
「あの場所は若干のトラウマが少しあるからまた今度にしておくよ。
そうじゃなくて・・・ギアーズ重工の動向は?近い時期俺への襲撃はありえるか?」
「可能性で言えば0ではないだろうけど。
でも彼らは今エレメンタルアーツの研究やセキュリティを一番にしているワケだから、
今ここで攻撃的な動きをするとは思えないよ。むしろあっちが逃げる側になっているんだ」
「なら安心だ。」
「あ!君いまから観咲家にお邪魔するつもりだね!?僕もいくーーーー!!」
「ついてくるな!オマエがいると団らんの空気に血生臭い話題が交ざっちまう!」
「そんなー僕もあそこの料理食べたい~」
結局俺はエヴァと二人で神社の長い階段を下りて、午後の昼下がりの街道を観咲家の家まで歩いていった。
こうして連続して続いた波乱万丈は過ぎ、しばらくの平穏が俺の周りに訪れる事となった。
そして俺はこの日以降、本格的な異界浸食現象についての調査に乗り出す事となる。
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はてさて帰る事ができるかな…
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***********************
基本、ノリと勢いで書いてます。
どこかで見たような展開かも知れません。
暇つぶしに書いている作品なので、多くは望まないでくださると嬉しいです。
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