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五章 全てを奪う波
74話 愛を断つ一撃
しおりを挟む「なっ……えっ……?」
情報処理が追いつかない。お父さんが突然動き出して、イリオが私を庇って、そして今脈打つ心臓が引き千切られ潰された。
「ゴフッ……!!」
波風ちゃんは変身が解かれ更に多量の血を吐く。それを私に届かせる力すらもうなく砂に吸収されていく。
「えっ……波風ちゃん……?」
理性ではもう助からない傷だと認識できる。だが感情がそれを受け入れない。目の前の光景が理解できない。
触手に持ち上げられたまま、波風ちゃんは青ざめていく顔をこちらに向ける。
「たか……ね……えがおで……それがあた……しの、のぞ……み……………だか…………ら……………」
もう言葉を発さない。瞳から光が消えていき、やがては自重を支えられなくなりだらんと手足が垂れる。生き物からモノへと変貌しただの冷たくなった物体に私の視線は釘付けになる。
「これで目的は果たしたな」
奴はぶちっと波風ちゃんの付けていたブローチを取り上げ、そしてゴミを扱うように波風ちゃんを海の深い所に、地上に押し戻されない位置まで放り投げる。
「あれ……? 波風ちゃん? 波風ちゃん!? どこ!? どこに行ったの!?」
先程まで一緒に戦っていた波風ちゃんがいきなり消えた。傷一つなく隣に居てくれたはずなのに。
[波風ちゃん……波風ちゃんはどこ!?]
私は焦りを募らせテレパシーで全員に呼びかける。
[高嶺!? どうしたの!? 何があったの!?]
[波風ちゃんが……波風ちゃんが突然消えたの!! 戦ってたらいきなり……居なくなって……どこに行ったの!?]
どこを見渡しても波風ちゃんは居ない。私はふらふらと立ち上がり、おぼつかない足取りで砂を踏む。
[高嶺……今は前を見……]
[うるさい!! そんなことより波風ちゃんを
探してよ!! キュアリンは波風ちゃんがどうなってもいいの!?]
邪魔なテレパシーを切り、助けてくれない人達は無視し必死に痛む体に鞭を打つ。
「殺すまでもない……か」
奴は私のことを無視し、怪人態になり海の中へ帰っていく。ブローチを奪ったまま。
また海は人を拐った。私の大事な人を奪った。
「波風ちゃん……波風ちゃんどこ!?」
私の声に返事をする人は誰もおらず、無情に反響するだけだった。
________________________
この世界の掟
死んだ者が生き返ることはない
決して
________________________
「はっ!! あれは……!!」
ボクは三人の影を捉える。海へと潜っていくゼリルに、波に拐われていく胸に穴を開けた波風。そして狂ったように彼女の名を呼び続ける高嶺。
脳が混乱するが、とにかくこれ以上の犠牲を出さないために高嶺の元へと飛び降りる。
「あっ……生人君!!」
近くにイクテュスはもう居ない。高嶺はボクを見るなりぱあっと表情を明るくさせて希望を見出す。
「宇宙人の力でも、何か道具でもいいから波風ちゃんを探して!! 突然消えちゃったの……だからお願い!!」
「無理だよ……だって波風は……」
鳥の視力も使っていたためハッキリと見えてしまった。波風の死体が。だからこそボクは表情を曇らせて俯く。
「無理……? ふざけないで!! 波風ちゃんが死んでもいいの!? お願いだから探してよ!! 絶対まだ生きてるから!!」
顔にべっとりとついた波風のものと思われる血液。そして波に拐われていったあの死体。
高嶺も分かっているはずだ。なのにそれを絶対に認めようとはしない。瞳からは光が気失せており完全に狂った、狂気に陥った者の目だ。
ボクの経験上こんな風になった人は……もう二度と戻らない。一生狂気に囚われたまま悲惨な最期を迎える。
「あっ、もう帰っていいよ生人君!」
「え……?」
光のない瞳はボクを捉えていない。背後の、誰も居ない場所を見つめている。
「波風ちゃん見つかったから! じゃあね!」
不気味なほどにいつも通りに接し、ボクの横を通り過ぎて駆け抜けるのだった。
「待っ……」
止めようとしたがかける言葉が見当たらない。彼女を正気に戻す方法がない。
ボクは黙ってその場に立ち尽くすしかないのだった。
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