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二章 希望か呪いか
24話 背負う罪
しおりを挟む「ごめんね……神奈子ちゃん……それに……ノーブル……」
わたしの目の前で一人の命の灯火が消えようとしている。共に戦った仲間はある一人の事情の知らない女の子の膝で血を吐き顔を青ざめさせていく。
「おい翠……なんだよこの怪我……何があったんだよ!?」
「神奈子ちゃん……あなたは……」
何を伝えようとしたのかその真意が分かることは一生ない。ガクンと彼女の全身から力が抜け落ちる。
「おい……おい翠!! 翠!!」
どれだけ揺さぶろうとも彼女が目を覚ますことはない。腹に大穴を開け内臓損傷だけでなく流れ出る血の量から判断しても蘇生は不可能だ。
「なぁお前……キュアノーブルだろ?」
涙を流しながらも神奈子と呼ばれた子はこちらに問いかけてくる。
「何があったんだよ……なんでこんなことに!?」
「それは……その……」
はっきり喋ることができない。人前で話すのは得意だったはずなのに、起こったことをただ話せばいいだけなのに後ろめたさが喉を締め付け声を発することを許してくれない。
「何か知ってるんだろ!? なんとか言えよ!!」
神奈子は行き場を見つけられない怒りを背負いこちらを怒鳴りつける。
「……このことは忘れた方がいい。キュアヒーローのことはもう忘れてくれ」
わたしはそれだけ伝え逃げるようにこの場から立ち去るのだった。
☆☆☆
「……はっ!!」
また何度目かの同じ夢を見てわたしはベッドから飛び起きる。
「ぜぇ……ぜぇ……」
まるで何かから逃げるため全力疾走した直後かのように肺に酸素が足りておらず、わたしは必死に息を吸い込む。
「七時か……」
時計は七の刻を示している。土曜日だとはいえ休日をダラダラ過ごすなんてことはしない。わたしは寝巻きからキチンとした服装へと着替え、その後メイドが作った朝食を食べに呼ばれる。
「橙子。最近調子はどうだ?」
今日は珍しく両親が家に居て一緒に朝食を食べることになった。わたしがスープを口に運んでいると父様がそれとなくありきたりな話題を振ってくる。
「問題はありません。桐崎の名を継ぐ者として恥がないよう生活しています」
「そう……でも一時期……二ヶ月ちょっとくらいかしら? 成績がすこぶる落ち込んでいたけれど大丈夫だったのかしら?」
母様が痛い所を突いてくる。一瞬手が止まるが何事なかったかのようにスプーンを置き作り笑いを見せる。
「少し体調が優れなくて……でももう大丈夫です。この経験も今後に活かして、二度とあんな失態は犯しません」
「そう……それがあるべき姿よ。人を導く者として」
食事を終え両親は会社に行ってしまう。この朝食の時間もかなり無理して作ってくれたのだろう。周りから見れば愛情がないように見えるかもしれないが、不器用なだけでしっかり愛はある。
自分にそう言い聞かせた後勉学を適当に済ませてから身支度をする。
「お嬢様。今日はどちらに?」
「少し散歩にね。健康な精神が健全な心を育む。ちょっと気分転換してくるよ。誰もついてくる必要はないからね」
わたしは最後の一文を強く執事に言いつけておく。心配性の彼らにはこれくらいが丁度良い。それから家を出て近くのカフェに入り、そこまでお腹が空いてるわけでもないので一番小さなパンケーキを頼みテレパシーをリンカルに飛ばす。
[起きてる?]
[おはようなのだ。昨日の件なのだ?]
[うん。あの後何か分かった?]
[イクテュスは行方が知れず足取りは掴めていないのだ]
ダメ元で聞いてみたがやはりイクテュスの場所は掴めていないようだ。そもそも掴めていたら呼び出されているので当然だが。
[いつもありがとね。またプリンでも買っていくから今度会える時にまた渡すよ]
[えっ!? 本当!?]
[でもその代わりイクテュスの捜索は頼むよ]
ちょっと汚いかもしれないがリンカルにしっかり頼んでおき、通信を切り早速わたしはスーパーに向かう。
(一人でスーパーに買い物なんていつぶりだろう)
あまり来ないのでプリンがどこに置いてあるか分からず、わたしは虱潰しでスーパーの中を巡る。
「橙子……!!」
ペットボトルが並べられた角を曲がったところでまさかの人物と鉢合わせる。
死角に居たのは長髪を揺らし鋭い目つきでカートを押す神奈子だった。
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