暴走族のお姫様、総長のお兄ちゃんに溺愛されてます♡

五菜みやみ

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Memory ①

その少女、懐く

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 その日、高校1年生だった俺は家の近くのホテルへと来ていた。

 ここのホテルは周りのホテルと比べて値が張るのだが、中には色んなレストランが入っているらしい。

 その為、ディナー目的に来る人たちも多く、入り口から入ってロビーに着くや否や、大勢の客人で混雑していた。


 ──スゲぇ、人。

 親父が先に来てるって言ってたけど、どこにいんだよ?


 周りは人。人。人。ばかりで、目が回りそうだった。

 最近、色々と面倒くさくなっていた俺はこんな大衆に慣れるわけもなく、父にメールして迎えに来てもらおうとした。

 パパッと短文で下に着いたことを伝えると、ちょっとした休憩所になっている近くのソファにどさりと座った。

 背凭れに寄り掛かると大きな溜め息が零れる。


 「ふぅ……」


 ──俺が今、ここにいるのには、もちろん訳がある。


 親父のヤツ、顔合わせって言ってたよな。

 お母さんが亡くなってからまだ1年たったばかりなのに、もう次の女かよ。

 いくら一番下が幼いからって見つけんの早くね?

 ──つか、女いた事に驚きだわ。


 父から知らされたのは一昨日の夕食の時だ。それは本当に、突然の報告だった。

 部屋に篭っていた俺の部屋へに、早いノックをして、返事も待たずに直ぐに入って来た父は、


『明後日、合わせたい人がいるんだ。秋良、当日はちゃんとホテルに来なさい』


 それだけ言って、サッと部屋から去って行った。

 話しをする気のない息子に対しての下策だったのだろうが、強行過ぎるその行動に入られたことへの苛立ちは行き場を失くし、唖然と口を開くしか出来ないかった。


 そんなわけで、現在ホテルにいるわけだが……。正直、すっぽかしたい気持ちはあった。

 母を失くして直ぐに他人の女を“母親”として迎え入れるなんて、俺は出来そうにないし、する気もない。


 一体、親父はどこでそんな女と出会っていたのか。

 浮気を疑った瞬間もあったけれど、小企業の社長として働く父の隣りには、大真面目な秘書が付いて、直ぐにその考えは打ち切られた。

 その秘書の男は時代錯誤なほど堅い人で。貞操概念も強い男だった。

 それに、お母さんと仲が悪かったわけでもない。


「…………」
 

 座りながら頭の中で、相手の女とその連れ子となる子供のことを考えていると、ふと一人の女の子が目についた。

 まだ幼い子供で、たまに人混みに埋もれそうになりながらも何かを探すように歩いている。

 その子の顔つきは感情がなく、広いロビーを行ったり来たりしてるのか、人混みの隙間から姿がチラホラと見受けられた。


 なんだ迷子か?

 困った顔をしてるわけでもねぇけど、はしゃいでる風でもない。

 ──あ゙ぁぁ、ウロウロと目障りだな。


 見たくもないのに、目に入ってくる少女の姿に俺は少しずつ苛立ちが増した。


「ハァ…」


 あのガキ、ぜってぇ迷子だろ。

 周りの奴等 気づいてねぇのかよ。


 俺は前屈みになり、膝に肘を付いて手の平に顎を乗せると、少女をじっと視線の先で追いかけた。

 一度気になるとどうしても目が話せない習性だった。

 すると、少女がフイと俺がいる方向を向いてきた。

 その瞬間。パチリ──と視線が合った。

 思いもよらない出来事に、俺はバッと視線を反らす。


 やべぇな。見てるの気づかれたよな……?

 アイツ、こっち来るか?


 俺はこれ以上、少女の事を見ないように携帯を弄りだすと、パタパタと足音が聞こえて目の前に誰かが立った。


 ──案の定とも云うのか。

 顔を上げると目の前には、赤いロリータワンピースに明るいブラウンの靴を履いている少女が立っていた。


「……ッ!?」


 近ッ…!!

 このガキ、近寄り過ぎだろ。

 つーか、マジで勘弁してくれよ。頼むからそのまま何も言わずにあっちへ行ってくれ……!!


「…………」

「…………」


 子供の面倒なんて俺はみたくねぇ。


 そう思って無言の少女に負けじと、俺は携帯に夢中になる。

 迷子の子供を引き取るボランティアなんて、もっての外だ。


「…………」

「…………」


 お互いに何も喋らず、ただ見つめ合うと云う沈黙がひたすら流れた。

 その時になって、違和感みたいなことに気付く。


 ──ん…?

 おーい。お前、ガキなら何か喋れよ。


 そんなことを思っていると、ふと俺が持っていた携帯がヴーヴーと唸りながら振動した。

 携帯の画面には受信メールの知らせが表示されいる。


 ……あぁ、弟からか。

 つか、目をそらしたのはいいけど、やべぇ……。

 このガキ、まだ居やがる。俺にどうしろってんだよ。


 そう思うと、ふと少女が動き出した。

 俺は視線を上げずに気配を追うと、隣りに来てはソファに座る。


 そう来たかァー!


「…………」

「…………」


 俺は居づらさを感じつつ、少女を無視するように弟のメールに返信を打ち始めた。

 それが終わったあとも、携帯のアプリゲームをし始める。


 それから五分後──。


 俺は携帯をポケットにしまいソファの背もたれに寄りかかると、少女が俺の足を膝枕にして横になった。


「ハ……?」


「…………」


 イヤ、イヤ、イヤ──。


「おい」

「……イヤ……」


 ぅお…?

 コイツ 今、喋った──の、か?

 声が小さ過ぎて聞こえづらかったんだけど。


 ────じゃねぇ!

 なんで俺の膝(太腿)を枕にして寝てんだよ!?


『ふざけんなっ……!!』


 そう言いたくなるのを俺はグッと我慢した。

 怒鳴って泣かられたら、それこそ厄介なことになりかねないからだ。


「オイ」

「……イヤ……」


 だから、イヤじゃねぇーんだよ!

 それに「イヤ」はこっちのセリフだっつぅの!!


 なんで俺、こんなに懐かれてんだ……??

 俺はただ見てただけだぞ。


 ガキってホントに良く分かんねぇ、と思いながら、ハァと溜め息を零した。

 脱力した俺に対して、少女はさらに頭を痛めてくる。


「……すー……すー……すー……」


 気持ち良さそうに眠る少女の寝息が聴こえて、俺の苛立ちはピークに達しそうになる。

 これ以上、何かやられたら引き剥がしてしまいそうだ。

 ……まぁ。寝たのだからそんなことも起きないだろうが。

 寧ろ、大人しくなって良い。


 そこまで考えて、また気付く違和感。


 ん──??

 いや、コイツ。さっきから全然喋べってねぇな。

 ガキってキャーキャーうるせぇもんだと思ってたんだけど。


 少女の寝顔を眺めて首を傾げる。


 一体、コイツは何なんだ?


 疑問ばかりが溢れ出したけれど、俺の脳内は既にいっぱいいっぱいで、もう考えるのが面倒になっていた。


 お陰で、少し冷静さを取り戻して、人畜無害な少女を放っておくことにした。


 少女につられて眠気がやって来て、欠伸が溢れた。

 人集りで騒がしい周りの声が、不思議と“遠くの声”に聞こえる。

 近くから聞こえるのは、コイツ──ドレスアップ姿の少女の寝息だけ。


 ……ガキの両親が来たら注意しておかねぇと。


 大人しいから離れたことにまだ気づいてねぇかもしれねぇけど、必ず気づくだろ。

 子供から何時間も目を離すなんて、放置以外なんでもねぇし、注意してやらねぇと。


 ──ったく。なんだって俺がこんなこと考えなきゃならねぇんだよ。

 早く迎えに来やがれってんだ……!!


 そんなことを考えながら目を瞑ると、そのうちに睡魔に呑み込まれて、いつの間にか意識を手放していた。



 ✽     ✽     ✽



 それから目が覚めたのは、ほんの数分後のことだった。

 重りを感じる膝には、まだガキの寝顔がある。


「迷子になってるの気づいてねぇのかよ…?」


 着いて直ぐにメールを送った父からもなんの音沙汰もなく、迎えに来る気配が一向になかった。


 この調子じゃ、 あのヤロウ携帯見てねぇな……。


 今日一日で何度目かの溜め息をつくと、顔を上げた先にあった、ホテルの部屋に繋がってる通路の所で、女性が従業員に何かを聞いてる姿が見えた。

 その様子はどこか慌てていて、焦っているようにも見える。

 まさかアレが少女の母親か?

 ──と女性の様子を見ていると、後ろから宥めるように肩に手を置いた男性が現れた。

 その男性の顔を見て、思わず声が漏れる。


「ハ……?」


 マジかよ……??




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