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一章 美少女ヒーロー参上!!
9話 落ちて滑っていく心
しおりを挟む「食堂は……ここね」
学内を少し歩き、横長く鎮座する食堂まで辿り着く。昼時であるが土曜なので人はあまりいなさそうだ。
「あれあの人……」
私はちょうど今食堂に入ろうとした眼鏡をかけた青年に注目してしまう。どこかで見た記憶があり、頭の中を探ると彼が月曜に助けたあの青年だという情報が引っ張り上がってくる。
「ん? どうしたの高嶺? あの人見つめて……あっ、ほら。向こうの人も気づいたみたいだよ」
「あの……オレに何か用?」
私にガンを飛ばされ流石に気づき青年はこちらに話しかけてくる。しかし前に会った時私は変身していた。彼は私が誰かは分からず初対面の状態だ。
「あ~えっとその……あっ! 配信!」
「配信……?」
「月曜にあったキュア配信に映ってたなーって」
「あぁあの襲われた時の……お恥ずかしい姿を」
変身しておらず配信も関係ないこの状況下で、歳下の私に対して丁寧に喋る。本当に律儀で礼儀正しい人なのだろう。
「いやいやそんな仕方ないですよあんな化け物相手じゃ……それよりこの大学の人だったんですね」
「いや……オレはここの大学の人じゃないよ」
「えっ……?」
「友人の健ってやつに会いに……」
「たけ兄に!?」
世界は狭いと言うが、なんと私が助けた彼は親友の波風ちゃんの親戚の友人だった。
「そうだけど……君は?」
「あっ、すみません。アタシはたけ兄の親戚の海原波風です」
「波風……そういえば健が親戚に女の子が居るって言っていたような……」
まさかの繋がりだ。あの時もう二度と会うことはないと思っていた人にこうして巡り会えた。
(あの時笑顔になれなかった理由……分かるかな……)
彼を助けた時のあの表情が今も忘れられていない。胸に残り続けモヤが脳に染み込み離れない。
「あのアタシ達今からお昼なんです。よければ一緒にどうですか? 高校の頃のたけ兄の話も聞きたいですし」
「あぁ別に大丈夫だよ。あいつなら面白い話無限にあるし」
そうして私達二人は新しい仲間を加え食堂の中に入り、食券機で券を購入しカウンターでチキンカツ定食を受け取り席に向かう。
「いただきます!」
早速私はチキンカツに齧り付く。サクッサクの衣に中からは肉汁が溢れ落ちる。肉は分厚くソースは甘い風味がありアツアツホカホカの白米がよく合う。
「相変わらずよく食べるわね。朝遅かったでしょあなた。ご飯も大盛り頼んでたし……」
「……あれ? もしかして君が健が言ってた高嶺?」
「ふぁい? ふぁわひほほほひっへふふんへふは?」
「高嶺……ものを口に入れたまま喋らない。えっと、たけ兄が学校で私達の話を?」
波風ちゃんが私の言葉を止め飲み込む時間を作り話題を戻す。聞く方にまた回れたので私は肉汁を舌で味わいながら耳を傾ける。
「偶にだけどね。美人な親戚の子といつも一緒に居る元気いっぱいの子が居るってね」
「美人……全くたけ兄は」
波風ちゃんはほんのりと顔を赤くし味噌汁を一口飲む。
健さんは良くも悪くも率直でハッキリ言うタイプだ。それに波風ちゃんも実際に美人だ。今まで告白して断られ散っていった男子は数知れない。
(波風ちゃんって本当に美人なんだよな……誰かと付き合えばいいのに)
「あの……お兄さんは……」
「あぁごめんね。オレは憲藤信介って言うんだ。まぁ好きなように呼んでくれていいよ」
「じゃあ信介さん。あなたは普段何をしてるんですか?」
チキンカツを飲み込み水を飲んでから信介さんの話に切り替える。このまま健さんの話を聞くのも楽しそうだが、今は彼の悩みについて知りたい。
「……勉強かな。オレ実は大学合格できなくてな」
「ちょっと高嶺……!!」
触れられたくないとこに触れてしまい、波風ちゃんから小声で注意されてしまう。
「いやいいよ気にしないで」
気にしないスタンスを取りながらも信介さんの表情は明らかに暗くなる。
申し訳ない気持ちになるが何か言おうにも言葉が思いつかない。
「こんなこと君達に言うのもあれなんだけどさ……実はオレあの配信でイクテュスに襲われた時……死のうとしたんだ。逃げずに殺されようと……」
信介さんの口から更に重苦しい、笑顔を奪う闇が吐かれるのだった。
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