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一章 美少女ヒーロー参上!!
10話 ガタガタハート
しおりを挟む「それって……自殺ってことですか?」
「あっ、いや今は全然そんなこと考えてないよ。あの時は疲れてたし本当に馬鹿だったと思ってる。だから助けてくれたキュアウォーターには感謝してもしきれないよ」
とりあえず自殺に走ることはなさそうだが、今の彼が健全で元気だとは言い難い。
「オレさ……大学どこも受からなくて……なんとか親に頼んで一年猶予を貰ったんだ。これで無理なら就職するって条件で。
昔から生き物が好きで……行きたい大学があるけど勉強しても全然模試の点数は上がらないし、最近ちょっと疲れてきて……今日も健のあのめちゃくちゃぶりをまた見れれば疲れもマシになるかなって思って」
私達はまだ中学生だ。受験を経験しておらず、その上勉強すらまともにしていない私に至っては何も言葉を投げかけてあげられない。
「あ……ごめんねこんな話しちゃって。二人はこんな大人になったらダメだよ」
信介さんは雰囲気を暗くしてしまったことに気づき急いで誤魔化して食事に手をつける。
私は少し食感が悪くなったチキンカツを頬張り噛み砕いて飲み込む。若干暗い空気のまま食事は進み、信介さんは健さんの話はするものの相変わらず表情はどこか雲がかっている。
「おーい遅れてごめ……ん? そこに居るのは……信介!? お前何でここに……?」
「偶にお前のアホ面を見たくなってな。元気だったか?」
「お前は俺が元気じゃないとこを見たことがあるのか?」
健さんが戻ってくるなり信介さんを纏う空気は多少は軽くなる。健さんは持参したゆで卵とこの食堂のうずらの卵フライを持ってくる。
「たけ兄はそれだけなの?」
「最近筋トレが楽しくなってきてね。どこまで人の体は負担に耐えれるかの実験をしてるんだ」
「健お前またそんなことを……高校でその理論でガス爆発させて反省文書いたの忘れたのか?」
なんだか物騒な話題が出てくる。私も持ち前の元気さでトラブルは起こすが危ないことは避けているつもりだ。
「でもさ、なんだかんだ言っても良い思い出だったよな」
「そうだな……過去には戻れないけど、過去から勇気づけられることはあるよ」
(過去に勇気づけられる……か)
私には楽しい思い出はあるが悲しく思い出したくもないものもある。
あの時の光景が意識せずまたチラつき、私は波風ちゃんを見つめて楽しい方を強くすることでそのトラウマから逃げる。
「なによこっち見つめて。アタシがもの食べる姿がそんな面白い?」
「いやそうじゃないけど……相変わらず波風ちゃんは何しても様になるし美人だなって」
「はぁ……」
誤魔化しに適当に言った言葉に返ってくるのはチキンカツだった。いきなり波風ちゃんが私の口にチキンカツをねじ込んできた。
(もう……恥ずかしがり屋さんなんだから)
私は一個増えたそのカツをもぐもぐと咀嚼する。備え付けのキャベツの千切りもしっかり全部食べ水をもう一杯持ってきて一気に飲み干す。
「そういえば高嶺と波風は昼からはどうする? キュアヒーローやイクテュスの話はもう大体しちゃったけど……四人でどこか回るか?」
「あの……私達は良いので二人で楽しんできてください!」
正直言って今信介さんを笑顔にできるのは健さんしか居ない。私はお邪魔虫になってしまう。
「そう……ね。高嶺も満足いく話聞けたろうし、こっちはこっちで時間潰すからたけ兄は気にしないで」
「じゃあそうさせてもらうよ。まぁ何かあれば連絡してくれ。それとまた新しいことが分かったらこっちから連絡するよ」
美味しいご飯を食べ終えてから私達は別れ、私は波風ちゃんと共に大学をぶらぶらと歩き回る。
やけに風が強いエリアや悪の研究所みたいな施設にだだっ広い芝生。様々な景色を楽しみ時間を潰していく。
「ねぇ波風ちゃん。もし自分で笑顔にできない人が居たらどうしたら良いと思う?」
「笑顔……ね。初めて会った時からそれしか頭にないわよねアンタ」
「あはは……それが私の唯一の長所だから」
「それだけじゃないのに……」
「ん? 何か言った?」
また一段と強い風が吹き音を掻き消す。この距離でも普通に喋ったくらいではほとんど聞き取れない。
「はぁ……何でもないわよ。とりあえず風がまた強くなってきたし室内に入りましょうか」
「うん。そうだ……」
近くの建物に入ろうと扉に手をかけるが、建物を伝う振動がドアノブを通じて私を揺らす。
「何この揺れ……地震?」
「だとしたら建物から離れないと……えっ? あれって……」
建物の中に自然が引き寄せられ、私達は信じられない光景に硬直してしまう。
巨大な亀がいた。
甲羅を背負い上げ皺のある皮膚を無理に伸ばし二本足で立ち上がる。階段から落下し壁に激突したようで、コンクリートの壁が大きく凹んでいる。
異形の化け物が、イクテュスが突然目の前に現れたのだった。
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