カードで戦うダンジョン配信者、社長令嬢と出会う。〜どんなダンジョンでもクリアする天才配信者の無双ストーリー〜

ニゲル

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八章 ボク

96話 対立してでも守ってみせる

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 剣と鎌が火花を散らしながらぶつかり合う。ランストで読み上げられるレベル、つまりカードの出力は同等だったが彼との間には明確な身体差がある。
 成人男性である彼とまだ子供のわたくし。体格差は明白で正面からぶつかり合っていては勝ち目がない。

[スキルカード スラッシュ]

 剣に凄まじいエネルギーが溜まり始める。流石にこれを鎌で受け流すことはできない。
 一旦後ろに下がって躱してカウンターを狙おうとする。だが風斗さんは剣を振る動作を見せながら剣を離し地面に刺させてこちらにタックルをかましてくる。

「しまっ……」

 鳩尾に彼の肘が入り朝食べたものが胃から込み上げてくる。忙しくてお昼を食べていなかったのは幸いだ。もし食べていたら吐瀉物が飛び出ていただろう。

[スキルカード サウンドブラスト]

 地面に突き刺さっている剣から衝撃波が放たれ風斗さんの手元に戻ってくる。そのまま横一文字に腹を斬られそこに鋭い痛みが走る。
 鎧のおかげで腹が裂かれることはなかったが、あまりの激痛にその場に倒れてしまう。

 やっぱり風斗さんは強い。体格差だけじゃない。技術も経験も何もかもわたくしより上ですね……でもここで負けるわけにはいかない。生人さんを殺させるわけにはいかない!

「俺の死角からゲートに手を入れて、背後にゲートを作って攻撃しても無駄だ。それくらいは想定している」

 一か八かで考えた、手を後ろに回して見えない角度から攻撃する作戦も見破られてしまう。

「お前に勝ち目はない。諦めろ」

 恐らく彼は勝つことを諦めろという言葉通りのニュアンスを込めたのだろう。わたくしも最初はそう汲み取った。だが一瞬その言葉の曲解が脳裏を横切ってしまう。

 生人さんを諦めろという曲解が。

「そんなことはできません……わたくしは大事な人を守るためなら……何度だって立ち上がってみせます!」

 なんとか立ち上がるものの実力差が埋まるわけではない。
 自分には何もかも足りない。ならせめて自分から出せるもの。捻る出せるもの。それは覚悟と命だ。決意を抱き捨て身でいくしかない。

「もういい。お前にはしばらく気を失っててもらう。目を覚ましたら全てが終わってるさ」

 完全に勝ちを確信している風斗さんにほんの少しの油断が生まれる。そのおかげかこちらへ振り下ろす剣の軌道がいつもより見やすい。
 わたくしはそれがどこに当たろうとも、たとえそれで取り返しがつかない障害が残る危険性があっても構わず前に踏み出す。

 振り下ろす剣が横へ薙ごうとする鎌にのしかかる。そこに全身全霊の力を込めて剣の勢いを殺す。
 そのまま鎌は剣身を滑っていき風斗さんの脇腹を捉える。

「はぁぁぁぁぁ!!」

 これに全てを賭ける気合いで一気に鎌を振り抜く。鎧に大きな傷が入り風斗さんはその場に膝をついてしまう。

「この事件が終わったらどんな罰でも受けます。でも、生人さんだけは譲れません。すみません」

 わたくしは変身を解除して、生人さんを抱き抱えこの場から立ち去る。


☆☆☆


 あれからどれくらい歩いたのだろうか? 軽く数時間は経っているはずだ。辺りは完全に暗くなっており、スマホからは着信が絶え間なく届く。
 
 スマホは……電源を切っておきましょうか。もし美咲さん関連で何かあったらランストの方に連絡が来るはずですし、それにもし今生人さんをDO本部に連れ帰ったら……

 考えたくもなかったが、もしかしたら指揮官や椎葉さんも生人さんを殺すまではいかなくても人として扱わないことに賛成なのかもしれない。危険分子として監禁される可能性だってある。
 生人さんを守り助ける。その決意こそあるものの今から先何をすべきか明確な未来が見えてこない。

「これからどうしましょうか?」

 先程から微かに反応が見られ、わたくしの背中で小刻みに震えている彼に優しく言葉を投げかける。

「分からない……僕はどうしたらいいのか。誰なのかすら……」

 人のいない山道に入り、少しは落ち着いたのかやっとまともに会話ができるようになる。それでも彼の纏う陰鬱な空気は変わらない。

「あなたは寄元生人。わたくしを救ってくれたヒーローです。
 たとえどんな過去や罪があったとしてもそれだけは変わりようのない事実です。それにわたくしはあなたのどんな過去でも受け止めます。
 ですから一緒に前に向かって歩んでいきませんか? 一緒に……困っている人を助けられるヒーローになりませんか?」

 わたくしの背中に温かい水滴が垂れてくる。その量からも顔は見えずとも表情は想像できる。

「ありがとう峰山さ……」
「よぉ。やっと見つけたぜ。よくもオレを吹き飛ばしてくれたな」

 だが感謝の意を述べ心を温める時間をくれるほど世界は甘くないらしい。いつのまにかキュリアに背後を取られていた。
 奴は明らかに不機嫌そうな態度で戦いは避けられないだろう。

「寧々……だったか? 邪魔だ。生人と続きさせろよ」
「ひっ……」

 生人さんのより一層強くなる震えが背中に伝わる。今の彼はまだ精神的に不安定な状態だ。まともに戦える状態ではない。

「いえ……邪魔なのはあなたです。彼はわたくしが守ります」

 生人さんを近くの木にもたれかからせるように座らせる。そしてランストを装着してスーツカードとアーマーカードを取り出す。

「いいぜ。じゃあ準備運動するか」

 奴は余裕たっぷりに、負ける気など一切考えておらず菱形のランストを装着する。
 
[スーツカード エンジェル レベル1 ready……アーマーカード デビルマンティス レベル20 start up……]
[combine……ウィンドランス レベル50]

 お互いの形態に変身して今戦いの火蓋が切られる。

________________________

次回から生人視点に戻ります
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