学生恋愛♡短編集

五菜みやみ

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掛川くんは、今日もいる。

やって来た日

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「ん~~っ!」



少し休憩しようかな…



そう思って私は桃の味がする水を取り出した。

後ろにある窓を開けて外を見れば、花壇があって、木々の隙間からは野球をしている生徒たちが見えた。



野球を見てるのは興味があるわけでも、

野球部に好きな人がいるわけでもなくて、

ただこの景色が一番好きだと言えるから見てるだけで。


人気のない静かな教室で、特等席に座って見られるこの部屋が、私は好きだった。




そんな景色を眺めながら飲んでいると、

机の上に開きぱなしで置いていた本が、教室に迷い込んだ風に、パラパラと音を立てて捲《めく》られていく。




栞を挟んでおいて良かった。


………。


今日も静かだなぁ、ホントに誰も来ないし。




ペットボトルを鞄にしまうと、私は机の上に突っ伏して眠る体制になった。


眠気に誘われた私は、ゆっくり目を閉じる。



いつもこの教室では仮眠をしているため、毎日下校時間前にアラームが鳴るようにはしてある。

だから寝すぎたとしても、ちゃんと先生の見回り前には起きられていた。




それから何分経ったのか…



バンッ_ガチャ_



突然開かれた扉の音に私は目を覚ます。


顔を上げると、寝惚け眼で捉えたのは一人の男だった。

金髪ストレートのショートヘアをした彼は少し慌てていて、私と目が合った瞬間、険しい顔で近寄って来た。



───え…?



──なに、コレ?



どう言う状況なんだろう。




寝惚けていたこともあって、今置かれている状態に頭がおついてこなかった。



椅子から押し倒された私_


組み敷くような態勢で上に乗っかって来ている彼_


そして、


私の口元には彼の手の平が当てられていた。



お互いの呼吸音しか響かないこの状況に、やっと眠気が去っていって、周りが見えて来た頃_

ふと足音が近づいて来ていることに気がついた。




「クソッ…! アイツどこ行きやがった!!」


「人にコーラぶちかましやがって…

次会ったらタダじゃおかねぇぞ!」


「おう、ぜッてぇ溜まった借りを返してやろうぜ…!」





──あ。


この声、上級生の人たちだ。


かなり目立つグループで、よく声を上げて笑ってるから知ってる。



確か、3年生だった気がするなぁ。



_なんて。


緊迫した空気に身体を硬直させながらも、呑気にそんなことを考えていた私は押し倒している彼を見つめた。



私は彼のことを少しだけ知っている─…


よく派手な女子たちが彼のことで騒いでいたから。



金髪に青いピアスを二つずつ片耳に付けた彼の名前は、


掛川《かけがわ》 理人《りひと》くん。



高校1年生で、別のクラス。


あとは_

不良なのに、頭が良くて。足が速くて。喧嘩も強い。


そんな彼は、学校では一番のイケメンで。

滅多に見かけないこともあって、有名人だった。




上級生の足音が去っていくと、上に乗っかっていた彼がほっとした息を漏らす。


そんな横顔を見ていた私の視線に気づいたのか、
彼がこっちを向いた。

パチリと視線が合うと、ニコッと優しい笑顔を見せる。



「声、ありがとう。

叫ぶ子じゃなくて助かったよ。」


「………。」



それは寝ぼけてたからなんだけど…


それに_

口を塞がれているし。

あんなグループの声がしたし。


叫びたくても叫べないと思う。


女の子なら誰だって。




「──と、猫被りしてみたんだけど、やっぱりやめてもいい?」





そう聞かれて私は黙った。


困惑したのもあって頷けずにいたのもあるんだけど、

なぜか素直に頷けなかった。


ただ、沈黙が長くなるに連れて彼から不穏な空気が感じ取れた私は、コクリと頷いた。



猫被り──



_と、本人が言ってるくらいだから、本当の性格はきっと優しくなんてないんだと思う。


そう思ってた通り、彼は紳士とは言い難い行動に出た。








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