126 / 130
十章 罪と償い
120話 睨みを効かせる
しおりを挟む
「あ、見てください生人さん。クラスが分かりますよ」
始業式の日。ボク達は下駄箱に貼られたクラス分けの紙を見に行く。
「でもここからじゃ見えないよ」
紙の周りには人だかりができており、ボクの身長ではとてもじゃないが見えない。
「ならこれで見えますか?」
峰山さんはボクのことを抱っこしてそこから彼女の視線と同じくらいまで持ち上げる。
「あ! 見えた! 一緒のクラスだったよ!」
「ふふっ。それはよかったです」
ボクと峰山さん。二人の名前が同じクラスに書かれている。そこには岩永さんの名前も書かれている。
「あっ! 生人くんに寧々ちゃん! ウチ達同じクラスだったね! ところで何やってるの?」
「生人さんが見えないらしいのでこうして持ち上げているのですが?」
峰山さんは今ボクのことを抱き上げている。ボクのことを落とさないように胸に押し当てがっしり掴んでいる。
普通のクラスメイトならこんなことはしない。するとしたらそれこそカップルとか恋人だけだろう。
「あっ!? いや、これは違くて……」
峰山さんもその考えに至ったようで声を上擦らせながら急いでボクのことを地面に降ろす。
思い返してみればこの数ヶ月間ボク達はお互いにハグし合ったり、一緒にベッドで寝たりなどしていたせいで感覚がおかしくなっている。
「ふーん……ま、そういうことにしとくか。それじゃ一緒に三人でクラスまで行こっ!」
一瞬真顔を挟んでから彼女はいつもの笑顔に戻り、ボク達は一緒に指定の教室まで向かう。
何人かは見たことのある生徒だったが、ボクの知らない人達もいる。
「あれ? あれってもしかして寄元君じゃない?」
「だよね。あの小さくて可愛い感じ。同じクラスだったんだ。ちょっと誰か話しかけに行ってよ。アタシ配信とか見てるからサイン欲しいんだけど」
教室の裏の方で集まっている派手な感じの女子グループ三人の方からポロッとボクの名前が溢れ落とされる。
「おはよう! ボクのこと呼んだ?」
ボクは彼女達の元まで駆け寄り笑顔で話しかける。
「えっ!? お、おはよう。同じクラスになったみたいだからよろしくね~」
リーダー格っぽい茶髪の子が驚きつつもボクに挨拶を返してくれる。
「サインが欲しいの? それくらいならいつでも書くよ!」
「えっマジ? じゃあ一枚頼める?」
彼女はバッグからノートを取り出しそこにサインを要求してくる。
ボクはそこにヒーロー参上! という決め台詞とラスティーと名前を加えてサインする。
「はいどうぞ!」
「ん、ありがと……でも本当噂通りにちんちくりんで可愛いな」
彼女が自分の頭とボクの頭に手を乗っけて身長差を体で確かめる。
「むぅ~酷いよ! そのこと結構気にしてるのに!」
「あははごめんごめん! まぁこれのお礼として……今日放課後空いてる?」
「放課後? 今日は特に予定はないけど?」
今日は午後からボク以外仕事があるので特に予定はない。一応キュリアや美咲さんに関する情報を集めようとは思ってはいたが、予定を空けることもできる。
「じゃあカラオケに行こうよ! アタシら三人で行こうと思ってたんだけど、君が入ればもっと盛り上がると思うし……さ。ねぇ?」
彼女は舌舐めずりし、何か合図を伝えるように脇の二人に視線を送る。
「え、えぇ……流石に不味くない? あんたがそういうこと好きなのはいいけど、ちょっとこの小さな子相手は気が引けるというか倫理的に……」
「そうだよ……それに寄元君って確か峰山ちゃんと……」
「いいじゃん別に。アタシらと同い年なんだし」
「何話してるの?」
コソコソとボクには分からない隠語で会話している。全く意味が分からなかったが、リーダー格の子が先程から獲物を見つけた肉食動物のような目をしている。
「いや~何でもないよ! それより……」
会話がピタリと止まる。途端に彼女は額から汗をかき出し震え出す。
「どうしたの?」
「後ろ……」
指差した方を振り向くと、そこには笑顔の峰山さんが立っていた。
口角こそ上げてはいるものの目が笑っていない。ボクに説教する時のものだ。
「ど、どうしたの峰山さん?」
何か悪いことをしてしまったのだろうかと考えるが、何が原因か分からず取り敢えず縮こまり表情を窺う。
「いえいえ。何やら興味深い話をしているなーって。それであなた……女子三人、男子一人でカラオケに行って、何をするつもりなんですか?
ぜ ひ と も 教えて欲しいですね」
「い、いえいえ滅相もありません! そういえばアタシ今日用事あったわー!
ということでカラオケは今日はなし! はい解散!」
リーダー格の子は強引に話を切り上げ二人を連れてそそくさと教室から出て行く。
「どうしたんだろう二人とも?」
三人の様子の急変具合に戸惑うが、その時峰山さんがボクの耳元に口を近づけ囁く。
「生人さん。あなた……わたくしとそこそこの頻度でそういうこともして、もう経験あるんですから、そろそろそっち系の警戒心とかつけてください……!!」
「そういうこと? そっち系? 何それ?」
相変わらず隠語ばかりの会話で、その意図は伝わってこず首を傾げてしまう。
「はぁ……生人さん。今日の放課後一旦わたくしの部屋に来てください」
「えっ!? ボク今日悪いことしてないよ?」
「良いですから……分かりましたね?」
この空気は確実に長い説教になる。そしてそういう日の夜は大体すごく疲れることとなる。
結局始業式が終わるまでその隠語の意味は分からなかった。
始業式の日。ボク達は下駄箱に貼られたクラス分けの紙を見に行く。
「でもここからじゃ見えないよ」
紙の周りには人だかりができており、ボクの身長ではとてもじゃないが見えない。
「ならこれで見えますか?」
峰山さんはボクのことを抱っこしてそこから彼女の視線と同じくらいまで持ち上げる。
「あ! 見えた! 一緒のクラスだったよ!」
「ふふっ。それはよかったです」
ボクと峰山さん。二人の名前が同じクラスに書かれている。そこには岩永さんの名前も書かれている。
「あっ! 生人くんに寧々ちゃん! ウチ達同じクラスだったね! ところで何やってるの?」
「生人さんが見えないらしいのでこうして持ち上げているのですが?」
峰山さんは今ボクのことを抱き上げている。ボクのことを落とさないように胸に押し当てがっしり掴んでいる。
普通のクラスメイトならこんなことはしない。するとしたらそれこそカップルとか恋人だけだろう。
「あっ!? いや、これは違くて……」
峰山さんもその考えに至ったようで声を上擦らせながら急いでボクのことを地面に降ろす。
思い返してみればこの数ヶ月間ボク達はお互いにハグし合ったり、一緒にベッドで寝たりなどしていたせいで感覚がおかしくなっている。
「ふーん……ま、そういうことにしとくか。それじゃ一緒に三人でクラスまで行こっ!」
一瞬真顔を挟んでから彼女はいつもの笑顔に戻り、ボク達は一緒に指定の教室まで向かう。
何人かは見たことのある生徒だったが、ボクの知らない人達もいる。
「あれ? あれってもしかして寄元君じゃない?」
「だよね。あの小さくて可愛い感じ。同じクラスだったんだ。ちょっと誰か話しかけに行ってよ。アタシ配信とか見てるからサイン欲しいんだけど」
教室の裏の方で集まっている派手な感じの女子グループ三人の方からポロッとボクの名前が溢れ落とされる。
「おはよう! ボクのこと呼んだ?」
ボクは彼女達の元まで駆け寄り笑顔で話しかける。
「えっ!? お、おはよう。同じクラスになったみたいだからよろしくね~」
リーダー格っぽい茶髪の子が驚きつつもボクに挨拶を返してくれる。
「サインが欲しいの? それくらいならいつでも書くよ!」
「えっマジ? じゃあ一枚頼める?」
彼女はバッグからノートを取り出しそこにサインを要求してくる。
ボクはそこにヒーロー参上! という決め台詞とラスティーと名前を加えてサインする。
「はいどうぞ!」
「ん、ありがと……でも本当噂通りにちんちくりんで可愛いな」
彼女が自分の頭とボクの頭に手を乗っけて身長差を体で確かめる。
「むぅ~酷いよ! そのこと結構気にしてるのに!」
「あははごめんごめん! まぁこれのお礼として……今日放課後空いてる?」
「放課後? 今日は特に予定はないけど?」
今日は午後からボク以外仕事があるので特に予定はない。一応キュリアや美咲さんに関する情報を集めようとは思ってはいたが、予定を空けることもできる。
「じゃあカラオケに行こうよ! アタシら三人で行こうと思ってたんだけど、君が入ればもっと盛り上がると思うし……さ。ねぇ?」
彼女は舌舐めずりし、何か合図を伝えるように脇の二人に視線を送る。
「え、えぇ……流石に不味くない? あんたがそういうこと好きなのはいいけど、ちょっとこの小さな子相手は気が引けるというか倫理的に……」
「そうだよ……それに寄元君って確か峰山ちゃんと……」
「いいじゃん別に。アタシらと同い年なんだし」
「何話してるの?」
コソコソとボクには分からない隠語で会話している。全く意味が分からなかったが、リーダー格の子が先程から獲物を見つけた肉食動物のような目をしている。
「いや~何でもないよ! それより……」
会話がピタリと止まる。途端に彼女は額から汗をかき出し震え出す。
「どうしたの?」
「後ろ……」
指差した方を振り向くと、そこには笑顔の峰山さんが立っていた。
口角こそ上げてはいるものの目が笑っていない。ボクに説教する時のものだ。
「ど、どうしたの峰山さん?」
何か悪いことをしてしまったのだろうかと考えるが、何が原因か分からず取り敢えず縮こまり表情を窺う。
「いえいえ。何やら興味深い話をしているなーって。それであなた……女子三人、男子一人でカラオケに行って、何をするつもりなんですか?
ぜ ひ と も 教えて欲しいですね」
「い、いえいえ滅相もありません! そういえばアタシ今日用事あったわー!
ということでカラオケは今日はなし! はい解散!」
リーダー格の子は強引に話を切り上げ二人を連れてそそくさと教室から出て行く。
「どうしたんだろう二人とも?」
三人の様子の急変具合に戸惑うが、その時峰山さんがボクの耳元に口を近づけ囁く。
「生人さん。あなた……わたくしとそこそこの頻度でそういうこともして、もう経験あるんですから、そろそろそっち系の警戒心とかつけてください……!!」
「そういうこと? そっち系? 何それ?」
相変わらず隠語ばかりの会話で、その意図は伝わってこず首を傾げてしまう。
「はぁ……生人さん。今日の放課後一旦わたくしの部屋に来てください」
「えっ!? ボク今日悪いことしてないよ?」
「良いですから……分かりましたね?」
この空気は確実に長い説教になる。そしてそういう日の夜は大体すごく疲れることとなる。
結局始業式が終わるまでその隠語の意味は分からなかった。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
何故か超絶美少女に嫌われる日常
やまたけ
青春
K市内一と言われる超絶美少女の高校三年生柊美久。そして同じ高校三年生の武智悠斗は、何故か彼女に絡まれ疎まれる。何をしたのか覚えがないが、とにかく何かと文句を言われる毎日。だが、それでも彼女に歯向かえない事情があるようで……。疋田美里という、主人公がバイト先で知り合った可愛い女子高生。彼女の存在がより一層、この物語を複雑化させていくようで。
しょっぱなヒロインから嫌われるという、ちょっとひねくれた恋愛小説。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
土魔法で無双するVRMMO 〜おっさんの遅れてきた青春物語〜
ぬこまる
ファンタジー
仮想世界にフルダイブすることが当たり前になった近未来。30代独身のツッチーはVRMMO【プロジェクト・テルース】の追加コンテンツを見るため土魔導師になるが、能力不足のため冒険者たちから仲間ハズレに。しかし土魔法を極めていくと仲間が増え、彼女もできそう!? 近未来ファンタジーストーリー、開幕!!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~
ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。
玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。
「きゅう、痩せたか?それに元気もない」
ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。
だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。
「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」
この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる