高嶺に吹く波風

ニゲル

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一章 美少女ヒーロー参上!!

14話 一息ついて

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「はぁ……はぁ……うっ!!」

 奴を倒したことで気が抜けてしまい痛みがぶり返してきて、膝を突き激しく息を荒くして心の鼓動が速くなるのを皮膚で感じる。

[配信は……切れてる?]

[戦闘が終わったから切っておいた。それより大丈夫……じゃなさそうだな。すぐに例のアレを持ってく]

 テレパシーが切れ、疲労がどっと押し寄せてくる。私は目眩に耐え切れなくなりその場に倒れ伏しそうになってしまう。

「ウォーター!?」

 地面に頭をぶつける直前にイリオの手が私を持ち上げてくれてなんとか衝撃は免れる。

「随分と酷い怪我だな。おい波風……いやここはイリオと言っておこう。手当てしたいから人目がないところまで移すぞ」

「宇宙人さん……分かった」

「宇宙人さんじゃない。俺の名前はキュアリンだ。覚えておけ」

 私はイリオに連れられて人目のない物陰まで行きそこでお互い変身を解除する。

「っ……!! やっぱり酷い怪我。破片がめり込んでる……」

「間に合ってよかったな……ほら高嶺。例の薬だ飲んでおけ」

「うんありがと……」

 私は口元に持ってこられた錠剤を飲み込む。血は止まらないが痛みが引いていき痛覚が失われていく。

「それは?」

「痛み止めだ。俺達の星のな。地球人に副作用がないことは確認済みだから安心しろ」

 次にキュアリンは吹きかけるタイプのスプレーを取り出しそれを私の傷口に吹きかけていく。

「ちょっとそんな日焼け止めスプレーみたいなのかけて大丈夫なの!?」

「うるさいないちいち! 怪我の治りを促進させるスプレーだよ。ただまぁあくまでも促進させるだけだからこの怪我だと歩けるほど治るのに数十分いるが、一日もすれば痛みは残ってないだろう」

 前使った時は数時間で完治したが、今回の怪我ではそうはいかないだろう。私は痛み止めが切れた後のことを想像して口の中いっぱいに広がる苦い味を噛み締める。
 
「とりあえず治療は終わったぞ。俺は見られたらまずいからこれで離れる。何かあればテレパシーで……」

「テレパシー……?」

[こういうのだ]

「うわっ!? 頭の中に声が!?」

 私と全く同じ反応だ。やはりあの感覚は初見だと奇妙で驚いてしまう。

[こうやってやるの?]

[あぁそうだ。ともかく高嶺のことは任せたぞ]

 キュアリンは茂みの中に消えていき、私は息を潜めて治癒を待つ。

「あれ……高嶺に波風……大丈夫だったのか!?」

 建物の角から健さんが飛び出してくる。彼に怪我はないようで血の一滴も垂れていない。

「高嶺お前その怪我……早く救急車を……」

「あぁ大丈夫……です。ちょっと転んだだけですから」

 まだ傷は治りきっていないがもう少しで歩けるようになる。服はもうダメだが最悪また買えばいい。思い入れがあったり高価なものでもない。
 
「でも凄いね君達。あんな化け物と戦うなんて……」

「あはは……でも怪我もこれくらいで済んで……え?」

 つい正直に喋ってしまったが、そもそも健さんは私達がキュアヒーローであることは知らないはずだ。先程の言動は明らかにおかしい。正体を知らなければ出てこないものだ。

「やっぱり……キュアウォーターが確かに俺と信介の名前を叫んでたから。それに君達の傷に息の切れ具合。逃げた後に配信時の口調も観察していたが……それらは全て君達がキュアヒーローだという一つの結論に導いている」

 キュアリンが言っていた変人は番狂わせを起こすという言葉。正にそれがたった今起こってしまった。

「ま、待ってたけ兄このことは誰にも……」

「分かってるって。何かしら事情があることくらい推測できるさ。ただ……一つ俺のお願いを聞いて欲しいんだ」

「お願い……?」

 健さんのことだ。私達が嫌がることやいやらしいことは要求してこないはずだ。それでも私と波風ちゃんの間に緊張が走り思わず息を呑む。

「ぜひ君達キュアヒーローの活動を記録させてほしいんだ!」
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