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蜂蜜と王子さま
蜜璃Side #1
しおりを挟む近所の空き地近くの細道で、目尻に涙を浮かべて立ち尽くしていた私_咲良《さくら》 蜜璃《みつり》は、困り果てて溜め息をついた。
緩やかなウェーブのかかったハニーブロンドの髪は、腰の辺りまで伸びて艶があり、良くも悪くも人や動物の目を惹き付けるものだった。
そして、今日も周りの視線を釘付けにしている──。
朝から近寄って来たのは大きな野良犬で。
一匹ならまだ逃げ場があったのに三匹もいて、気の弱い私は何も出来ずにただ身体を震わせてその場で立っているだけだった。
──ワンッ!
「ひぃぃぃ!!」
ずっと立ち竦む私に、野良犬はさらに態勢を低くして何度も吠える。
──ワンッ!
──ワンッワンッ!
──ワワンッ!
誰か助けて!!
心の中で悲鳴を上げる私。
こんなに怖がっているのは、身長が146センチと云う小柄で、性格がとにかく内気で弱虫な臆病者だからだ。
それ故、もう高校生なのにも関わらず野良犬相手に大声を出すことも、誰に助けを求めることも出来ずにいた。
そんな時──、
「大丈夫?」
声をかけてくれた一人の少年。
後ろから現れたのは黒髪ストレートの美青年だった。
かッ……、神様!!
それは冗談ではなく、本当に神様のような人で、私は縋りつく変わりに、涙目で青年を見つめた。
青年は私より少し年上ぽい人で、キレイな顔立ちにスラリとした体型。
外見も、発した声も優しそうで。
不思議と身長が高いにも関わらず、怖い思いは抱かなかった。
「あ、あの……!」
「うん?」
「た、助け──」
──ワンッ!
「ひっ……!!」
「あぁ、なるほどね」
青年は微笑むと、平然と野良犬を避けて私の所までやって来て、「失礼するよ」と言って背中と腰に手を回して来た。
そして、私を軽々と持ち上げる。
い、今……!!
抱きつかれるかと思った!
勘違いして、ごめんなさいぃ!!
「僕にちゃんと捕まっててね」
「はひっ!?」
すると、抱え直した衝動にびっくりして肩が跳ねる。
「あれ、僕のこと怖い?」
「ごごごめんなさい! 大丈夫です!」
「良かった」
にこりと微笑んだ青年はどんな顔もキレイで、私はつい見惚れてしまう。
僕……、ボク……、ぼく……、似合う!
可愛い!
「せっかくだから、蜜璃ちゃんって呼んでもいい?」
「えっ!?
なななんで私の名前を……!?」
「そりゃ同じ学校だからね」
「えっ!?」
「まぁ、1学年上だから知らないのは当然かな」
「そ、そうだったんだ! ──ハッ!
敬語抜けててごめんなさい!!」
「いいよ、タメ口で。むしろタメ口が良いかな。親近感あって良いよね」
「えっと……」
「──ね? 僕のお願い聞いてくれる?」
「き、聞きます! 聞きます!! ──あっ!」
「うんうん。はい、じゃぁ今からタメ口ね」
「えっと……、うん……?」
年上の人に敬語を使わないなんて、失礼!
でも、お願いって言われたし。
大丈夫だよね!?
「ふふっ。嬉しいなぁー」
笑顔だから大丈夫……なのかも。
青年が歩き出すと囲っていた犬たちは興味が失せたように去って行って、私たちは学校へ向かった。
「あの、名前知りたい!」
「あぁ、僕は玲王だよ。支倉《はせくら》 玲王《れお》。よろしくね」
「よろしくね! あと、助けてくれてありがとう!」
「どういたしまして」
良く笑う人だなぁ。
良い人に会えて良かった。
「他に質問はない?」
背後にお花畑が見えるような満面の笑みを浮かべて、玲王が聞いて来た。
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