高嶺に吹く波風

ニゲル

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二章 希望か呪いか

17話 お泊まり会

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「大丈夫か?」

 てっきり胸倉を掴み上げられて殴られるかと思ったが、手は肩を掴み尻餅を突いてしまった私を立たせてくれた。
 
「えっ……あ、ありがとうございます」

「ちっ、そんな怖がるなよ。噂とかでそうなるのは分かるけど」

 顔こそ怖いが健橋先輩は意外と柔らかい雰囲気で、だがこちらと会話をするわけでもなく一回舌打ちをすると隣を通り過ぎて去っていく。

「えーっと、大丈夫?」

「う、うん。別になんともない……でも怖かったぁ……」

 拍子抜けに近い感情があるとはいえあの瞳に睨まれるのは流石に肝が冷えた。イクテュスと戦う時のような緊張感だった。
 とりあえず怪我がなかったことに安堵し私達は気を取り直して学校から出て帰路につく。

「あのー君達そこの中学の子かな?」

 しかし今度は身長の高い中性的な、男性だとしても女性だとしても魅力的に映るイケメンさんに話しかけられる。

「ナンパですか……? そういうのはお断りしてます」

 波風ちゃんがスッと私の前に出てイケメンさんに対して威嚇する。しかしこの人はキョトンとした顔つきで戸惑っている。

「あ、あぁ……わたしが男に見えたって口か。よく間違われるんだよね。あと私は君達の一個上で女の子だからね……ほら」

 彼女は鞄から学生証を出して私達に見せる。学生証は近くの優秀な子達が集まる学校のもので、そこに桐崎橙子という名と性別が女性であることが記されている。

「桐崎……橙子? あの神童って呼ばれてる?」

「波風ちゃん知ってるの?」

「噂だけどね。勉強も運動も完璧にこなしておまけに顔も良くて男子からも女子からもモテる神童がいるってね」

 細かく聞いてみれば確かにちょっとだけどこかで耳にしたような気がする。

「あはは……まさか他校まで噂になってるとは……まぁわたしのことはいいよ。それより健橋神奈子がどこにいるか知っているかい? 彼女に会いたくてね」

「健橋先輩に……?」

 正直あの不良の頂点に立つ健橋先輩と、学生のお手本のような橙子さん。接点などまるでなく二人が会おうとしていることにギャップを感じで首を傾げてしまう。

「健橋先輩ならもう帰りましたけど……あの人に何か用があるんですか?」

「あぁ……いやちょっとね。君達には関係のない話だよ」

 明らかに何かを隠し誤魔化す。しかし健橋先輩と神童様に何があったかなんて実際私達なんかに関係ないし関わるべき問題ではない。

「帰ったならいいんだ。また今度にするから……」

 橙子さんは軽く手を振り背を見せて去っていく。どこかもの悲しげな哀愁を漂わせて。

「なんだか今日は意外な人と関わるわね」

「珍しい日だね。まぁでももう後は帰るだけだし」

 珍しいことが立て続けに起こったが、家に着く頃に話題は今日のお泊まり会のことについてに移り変わっており、何を持ってくるかなど話し合う。

「じゃあまた後で!」

「うん。例の物はちゃんと持ってくるから」
  
 別れて私は家の中に入り波風ちゃんは一旦自分の家に帰る。
 私は誰も居ない家にただいまと告げ波風ちゃんが気分良く泊まれるよう布団などをチェックする。

「布団もふかふかお風呂も洗ってあるし、晩御飯の準備も大丈夫……よし完璧だね!」

 自室に敷いた布団の前でお泊まり会の準備がしっかりできているか脳内の項目にチェックを入れる。そして確認が終わった時インターホンが鳴る。

「あっ、ちょうど良いタイミングで……」

 玄関に行き扉を開けるとそこには私服に着替え荷物を持った波風ちゃんが立っていた。

「ほら。持ってきたわよ」

 波風ちゃんは鞄の中から一本のリモコンを取り出す。真ん中に大きな丸いボタンが付いているものだ。

「それが色んな映画が見れるようになるリモコン?」

「そう。これで今日は深夜まで映画を見るわよ!」

「うん! ポップコーンもちゃんと買ってあるよ!」

 お義父さんは研究で帰りが遅く、今日は出張で帰ってくるのは土曜の昼だ。
 だから私達はちょっと悪い事だが寝落ちするまで映画鑑賞会を実施することにしたのだ。
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