地球は異世界に侵されました ~黄昏れた世界で見つけた大切な場所

七梨黒狐

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第1幕 世界改変

03 異生物発現~誰も助ける気はない

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「第3事象。
 彼方の地からの異生物の来訪が始まる。
 彼らは様々な姿や知能を持ち、異粒子を媒体にした能力を持つ。
 この地を蹂躙する彼らこそ我々が求めていた存在である。
 ホークス= シノミヤ」



 ブラッドマンデーから
 正体不明の生物が世界中で現れたというニュースが飛び交い、人や都市を襲う事件が多発していた。

 コイツも例に漏れず襲ってくるヤバいヤツだ。
 一瞬でバット男は半身をもがれ絶命状態に。
 5発分をお返ししてやろうとしたのに。

 一見すると異生物がうら若き少女を助けた形に見えるが、ヤツは次の獲物としての照準を少女にかえていた。

 その姿は馬のように出で立ち。
 黄金の色のたてがみを生やし、麒麟きりんという幻想動物の姿に近かった。
 実体があるように見えてその姿は朧げ。

 どこか神々しさがあるものの、自分らに害をなす存在であることはその狂暴な雰囲気から感じ取れる。
 うん、逃げられる気がしないな。

 するとまたあの声が聞こえた。
『ねえねえ、どうする?このままじゃあの子死んじゃうね。
 助けるの?それとも見捨てるの?』

 声は背後から聞こえる。
 だが振り返ることができない。
 そんな余裕はない。

 この麒麟きりん(仮称)、から目を背ければたちまち襲い殺されてしまいそうだ。
 だから振り返らず答える。

「もともと誰も助ける気はない」

 俺は牽制のために飛ばしていた視線を緩めず、その場にスッとかがんだ。
 すると麒麟は少女に向けていた姿勢をこちらに向け、臨戦姿勢を取ってきた。

 よし、少女の方に声をかける。
「行きな。ここのことはもういい」

 これは決して人を救う行動ではない。
 単に襲われる順を変えただけだ。

 それだけで彼女は選択肢を持つ事ができる。
 この場に残って死ぬか、勝手に助かるか。

 彼女が襲われるよりも俺と対峙した方が時間を稼げると踏んだからだ。
 背後にいる声の主に打たれた薬剤が何か強壮剤のようなものなのかわからないが、呼吸をする度に頭部の傷みが弱まり体に力がみなぎって来る。
 半身を失ったバット男1のように簡単に殺られる気にはならなかった。

 さらに深く呼吸をしてみる。

 意識が研ぎ澄まされて、先程のような時間の感度が高まる感覚が展開した。

『やっぱり君はおもしろい思考をするんだね。
 正義の味方のような熱い気持ちがないのに結果的に自己犠牲に走るなんてさ』

 そういって声の主の存在は離れていった。
 俺は屈んでいた状態からクラウチングスタートの姿勢に移行していく。
 意識を研いでいくにつれて、また空気が重くなってくるがその状態でもおかまいなしに力ずくで前に動けるようにするための態勢だ。

 推測するに意識が加速されると時間の流れが遅く感じるゾーン状態に入る感じだ。

 野球部だった中学の頃、バッターボックスに投げ込まれたピッチャーの球がゆっくりと、縫い目まで見える瞬間があった。
 あの感覚と似ている気がした。
 空気や体が重く感じるのは意識の速さと同じ様には身体が速く動かせないからその分が身体の抵抗力のように感じるのかもしれない。
 けれどあの重い空間の中ならあの異生物の高速行動が認識でき回避策がとれる。

 瞬間、異生物「麒麟(仮称)」が光だした。

 合わせる形でこちらもゾーン状態に入ってみる。

 よし、うまくいった。

 視界は赤く染まり、スローモーション状態で麒麟がこちらに駆け出して来るのがわかった。

 しかし周りにいる静止したような人間達に対して、この異生物は等速に近い速さで迫ってきやがった。

 俺は重く不自由な体を全力で前に押し出し麒麟の正面、わずか斜めに向かって駆け出した。

 お互いに突進する形で、徐々に距離が縮んでいく。

 麒麟は大きく口を開け、生々しい口内を露にする。
 うげーグロい。

 軌道をズラして飛び込んだので正面衝突を避ける形を取れたものの
 向こうはこちら側に突進しようと横に軌道修正を行ってくる。
 このままではあの牙の射程に入り餌食になりそうだ。

 俺はあらかじめ片手にもっていたバットを両手に構え、突進状態から左足を前に出して踏ん張り、バッティングフォームに態勢を移した。

 先程のバットを拾っておいたのだがこれをフルスイングして打撃してやるつもりだ。

 よし!襲いかかってくる顔面にドンピシャなタイミング。

 等倍スピードで動く麒麟に対してこちらはスローモーション状態。
 だがスイングのスピードだけで言えばあの速さと同等に迫れる。


 だがそれを見抜いた麒麟が姿勢をかがめ始めた。
 紙一重で潜り抜けるつもりか。

 コイツ横移動だけじゃなく縦にも軌道を急転換出来やがるのか。
 なんて機動力だよ!

 ゆっくりと振られているように見えるバットの軌道を俺は無理矢理変えていく。

 頭の高さが下に向かった事にあわせて

 急落するフォークボールに対応するようにバットの先を下げ、

 すくい上げる流れでフ変化球をヒットさせる・・・よう・・・にっ!


ドゴオオオオオ

 顔面にバットを、ジャストミートさせた!

 打撃が長い重低音を轟かせる。
 ジュニアリーグでの代打王の名は伊達じゃないぜ!

 麒麟の顔をゆっくりと崩き、振り切った所で時間が等倍速にもどった。


 途端に麒麟は吹き飛び区役所の壁に激突した。
「ハア、ハア、あ~うまくいったぁ・・・・」

 頭がクラクラする。
 暴漢ヤローどもはバット男をかついで走り去っていた。
 少女の方は・・・・まだいた。
 腰抜かしているようだったがこちらに近づいてくる。

「まて、こっちにくるんじゃない!」
「え?」

「はやくここから離れるんだ!」
 急いで制止させた。

 右手にもってたバットはひん曲がっているが、おそらくは仕留めて切れてはいない。
 大型の獣を殴りつけた衝撃でこっちは全身が打撲状態だったが
 むこうのダメージが全然読めない。

 おそらくは重症だと思うが、せめて軽傷くらいは負ってくれてほしいものだ。

 姿を現した麒麟は毅然と立っていた。
 だが頭部からは血を流し、片足はひきづっているようだった。

「よし、バケモノじみたヤツだが攻撃は効いている。次の手を・・・・」


バッ


 すると麒麟は身を翻して建物の向こうへ飛び去っていった。

ーーーーーーーーーー。

 しばらく気を緩めずにいたがどうやら戻ってくる事はないようだ。

 俺は折れたバットを地面に落としその場に力なく座りこんだ。
 不思議と達成感がこみあげてきた。

「まさか助かるとは思わなかった・・・・」

 そうつぶやくと同時に俺の意識は遠のいていった。
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