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蜂蜜と王子さま
玲王Side #1
しおりを挟むキラキラと蜂蜜みたいに輝く髪を持った彼女と出会ったのは、下級生たちの入学式だった──。
俺が通っている高校では入学式は必ず全学年が参加することになっていて、淡いふわりと空に漂う花びらが散っているその見慣れた道を、たった数時間の式の為だけに歩いていた。
下級生になんて興味のない俺からしたら、これから退屈な時間が待っていると思うと鬱々としてきて眠気も増してくる。
欠伸を零しながら歩いていた俺は、ふと校門を曲がって直ぐに視界へ飛び込んで来た輝くものに目を惹かれた。
校舎へ向かう先、ゆっくり歩を進める見慣れない新入生二人。
そのうちの一人がハニーブロンドのロングヘアで、艶のあるその髪は緩やかなウェーブが掛かって、朝日に輝いていた。
「ちょっと蜜璃、大丈夫?」
「ムリだよぉ。怖いよぉー」
「大丈夫だよ。そこまで大きな人はいないから」
「もうやだぁ、帰りたいーー」
すごい子がいるなぁ。
あんなに周り怖がって大丈夫なの?
腰を曲げて友達の影に隠れるようにピッタリとくっつく女の子。
後ろ姿は外国人ぽいが、弱々しく喋るそれはなまりもなく、れっきとした日本語だった。
つまり、怯えた様子が彼女にとっての素ってことだ。
現実にあんな子いるんだ。──て言うか、良く今まで生きてこれたね。
そのぐらい彼女の歩き方は、通り過ぎる生徒《にんげん》に対して敏感で、北極にでも来たのかってくらいに震えていた。
そんな哀れみにた気持ちを持ちながら、彼女たちの横を通りすがり、その子をチラリと一瞥した。
通り過ぎる寸前に表情が見えると、心が乱れるのを感じていた。
彼女の容姿は今まで見たこともないくらい、可愛い顔をしていた。
涙目の瞳と視線が合うと、その子はビクリと肩を跳ねさせる。
その行動で、隣にいた友人が俺に気付いた。
「あ、すみません。うるさいですか?」
「いや。ただ気になって見てただけ」
そう言った俺は震えるその子を見て、なぜか助けなきゃと無意識に思った。
よく分からないけど、そう思ったのだ。
「……玄関入ったら右手の奥にある階段を使いなよ。
1階からなら花壇が見れて少しは落ち着くんじゃない?」
まぁ、たかが花で気が休まるとは思えないけどね……。
「じゃ」
それだけ言って俺は軽く手を振ると先に歩き出した。
背後から隣りにいた女の子の言葉が聞こえる。
「ありがとうございました!」
振り返ることなく上履きに履き替えて教室へと向かう。
心の中では、(珍しいこともあるんだなぁ)と呟いて、女の子のことを思い出していた。
「俺が女の子に興味を持つなんて初めてだ……」
いつもニコニコヘラヘラして近寄ってくる女子は多いが、俺を見てあんなに泣きそうになった子は初めてだった。
みつり、ちゃんか……。
少し知らべてみようかな。
どんな子か知れば、この変な胸の高鳴りは消えるだろう。
俺は近寄ってきた下級生から、みつりちゃんの個人情報を聞きだし、名前と出身中学校と簡単な住所を知ってから、知り合いの探偵にさらに詳しく調べて貰うように電話を掛けた。
この頃から既に、好奇心の疼く対象を見つけると、とことん調べないと気が済まない性格をしていた。
それこそ、好きな食べものから、着ている服の傾向まで、相手を把握しないと落ち着かないのだ。
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