暴走族のお姫様、総長のお兄ちゃんに溺愛されてます♡

五菜みやみ

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第二章 6月

体育祭 ②

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凜人と道弘が戻って来ると、二人は紀子さんに微笑みかけた。


「こんにちは、紀子さん」

「うッス!」

「こんにちは。二人は何の競技に出てたの?」

「俺は指導係でコイツがタイヤ運びに」

「指導係じゃなくて説教係だろ。 胴上げなんて俺等にしてみりゃ高い高いするのと同じだ」

「わー!! もっと! もっとー!」

「なんだ楽しいか?瑠輝?」

「たのしー!」


瑠輝は高い所大丈夫なのか。

道弘の身長は180くらいはあってかなり高いのに、更に持ち上げられても無邪気に笑っている。


「人それぞれダメな奴もいんだよ。
 まったく。ミチ、それ真依ちゃんに出来るの?」

「…………」

「ね。それに佐藤くん、身体つきガッチリじゃないんだから万一落としたら骨折だよ。下手したらそれ以上だってあるんだから」

「……スミマセンデシタ」

「よろしい」


おぉ、道弘が謝った。

凜人の真剣さが伝わったみたいだな。


「ふふっ。何があったのか分かないけど、勝ったのね。 おめでとう」

「ありがとうございます!」


紀子さんの笑顔に道弘もつられたように笑った。

真依と瑠輝もなんとなく話しが分かったのかパチパチと拍手をする。


「紀子さんは今日一日見ていくのか?」


それとも途中で帰るのだろうか。


「えぇ。──あ、そうだったわ。秋良くん、今日の夕飯は何食べたい?」

「あぁー。 まだ決まってないなら外食で、リンとミチも誘いたいな」

「外食なんて思いつかなかったわ。そうね、みんなと食べれるのは良いことね」


紀子さんってたまに不思議なんだよな。

毎日毎日、夕食を作る主婦の方が今どき珍しいと思うんだけど……。

俺の実のお母さんも月に1回は外食って感じだったし。



「春良くんも呼ばないとね。メールで良いかしら」

「アイツはちゃんと見るから大丈夫じゃね」


そう言って紀子さんがメールを打っていると、同じ競技に参加するクラスメイトが呼びに来た。


「秋良ー! 1500M集合だってよ!」

「おー」


もう最後の競技か。


「じゃぁ行ってくるわ。リン、ミチ。真依と瑠輝、頼んだぞ」

「おー! がんばー!」

「任せて行って来なよ」

「お兄ちゃんがんばって!」

「がんばれー!」


四人に見送られて俺は自然と口角が上がった。


まさか目の前でカッコイイ姿を見せられるなんて思わなかったな。

絶対に1位とってやろう。


身体に力が漲ってくるのを感じながら、俺は出場者が集まっているところへ向った。

前の競技が終わると、午前の部最後の種目に入る。

1500Mの参加者が入場口から待機場所へとぞろぞろと進み、一走者の五人がスタート地点に立ち並らんだ。

俺は二走者目だ。

一走者が走り終わるまで待機場所で他の生徒と座っていると、隣にいた同級生に話しかけられた。


「なぁ。テントにいるのって例のガキか?」

「ガキゆうんじゃねぇ。妹だ」

「あぁ、はいはい」


真依を貶しているような言い方に俺が睨みつけると、同級生の男_今井いまい 海璃かいりは呆れた様子で手を振った。

すると、実行委員が持っていたピストルの発砲音が響き、スタートラインに並んでいた五人が一斉に走り出す。

同クラスの奴を目で追いかけていた俺に、海璃は続けて踏み込んだ話を振って来た。


「──で、近くにいるのが再婚相手?」

「だったらなんだよ」


肯定すると海璃は目を輝かせた。

そして「へぇ」と言いながらニヤニヤ笑って話しをする。


「あの人がお前を変えた人か……」


間違ってはないが……。

言い方が誤解を生むようなイントネーションだ。


「そう睨むなよ。誰だって気になってることだぞ。ほれ、見てみろよ。
 殆どが校庭じゃなくて再婚相手と子供を見てる」

「…………」


言われた通り、テント下にいる一部の生徒が紀子さんや真依を見ていた。

しかも、一目見ようと通りすがりを装って近くまで見に来てる生徒もいる。

中でも女子生徒は、視線に気づいて振り向いた真依と瑠輝に手を振ってるようだ。

『天翔』のメンバーと遊んできた真依にとってはいつものことで、嫌な顔せずに手を振り返していて。

それに倣って、瑠輝も愛嬌たっぷりの大手振りで返しているもんだから、周りが騒々しい。

幼子の天使ぷりに女子が黄色い声を上げるのは無理もないかもしれないが、兄としてはあまり面白くない状況だ。


「あんまり人に懐かせるなよ、お兄ちゃん」


海璃の最後の一言に鳥肌が立つ。


「気色悪りぃな」

「ハハッ! あんなんじゃ誰かに誘拐されちゃうぞ」

「その為の凜人と道弘だ」

「まぁそうだな。けど、本人に警戒心がなきゃ意味がないぞ。気をつけろよ」

「……分かった」


海璃の言うことは間違ってはないんだろう。

だから素直に頷くことにした。

──けど、


「つぅか、なんでお前に言われなきゃならねぇんだよ」

「俺の彼女、レディース。お前の奴隷の姉の彼氏」

「……は?」


奴隷って言うのは、多分壱成のことだろう。

教室で姉の話しを偶々していたから直ぐに結びついた。

その姉の彼氏ってことは、長女か次女のどっちかになるが──。


「どっち?」

「一番上。今度家に招待したいってさー」

「……それは招待なのか…………」


それこそ攫うつもりだろう。


──なるほど。

確かに警戒心を抱かせて置いた方が良いかもしれねぇな。


レディース相手だと経ちが悪い。

凜人は女慣れしているが、俺と道弘はその手の界隈は専門外だ。


「忠告ありがとうよ」

「おう。妹の方は安心して良い。常識がある」


それは言って良いやつなのか。

お前の彼女ってどんなヤツだよ。


そんなことを思っていると、一走者の先頭がラスト一周になり、俺と海璃は準備運動を始めた。

その後全員がゴールすると、第二走者のメンバーがスタートラインに立つ。

校庭に出て来たからか、ふと正面の遠くのテントから少し出た所で甲高い声が聴こえて来た。


「お兄ちゃんちゃんがんばってー!!」

「がっばってー!!」


大きく飛び跳ねながら手を振る真依と瑠輝の姿に、俺は直ぐに反応して片手で振り返す。


「モテモテだなぁ」

「羨ましいか?」

「別に。格好悪いところ見せる羽目になるのは気の毒しかねぇな」

「……負けねぇし。誰に喧嘩売ってんだ?」

「お前こそ、誰に言ってんだ?
 オレ様は彼女から足腰扱かれてんだよ」


意味深とも捉えられるセリフに俺は眉をひそめる。

俺も男な分、どうにも気になった“足腰”のワードについ質問をしてしまった。


「どっちの意味だよ……」

「そりゃ下ネタに決まってんだろ。
 はぁ……。秋良が女っ毛がないのは、恋愛に興味がないだけじゃなさそうだな」


コイツ……!!

まじで泣かすッ!!


俺が睨みつけると、海璃は思った通りの反応だったのか、腰に手を当てて笑いだした。


「ブッハハハハハッー!」


まさに癇に障る高笑いだ。

イライラがMUXマックスに達していると物騒な雰囲気が出てしまっているのか、やっと来た実行委員の奴がぎょっとした後、怯えながらトランシーバーで本部とやり取りをしていた。

その様子に気づいた海璃が更に揶揄おうとして来る。


「分っかりやす!」

「うるせぇ。無駄口叩くな」

「不機嫌過ぎると、妹と弟に嫌われるぞー」


容赦のないとどめを刺すかのような言葉に俺はハッとして、真依と瑠輝を見ると、凜人が何かを教えているらしく、真依と瑠輝は真面目にソレを聞いていた。


「そろそろか……」


囁いた海璃の視線の先、本部から開始の合図が出される。

すると、面倒事に巻き込まれたくない実行委員のスターターがピストルを手早く構えて、声を張り上げる。

その様子に俺と海璃はどちらからともなく「負けねぇ」と言い放って腰を沈めた。


「よーい──」


_パァン


銃声と共にスタートを切った五人。

一斉に走り出したが、直ぐに俺と海璃が前に出て他の生徒三人と圧倒的な差をつけた。

1500Mと言う長距離走なんてことも構わず海璃とバチバチに火花を飛ばして全力疾走で校庭を駆け抜ける。



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