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一匹狼くんの誘惑の仕方
#2
しおりを挟む2年生のクラス表を見に集団の中に行くと、マスコットキャラとして人気を誇る私の存在に気付いた人から離れて行く。
身長が低くても揉まれずにいられるのは、そう云う意味合いが一番大きいのかも知れない。視線は痛いけど……。
もちろん、前に立ってガードしてくれる浅海ちゃんがいるからって云うのもある思う。
先頭に出てクラス表を見上げると、私はショックで顔を歪めた。
涙が目尻に滲む。
表では、1組に浅海ちゃん。2組に私。クラスが別れていたのだ。
「か……、帰るーーっ!!」
「ちょっと梨珠! 大丈夫だから! 休み時間はそっち行くし、隣りのクラスだから体育とかは一緒だよ! ──ね!?」
「ヤダぁーー!」
なんでこんなことになってるのぉーっ!!
もう帰りたいッ……!
絶対に最悪なことしか起こらないよぉ!!
駄々をこねるが、決まっているものをどうすることも出来ず、私は強引に教室へと連れて行かれた。
もう、私にとっては牢屋にしか思えなくて。
泣き叫びながら、浅海ちゃんに引き摺られていた。
教室へ来ると既に登校していた友達に私を預けて、浅海ちゃんは自分の教室になる隣りへと入っていった。
「梨珠ちゃんおはよ!」
「浅海ちゃんと別れて残念だったね!」
「うぅ……」
「あぁ、泣かないで! 隣りだし直ぐに会える距離にいるんだから。それに代わりとしては頼りないけど、このクラスでは私たちが守るからね!」
「一年間、頑張ろう! よろしく!」
「ひぐっ……。うん……。うん、これからよろしくね」
話していると予鈴が鳴って、同時にバンッと音と一緒に前方の扉が開く。
すると、入ってきたのは先生ではなく──。
「うそ、黒沢くんと同じクラス……!?」
「ちょっと怖いんだけど……!」
「バカかッ! 声がでけぇよ!」
そんな囁き合う声に、黒沢くんはみんなを睨みつけた。
その鋭い視線に『ヒッ……!』とクラスメイトのみんなが息を呑む。
入って来たのは黒沢《くろさわ》 士狼《しろう》くん。
この学校では一匹狼として恐れられている男子で、先輩相手にも怯まず、マイペースに学校生活を送っているらしい。
実際に見た者が少なく、それも本当かどうか怪しいくらいで、噂の域を出ない。
そんな黒沢くんは、整った顔立ちと学年トップの成績を持っていることでも有名で、一部の女子には人気がかなりある。
私は怖くて苦手だけど……。
黒沢くんはとにかく背が高い。それに普段から無表情で冷めた目をしていて、あまり近づきたくはない。
なのに────。
ど真ん中の席にいる私の横を通っていた時、何かに反応したように、立ち止まって私を睨んで来た。
ひえぇぇぇぇ!!
早く目の前から去って下さいぃぃ!!
ぎゅっと目を瞑ると、「おい……!」と低い声で呼ばれて目を開いた。
すると、腰を低くした黒沢くんが眉間にシワを寄せて、至近距離まで顔を近付けてくる。
「おい」
「──はひっ!?」
思わず声を出して固まると、黒沢くんはしばらくじっと見つめてきて。
何かを確認するみたいにクンクンと鼻で嗅いでくる。
わ……、私から何か臭うのでしょうか!?
「お前、良い匂いがするな?」
く、喰われ……!!
「ご……、ごめんなさい! 私美味しくないですぅぅ!! お願いだから食べないで下さいぃぃ!」
「はぁ?」
ひぃぃぃ!
怖いよぉ……!
誰か助けてぇぇ!!
「人間なんか食えるかよ。それに取って食おうなんて、別に思ってねぇし」
「……へ…………?」
きょとんとする私に、黒沢くんは大きなため息をついた。
「腹減った……。お前、何食べてきたんだ?」
「え、えっと……、その……。ホ、ホットケーキを……」
「ホットケーキか。いいな。……チッ。お前といると腹減る」
「すッ、すみません」
「じゃあな」
そう言って後ろに去って行く黒沢くんはイライラしていて。
私は何がなんだか分からず、固まっていた。
今のはいったい何だったんだろう……。
良く分からない内に行ってしまった……。
頭の中をぐるぐる疑問が巡って困惑していると、ガラッと扉が開いて、今度は先生が入ってきた。
「おぉ。流石、優等生。席についててお利口さん」
はあぁぁ……。
二年生になって初めての学校──。
どうやら、 困惑からスタートするようです……。
(──ハッ!
もしかして不機嫌なのは朝食をとってないからじゃ!?
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