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第1幕 世界改変
06 不適合者の末路
しおりを挟む「現世に迷い込みし妖魔よ、我は境界線の守護血族、雅である。お前を虚無へと返そう」
痛いげな言葉が妙に板についている様子だった。
きっと毎日練習しているのだろうか。
せっかく端正な容姿なのに残念すぎるぞ。
地面に立てていた薙刀(木造り)を振り回し構えをとった。
殺気立った古雅崎に反応した麒麟はすかさず彼女を攻撃の対象とみなし構えだす。
だが俺が与えたバッドの打撃ダメージで動きが鈍くなっているようだ。
「雅流・ 薙閃 !!」
古雅崎 は薙木刀による突きを 麒麟 に見舞った。
その突きは麒麟の胴部分に刺しこまれる。
だが仕留めるには至らず麒麟は大きく吹き飛んだあと、そのまま態勢を立て直した。
古雅崎もそこから距離をとる。
オイオイ、武芸に秀でているって噂は聞いてたがここまで出来るヤツだったのか。
古雅崎の攻撃は無駄を削ぎ落した達人のような一閃であった。
しかし麒麟のやつまだゼンゼン動けていた。
もし郷野が向かっていたら返り討ちだっただろう。
コイツは使える。
俺は呼吸を整えてゆっくり立ち上がりながら尋ねる。
「古雅崎、それ木作りの薙刀だろ。なのになぜ斬撃が出来るんだ?」
「これはただの木刀ではなく太清霊樹の一振り。対妖魔用に作られたもの」
「つまりはそれでならアイツを切り刻めるんだな?」
「いいえ、妖魔相手なら質量がないから分断できるはずだった。私がこれまで相手にしていたものとは違っていたわ。どうやら異生物と戦うにはもっと仕込みが必要」
こいつの設定ではこれまでこういった戦いに明け暮れていたようだ。
ゴツ!
すると古雅崎は足元でうつ伏せしている郷野の頭をその木刀で突然殴った。
おいどうした?ついカッとなって八つ当たりか?
郷野は悶絶していた所に追い打ちされた形で意識が飛んだようだ。ピクピクとしていたが動きが止まった。
「一応聞くがそれはなんの行動なんだ」
「異粒子で変異したであろう人間の血を霊薙刀に取り込んでいるの。この刀があの馬と同世界の存在となる事で雅神式霊薙刀は本来の特性を異生物に対しても適応できるようになるわ」
古雅崎は首筋に流れ落ちる郷野の血を刃先ですくいとる。
よく見ると地面にも血が広がっていた。
そっちは今でた血ではない。
さっきから郷田が悶絶していたのは古雅崎が同じようにさっきから頭殴っていたせいか。
ひどい・・・・目的のためならコイツは冷徹になるやつだな。
まあ郷野。おまえは元気すぎるしちょっと血を抜いたくらいが丁度いいだろう。
そのまま刀の養分として活躍してくれ。
・・・と思ったらもう目が覚めたようだ。すぐに起き上がろうとする。
「ヒーローとしての矜持が、オレを尽き動かす・・・・!今こそ立ち上がる時なのだ!」
暑苦しいがまだ頭が揺れているようなので戦力に戻るには少しかかるな。
そういう間にも麒麟の回復が早く、すでに横歩きで古雅崎を周回し、飛び出す角度を見計らっている。
「雅流・華陣円転斬!」
おそらく技の名前であろう単語を口にし、構えていた薙刀を大きく回し始めた。
前後左右、上にも下にもだ。演舞のように美しく素早く回転させる様は見事に思えた。
それにしても技名は叫ばなければダメなのだろうか。
次の瞬間、麒麟の姿が消える。
身体能力の速さにより予備モーションもなく古雅崎への攻撃に移った。
しまった・・・・ブーストを発動する期を逃した。二回目の加速に体が拒否反応を起こしている。
衝突をしたあと、大きく距離をとった所に麒麟と古雅崎は移動していた。
ふたりはすれ違った形で立ち位置を逆転させている。
麒麟の肩口には切り裂かれた裂傷がついていてそれは一回目よりも深い傷であった。
適合者の血があれば効果が上がるのは本当のようだ。
いやそれよりも・・・・
「古雅崎のやつ・・・あのスピード相手に迎撃が出来るのか」
わずかに俺の認知加速が発動したので視覚で状況がとらえられていた。
古雅崎は俺のように麒麟の動きを見切っているわけではなかった。
あの高速に回転する薙刀、あれが全方位に無尽斬撃を繰り出していたのだ。
結果、鉄壁の守りでありながらも隙のないカウンター攻撃で麒麟の突撃を制した。
すごい・・・
イタイ奴ではあるが腕前は達人の域そのものだと思える。
だが古雅崎の顔は浮かない様子だった。
「まさかここまでの速さだとは思わなかったわ。華陣円転斬で仕留められないなんて・・・・」
手元を見る。
薙刀はどうやら今の一撃に耐えられなかったようで、持ち手部分からゴッソリとヒビが入っていた。
「もう使えないのか?」
「戦術に誤りはなかった。それでこの結果であれば私の力量が足りなかったということ。決して雅家の力がここまでだと思わないで。私は一族の中でも最弱・・・・」
また臭いこと言い出した・・・・
異生物を前に
①中二病発してる女子
②地面でもがいてるヒーロー気取り郷野
③バットをスイングする俺
・・・・・どんな地獄絵図だよ。
すると向こうのほうから猟銃を抱えた男子生徒が恐る恐る近づいてきた、
あれは・・・・有田?
あいつも治験で一緒だったヤツだ。
そうだ戦力になるかもしれない。
「彼のことは郷野くんから聞き出していたから風紀委員で探させてこちらに仕向けさせたわ」
小柄で細身の弱々しい男子が不安そうな顔で風紀委員らしき古雅崎の手下によって押し出された流れだ。
「ぼ・・・僕に銃なんか託されても撃ち方わかるわけないじゃないですか。ななな・・・なに考えてるんですか。」
ガタガタ震えながらテンパっている。
俺は近づいて声をかける。
「有野、昨日の治験から何か変わったことはなかったか?力が溢れるとか身体が丈夫になるとか」
「なにバカなこと言ってるんですか。あれは抗体薬の治験だって言ってたでしょ・・・・・え?君たちまさかそんなことに?え?え?僕なにも変わってないけど・・・」
これは・・・不適合のケースか?
「ずるい、その展開すごく主人公的じゃないですか!僕にもそのやり方教えてくださいよ!」
「いや、集中すると出来るくらいだ、たぶんおまえは・・・」
「そんな事言わないでくださいよ、ほらまだ僕には時間がかかるとかあるでしょ?」
たしかにその可能性はあるか?
「戦ってるときの刺激で覚醒したというのが俺のケースだったが・・・」
有田はそれを聞くとすぐ振り替えって麒麟に向かっていった。
「あなたの言う事を信じますよ、大きな刺激で発動する、なるほどとても主人公的ですね!可能性はありそうです」
「おい!」
有田は猟銃を構えながら歩いた。
持たされたものはショットガン。
害獣対策においてはこの日本において最も主力となる一般向け銃器だ。
細胞適合のことはさておき、有田がこのままあの銃で仕留めることを止めるべきではない。
「30メートル以内に近づいて銃筒を上げて、撃つ・・!」
管理者から渡されたときに説明されたであろう言葉を反復しながら有田は麒麟に近づく。
弾の有効射程内に入れば放射型の散弾が射撃の命中を保証する。
麒麟が先に動くことがなければ。
期待に沿う形で麒麟は動かなかった。
有田を驚異だと感じてないのだろう。
ついに30メートルに近づいた。
銃口は震えているが引き金を引く。
「くくくくらええええ!」
ドン!!
銃声と共に麒麟はその場から消えた。
横に大きく飛んで避けられた。
おそらく麒麟は俺と違ってブーストトリガーを常時発動しているのだろう。
銃弾すらも凌駕する生物。
軍隊が叶わない理由がわかる。
「いけない!」
有田はそのまま麒麟に突っ込んでいった。
まさか銃身で殴り付けるつもりか
「しねええええ!」
予想通り散弾銃の鉄部分を振り回し麒麟に迫っていった。
先ほどの古雅崎と違い、その動きは素人そのもの。
しかし、なぜかその攻撃が当たっていた。
「異世界といったら転生でしょ、転移でしょ!なんであっちがこっちに来るのさ!チートは?俺TUEEEは?なんでおれはこんななんだよ!」
心の叫びを口にしながら殴り付けている。
その動きがとてつもなく速いのだ。
常人を越えた麒麟に迫るスピード。
あれは異粒子エネルギー転換、身体強化だ。
しかも俺や郷野を凌ぐもの。
麒麟がたじろいでいるほどだ。
そして異常な事態に陥る
「ねえ悠希君、あれ・・・・有田君は・・・・大丈夫なの?」
古雅崎も気付いていた。
有田は善戦している。
達人でも適合者でもなく・・・・
『不適合者として』
力自慢の郷野を越すほどに身体強化はかかっていた。
しかしその代償はとても大きな犠牲を要する事となった。
ーーーー彼の顔は徐々に溶け、気体化していったーーーーー
戦いの刺激の中での覚醒というのは合っている。
俺はチンピラとの荒事で、
郷野は部活のトレーニング中だろう。
そして有田は今ここで。
特殊細胞不適合者、、、、
細胞が活性化し拒絶反応が全身で起こっているのか?
古雅崎からのある質問がずっとひっかかっていた。
ーーーーーー『力は、私にも得られる?』ーーーーーーーー
この力は果たして量産可能なのか。
副作用、適合条件・・・・・。
異粒子適合細胞実験はノーリスクではなかった。
不適合者の末路、細胞のメルトダウンだ。
古雅崎は親指を噛んだ。
それは決して、追い詰められた時の癖などではないようだ。
血の出たその手で薙刀を掴む。
薙木刀は持ち手部分から古雅崎の血で赤く染まっていく。
「私も命をかけるわ」
折れかけた薙刀を構えて歩きだした。
彼女の最後の一手だ。
待っていれば警察か自警団が間に合い麒麟を引き受けてくれるかもしれない。
「古雅崎、それは風紀委員長としてか?それとも一族の血盟としての行動か?」
「・・・たぶん、どちらでもないわ」
そういって走りだした。
まだ付き合いは少ないが初めてあいつの人間らしさに触れた気がする。
俺は落としていたバットを拾い上げた。
すると背負っていたバックからバットと一緒に入っていたものがこぼれおちた。
野球ボールだ。
有田の方は殴り付けをすでに止めていて、その場に膝をつきた。
それと同時に古雅崎が切り込む。
「雅神式霊薙刀・終尽転散斬!」
常人の動きではない速さだ。
有田を見つめていた麒麟がバッと後ろにとんだ。
これだ!!
それは偶然にもこれまで得られなかった隙であった!
空中でヤツは高速回避を起こせない。
「ブーストトリガー、全開!!」
加速意識を展開、俺は再び異能を発動した。
俺は折れ曲がったバットを力づくで戻し、手にもっていたボールを宙へ放る。
バットを両手に携えて、筋力強化した体をさらにフルブーストする。
狙うは麒麟のバックステップの先にある空中軌道線上にある頭部。
放った玉の軌道は遅いため、落下を待たずに高めのボールをフルスイングした。
そこに打撃の音はない。
玉の衝撃音が空気振動で耳に届く頃には結果が出ている時だ。
バットが玉に触れている瞬間、俺はさらに微調整をかける。
目だけではなく手の感触にまで神経を高めた。
高精度にミクロ単位で微調整する。
ブーストトリガーの真骨頂はこの認識能力の高精度化なのである。
ジャストミートして放たれた玉はブースト空間の中でも高速に直進した。
現実世界では銃弾並みのスピードで放たれているはずだ。
有田の散弾銃は避けられたが今は地に足がついていない状態。
ボールは狙い通りの軌跡を通り
そして麒麟の右頭部に直撃した。
そして時の流れが戻る。
麒麟は左手に体制を崩し、古雅崎の追従は踏ん張りによって即時に麒麟の吹き飛んでいる方向に転換、状況に合わせて応変した。
終尽転散斬は全身を回転させて放つ広範囲高速の連斬、追い詰められた麒麟はなすすべなく切り刻まれ血液を散らせながら空を舞っていく。
そして地面に身体ごと着地した時には二度と動く事はなかった。
決着がついた事がわかった。
身体が溶けだしそのまま気体へと変わって空気に溶けていった。
・・・・有田と同様に。
これが異粒子適合細胞を持つ生物の末路なのか、と思えた。
有田の姿は俺たちと同じ人間の姿であった事から見るに耐えられず、麒麟討伐の余韻を消し去るほどの状態だった。
古雅崎は薙木刀に吸い取られた出血による消耗で朦朧としているようだったが、溶けゆく有田から目を背ける事はなかった。
自分を当事者の一人として考えてしまっているのだろうか・・・・。
俺は顔をあげ深い蒼に染まる空を見ながら呟いた。
「エヴァ・・・・見ているんだろ。出てこい」
スっと・・・どこから来たのか姿をそばに現した。
「異性物の初討伐だね、おめでとう・・・」
どことなく、しおらしい雰囲気がする。
「麒麟は異生物の中でもレア。異能を持っているからね。異能持ちの死に際に発する粒子を取り込むことでその能力が得られるよ」
俺は麒麟のそばに立ってみた。・・・が何も起きなかった。
「なにもかわりはないな」
「まあ君はなぜかもともと取得してたみたいだしね。ちなみにそのコが近づいても取得はできないよ。雅の血は異粒子器官そのものを受け入れる事が出来ないからね」
「まるで私たちの事を詳しく知っているような口ぶりね」
古雅崎はムっとしだした。
そりゃそうだ、秘伝の一族だと本人は思っていただろうからな。
俺にペラペラ喋って、普段から秘刀持ち歩いてるのに。
「エヴァ、答えろ。薬剤投与によるマギオソーム器官の適合条件と確率はどれくらいだ」
「現在わかってる条件はこの3ヶ月に50ml以上の抗体薬、中和剤 を接種していない事、いわば生まれつき異粒子に中毒症状を起こさない者だね」
治験対象の条件に抗体薬の無接種というのがあったな。
「俺や郷野のような人間が今後、量産が可能なのか知りたい。投与して適合する確率は?」
「どれくらいだと思う?」
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