上 下
115 / 130
九章 新たなる脅威

109話 秘めた想い

しおりを挟む
「せいどういつせいしょうがい?」
「生人君は知らないか。簡単に言うと心と体の性別が一致しないってことだよ」
「つまり先輩は自分のことを男だと思ってるってこと?」
「簡単にまとめるとそうなるね」

 思い返してみれば日向先輩には彼氏がいるという話を聞いたことがない。それに今着ている私服も女性ものっぽさがあまりなく、男性用とも女性用ともとれるものだ。

「私は昔から女の子と遊ぶよりも男の子と外で遊んだりする方が好きだった。今だって部活の子達と話すよりこうやって君と話す方が楽しい」
「でもそれって一つの個性なんじゃないの? ボクは女の子でも男の子向けのものが好きでも良いと思うし、なによりボクは先輩のこと友達として好きだよ?」

 夕日に照らされ強調された水滴が一粒彼女の頬を伝う。

「ありがとう。そう言ってくれたのは君が初めてだよ。
 今までこのせいで本当に苦労してきた……女の子なのに男の子の服を着てるってからかわれたり、私はやりたいことをやっていて、誰にも迷惑をかけていないのにいじめられたり……親も助けてくれなくて一人ぼっちだった」

 ボクも親に虐待され一人ぼっちで苦しかった時期があった。いや苦しかったのではない。ひたすらに虚無だった。
 だから、何もないから自殺しようとしたのだし、彼女には同じ道を辿ってほしくはない。

「でも今は一人ぼっちじゃないよ。少なくともボクがいるからね」
「ふふっ……本当に心強いよ。それで相談の本題なんだけれど、私好きな人がいるんだ」

 まだ本題じゃなかったのかと思うのも束の間。
 好きな人。この場合は恋愛対象という意味だろう。それについての相談。流石のボクでも何を言われるか大方察しがつく。

「実は私アイが好きなんだ。とっても可愛くて、あのキラキラした笑顔に元気をもらえた。
 私の憧れであるのと同時に、心から、本当に好きになっちゃったんだ」

 女の子が女の子を好きになる。ボクはそういった人に今まで会ってこなかったので実感は湧かないし上手く飲み込めない。だが彼女が真剣に恋をしているということだけは理解できる。
 
「ならボクはその恋を応援するよ! 手伝えることがあったら何でも言ってよ!」
「実を言うと、あのバレンタインに味見で渡したあれ、本当はホワイトデーにアイに渡すものの試作品だったの」
「なるほどそういうことだったのか……あれとっても美味しかったよ!」

 ならバレンタインにあの試作品をボクに渡したことにも納得だ。

「ボクでよければいつでも試食するよ! 食べるの大好きだし」
「お言葉に甘えてそうさせてもらうね」

 先輩は秘密を打ち明けられて満足そうな笑みを浮かべる。
 そうして話していると近くの草むらが動き出し小さな生き物が出てくる。緑色の可愛らしい小さなカエルだ。
 先輩は目を輝かせ反応を示す。

「あっ……カエルだ。ここら辺にはあんまりいないはずだけど……ほら。こっちおいで」

 先輩が優しく声をかけるとカエルは彼女の方に跳ねながら向かい膝の上にちょこんと乗る。

「生き物好きなんですか?」
「子供の頃から生き物と触れ合うのが好きでね。家にはうずらとかいるよ」
「うずらか……」

 あの小さくてモフモフしてる鳥だよね……DOの部屋はペット禁止だから飼えないな……残念。

 話を聞いてペットが欲しくなってきたが、それができず心を沈ませる。
 それを紛らわすように再び草むらが動き出す。

「日向先輩避けて!!」

 普段から戦闘慣れしているボクはすぐに飛び出してきた奴に対応できたが、日向先輩は反応が遅れてしまう。
 飛び出してきたのは人くらいのサイズの蛇型のサタンだ。本来あるはずのない手足にその巨体。一目でサタンだと分かる。
 その蛇の牙が日向先輩の胸を掠る。

「やめろっ!!」

 ボクはその蛇の腹に蹴りを入れ先輩から離す。
 先輩は皮膚が少し持っていかれただけでそこまで大した傷ではないし本人も大丈夫そうだ。

「どうやら毒もないみたいだね。でも……」

 先輩が咄嗟に持ち上げたカエル。体の真ん中に牙を突き立てられ即死してしまっている。

「生人君下がってて。こいつは許せない。私が殺す」
 
 日向先輩はランストを取り出し装着し、デッキケースからカードを二枚取り出す。

[キング レベル1 ready…… アーマーカード ホーク レベル6 start up……]

 まず簡易的な鎧が出現し先輩の体を覆う。そこから王冠が空から降ってきて頭に被さる。
 首元から首元にかけて赤いマントが生えてきて、そこのマントを突き破るようにして鳥の羽が生え出す。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

箱庭?のロンド ―マリサはもふ犬とのしあわせスローライフを守るべく頑張ります―

彩結満
ファンタジー
気が付けは、マリサ(二十八歳独身)は、荒れ地に佇んでいた。 周りには木が一本のみで、何もない。 ここにいる記憶がまるでないマリサは狼狽える。 焦ってもらちが明かないと、まずは周辺の探索と、喉の渇きを癒すための水場を探しに歩き出したマリサだった――。 少しして、ここが日々の生活の癒しにやっていた箱庭ゲームの世界の中だとわかり、初期設定の受信箱にあるギフトで、幸運にもS級の犬型魔獣を召喚した。 ブラック企業で働いていた現実世界では、飼いたくても飼えなかった念願の犬(?)シロリンとの、土地開拓&共同生活と、マリサがじわじわと幸せを掴んでいく、そんなのんびりストーリーです

ダンジョン配信 【人と関わるより1人でダンジョン探索してる方が好きなんです】ダンジョン生活10年目にして配信者になることになった男の話

天野 星屑
ファンタジー
突如地上に出現したダンジョン。中では現代兵器が使用できず、ダンジョンに踏み込んだ人々は、ダンジョンに初めて入ることで発現する魔法などのスキルと、剣や弓といった原始的な武器で、ダンジョンの環境とモンスターに立ち向かい、その奥底を目指すことになった。 その出現からはや10年。ダンジョン探索者という職業が出現し、ダンジョンは身近な異世界となり。ダンジョン内の様子を外に配信する配信者達によってダンジョンへの過度なおそれも減った現在。 ダンジョン内で生活し、10年間一度も地上に帰っていなかった男が、とある事件から配信者達と関わり、己もダンジョン内の様子を配信することを決意する。 10年間のダンジョン生活。世界の誰よりも豊富な知識と。世界の誰よりも長けた戦闘技術によってダンジョンの様子を明らかにする男は、配信を通して、やがて、世界に大きな動きを生み出していくのだった。 *本作は、ダンジョン籠もりによって強くなった男が、配信を通して地上の人たちや他の配信者達と関わっていくことと、ダンジョン内での世界の描写を主としています *配信とは言いますが、序盤はいわゆるキャンプ配信とかブッシュクラフト、旅動画みたいな感じが多いです。のちのち他の配信者と本格的に関わっていくときに、一般的なコラボ配信などをします *主人公と他の探索者(配信者含む)の差は、後者が1~4まで到達しているのに対して、前者は100を越えていることから推察ください。 *主人公はダンジョン引きこもりガチ勢なので、あまり地上に出たがっていません

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん
ファンタジー
※ようやく修正終わりました!加筆&纏めたため、26~50までは欠番とします(笑)これ以降の番号振り直すなんて無理! ごめんなさい、変な番号降ってますが、内容は繋がってますから許してください!!!※ ファンタジー小説大賞結果発表!!! \9位/ ٩( 'ω' )و \奨励賞/ (嬉しかったので自慢します) 書籍化は考えていま…いな…してみたく…したいな…(ゲフンゲフン) 変わらず応援して頂ければと思います。よろしくお願いします! (誰かイラスト化してくれる人いませんか?)←他力本願 ※誤字脱字報告につきましては、返信等一切しませんのでご了承ください。しかるべき時期に手直しいたします。      * * * やってきました、異世界。 学生の頃は楽しく読みました、ラノベ。 いえ、今でも懐かしく読んでます。 好きですよ?異世界転移&転生モノ。 だからといって自分もそうなるなんて考えませんよね? 『ラッキー』と思うか『アンラッキー』と思うか。 実際来てみれば、乙女ゲームもかくやと思う世界。 でもね、誰もがヒロインになる訳じゃないんですよ、ホント。 モブキャラの方が楽しみは多いかもしれないよ? 帰る方法を探して四苦八苦? はてさて帰る事ができるかな… アラフォー女のドタバタ劇…?かな…? *********************** 基本、ノリと勢いで書いてます。 どこかで見たような展開かも知れません。 暇つぶしに書いている作品なので、多くは望まないでくださると嬉しいです。

彼女をイケメンに取られた俺が異世界帰り

あおアンドあお
ファンタジー
俺...光野朔夜(こうのさくや)には、大好きな彼女がいた。 しかし親の都合で遠くへと転校してしまった。 だが今は遠くの人と通信が出来る手段は多々ある。 その通信手段を使い、彼女と毎日連絡を取り合っていた。 ―――そんな恋愛関係が続くこと、数ヶ月。 いつものように朝食を食べていると、母が母友から聞いたという話を 俺に教えてきた。 ―――それは俺の彼女...海川恵美(うみかわめぐみ)の浮気情報だった。 「――――は!?」 俺は思わず、嘘だろうという声が口から洩れてしまう。 あいつが浮気してをいたなんて信じたくなかった。 だが残念ながら、母友の集まりで流れる情報はガセがない事で 有名だった。 恵美の浮気にショックを受けた俺は、未練が残らないようにと、 あいつとの連絡手段の全て絶ち切った。 恵美の浮気を聞かされ、一体どれだけの月日が流れただろうか? 時が経てば、少しずつあいつの事を忘れていくものだと思っていた。 ―――だが、現実は厳しかった。 幾ら時が過ぎろうとも、未だに恵美の裏切りを忘れる事なんて 出来ずにいた。 ......そんな日々が幾ばくか過ぎ去った、とある日。 ―――――俺はトラックに跳ねられてしまった。 今度こそ良い人生を願いつつ、薄れゆく意識と共にまぶたを閉じていく。 ......が、その瞬間、 突如と聞こえてくる大きな声にて、俺の消え入った意識は無理やり 引き戻されてしまう。 俺は目を開け、声の聞こえた方向を見ると、そこには美しい女性が 立っていた。 その女性にここはどこだと訊ねてみると、ニコッとした微笑みで こう告げてくる。 ―――ここは天国に近い場所、天界です。 そしてその女性は俺の顔を見て、続け様にこう言った。 ―――ようこそ、天界に勇者様。 ...と。 どうやら俺は、この女性...女神メリアーナの管轄する異世界に蔓延る 魔族の王、魔王を打ち倒す勇者として選ばれたらしい。 んなもん、無理無理と最初は断った。 だが、俺はふと考える。 「勇者となって使命に没頭すれば、恵美の事を忘れられるのでは!?」 そう思った俺は、女神様の嘆願を快く受諾する。 こうして俺は魔王の討伐の為、異世界へと旅立って行く。 ―――それから、五年と数ヶ月後が流れた。 幾度の艱難辛苦を乗り越えた俺は、女神様の願いであった魔王の討伐に 見事成功し、女神様からの恩恵...『勇者』の力を保持したまま元の世界へと 帰還するのだった。 ※小説家になろう様とツギクル様でも掲載中です。

俺だけ成長限界を突破して強くなる~『成長率鈍化』は外れスキルだと馬鹿にされてきたけど、実は成長限界を突破できるチートスキルでした~

つくも
ファンタジー
Fランク冒険者エルクは外れスキルと言われる固有スキル『成長率鈍化』を持っていた。 このスキルはレベルもスキルレベルも成長効率が鈍化してしまう、ただの外れスキルだと馬鹿にされてきた。 しかし、このスキルには可能性があったのだ。成長効率が悪い代わりに、上限とされてきたレベル『99』スキルレベル『50』の上限を超える事ができた。 地道に剣技のスキルを鍛え続けてきたエルクが、上限である『50』を突破した時。 今まで馬鹿にされてきたエルクの快進撃が始まるのであった。

異世界でフローライフを 〜誤って召喚されたんだけど!〜

はくまい
ファンタジー
ひょんなことから異世界へと転生した少女、江西奏は、全く知らない場所で目が覚めた。 目の前には小さなお家と、周囲には森が広がっている。 家の中には一通の手紙。そこにはこの世界を救ってほしいということが書かれていた。 この世界は十人の魔女によって支配されていて、奏は最後に召喚されたのだが、宛先に奏の名前ではなく、別の人の名前が書かれていて……。 「人違いじゃないかー!」 ……奏の叫びももう神には届かない。 家の外、柵の向こう側では聞いたこともないような獣の叫ぶ声も響く世界。 戻る手だてもないまま、奏はこの家の中で使えそうなものを探していく。 植物に愛された奏の異世界新生活が、始まろうとしていた。

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

処理中です...