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八章 ボク
94話 揺れ動く感情
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わたくし達は生人さんをDO本部に連れ帰ってから各々解散して別々の場所にいる。
彼は今自室に閉じこもっておりノックしようが電話をかけようが何をしても反応はない。
部屋で何もできずにいるとスマホに一通の連絡が届く。
「生人さん!?」
もしかしたら彼から返答が来たのかもしれない。淡い期待を抱いてしまったがそのメールは指揮官から来たものだった。生人さんの部屋の前に来て欲しいという旨のメールだ。
「来てくれたか」
「あの……生人さんはどんな様子でしたか?」
「ここに運んできた時に少し話しかけたが、何も反応しなかった。心ここに在らずって感じだ」
美咲さんが言った通り生人さんの心は壊れてしまったのかもしれない。もう人間としての、わたくしと過ごしたあの日々の記憶はもう存在しないのかもしれない。
胸が締め付けられる。苦しい。辛い。彼の中でわたくしという存在が消えてしまう。それは自分にとって耐えがたい苦痛だ。
「寧々がいるなら少しはあいつも反応を示してくれるかもしれない。だから頼めるか?」
「えぇ……例え彼が寄生虫だとしても、わたくしの友達で大事な人ということには変わりません」
扉を開き生人さんの部屋に入る。
彼はベッドに座り壁にもたれかかっている。だらんと首と腕を脱力させており、瞳には生気が宿っていなく呼吸する音さえどれだけ耳を澄ましても聞こえない。
「なぁ生人。お前はよく頑張った。もう戦わなくていい。でも……頼むから戻ってきてくれ」
指揮官は生人さんの力の籠っていない手を掴み、涙を流しながら本心から彼に接して正気に戻そうと試みる。
「美咲の正体にも、お前の件にも気づけなかったオレがおこがましいと思うかもしれない。でも、それでもお前はオレにとってたった一人の家族なんだ。
だからまた一緒に暮らそう。二人でゆっくりすごそう」
この言葉にも生人さんは反応を示さずその冷たい反応についには指揮官も表情が段々と暗くなっていく。
「生人さん。あなたが例え何者だとしてもわたくしを救ってくれたことには変わりありません。
あなたはわたくしにとって本物のヒーローなんです。決して悪魔なんかじゃありません! ですから……お願いですから戻ってきてください!」
それに、特に"ヒーロー"という単語に彼は反応を示す。体を震わせ、やっと腕を動かし両手を頭の上に持ってくる。
「僕は……ヒーロー……?」
「そうです! 生人さんはヒーローなんです!」
瞳に生気が戻り始め、わたくしの生人さんが。あの温かい彼が戻ってきてくれる。
そんな希望は簡単に崩れ去ってしまう。彼の悲鳴によって。
「うわぁぁぁぁぁ!! ボクは……僕は!! ヒーロー……違う! 全部壊したい……違う!! 僕は……ボク……僕……いやだぁぁあぁぁぁ僕はあんなことしない!! ボクはこんなことしない!!」
激しい錯乱を見せ、半狂乱になり枕を投げたり壁に頭を打ちつけ穴を開け始める。
「落ち着け生人!」
指揮官が生人さんに飛びつき押さえつける。彼の顔は涙でぐしゃぐしゃになっており、そんな酷い顔など今の彼は気にできないほど憔悴しきっている。
「どけ……どけよぉ!!」
生人さんは指揮官を振り払い壁に叩きつける。指揮官はその際に頭を強く打ちつけ気を失う。
「生人さん何してるんですか!?」
流石にもう言葉でなんて穏便なことはできず、事態が悪化する前に彼を羽交締めにしてこれ以上被害が出ないようにする。
「うっ……力が……」
いつもならわたくしが上に乗ってしまえば完全に彼を封じ込めるのに、彼はまるで埃を払うように簡単にわたくしを退かす。
床にお尻を打ちつけタンスの角に頭をぶつけてしまう。
「あっ……ごめっ……」
血を垂らすわたくしの頭を見てやっと自分がしてたことに気づいたのか、怯えた表情で後退る。
「大丈夫……です。まだ間に合います。だからまた、わたくしと一緒に……一緒にヒーローになりましょう?」
「あ、あぅ……」
精神的に追い詰められた彼はついに限界を迎え、選択から逃げ窓を突き破り外に飛び出す。
「待ってください!! ここは三階……」
重く鈍い音が鳴り響く。
わたくしはすぐに窓から下を覗くが、そこにはもう生人さんの姿はない。もう既に走り出しておりここの敷地外に向かっている。
落下したと思われる地点には血や内臓が飛び散っており、生人さんは怪我を高速で治しながら遠ざかっていく。
彼は今自室に閉じこもっておりノックしようが電話をかけようが何をしても反応はない。
部屋で何もできずにいるとスマホに一通の連絡が届く。
「生人さん!?」
もしかしたら彼から返答が来たのかもしれない。淡い期待を抱いてしまったがそのメールは指揮官から来たものだった。生人さんの部屋の前に来て欲しいという旨のメールだ。
「来てくれたか」
「あの……生人さんはどんな様子でしたか?」
「ここに運んできた時に少し話しかけたが、何も反応しなかった。心ここに在らずって感じだ」
美咲さんが言った通り生人さんの心は壊れてしまったのかもしれない。もう人間としての、わたくしと過ごしたあの日々の記憶はもう存在しないのかもしれない。
胸が締め付けられる。苦しい。辛い。彼の中でわたくしという存在が消えてしまう。それは自分にとって耐えがたい苦痛だ。
「寧々がいるなら少しはあいつも反応を示してくれるかもしれない。だから頼めるか?」
「えぇ……例え彼が寄生虫だとしても、わたくしの友達で大事な人ということには変わりません」
扉を開き生人さんの部屋に入る。
彼はベッドに座り壁にもたれかかっている。だらんと首と腕を脱力させており、瞳には生気が宿っていなく呼吸する音さえどれだけ耳を澄ましても聞こえない。
「なぁ生人。お前はよく頑張った。もう戦わなくていい。でも……頼むから戻ってきてくれ」
指揮官は生人さんの力の籠っていない手を掴み、涙を流しながら本心から彼に接して正気に戻そうと試みる。
「美咲の正体にも、お前の件にも気づけなかったオレがおこがましいと思うかもしれない。でも、それでもお前はオレにとってたった一人の家族なんだ。
だからまた一緒に暮らそう。二人でゆっくりすごそう」
この言葉にも生人さんは反応を示さずその冷たい反応についには指揮官も表情が段々と暗くなっていく。
「生人さん。あなたが例え何者だとしてもわたくしを救ってくれたことには変わりありません。
あなたはわたくしにとって本物のヒーローなんです。決して悪魔なんかじゃありません! ですから……お願いですから戻ってきてください!」
それに、特に"ヒーロー"という単語に彼は反応を示す。体を震わせ、やっと腕を動かし両手を頭の上に持ってくる。
「僕は……ヒーロー……?」
「そうです! 生人さんはヒーローなんです!」
瞳に生気が戻り始め、わたくしの生人さんが。あの温かい彼が戻ってきてくれる。
そんな希望は簡単に崩れ去ってしまう。彼の悲鳴によって。
「うわぁぁぁぁぁ!! ボクは……僕は!! ヒーロー……違う! 全部壊したい……違う!! 僕は……ボク……僕……いやだぁぁあぁぁぁ僕はあんなことしない!! ボクはこんなことしない!!」
激しい錯乱を見せ、半狂乱になり枕を投げたり壁に頭を打ちつけ穴を開け始める。
「落ち着け生人!」
指揮官が生人さんに飛びつき押さえつける。彼の顔は涙でぐしゃぐしゃになっており、そんな酷い顔など今の彼は気にできないほど憔悴しきっている。
「どけ……どけよぉ!!」
生人さんは指揮官を振り払い壁に叩きつける。指揮官はその際に頭を強く打ちつけ気を失う。
「生人さん何してるんですか!?」
流石にもう言葉でなんて穏便なことはできず、事態が悪化する前に彼を羽交締めにしてこれ以上被害が出ないようにする。
「うっ……力が……」
いつもならわたくしが上に乗ってしまえば完全に彼を封じ込めるのに、彼はまるで埃を払うように簡単にわたくしを退かす。
床にお尻を打ちつけタンスの角に頭をぶつけてしまう。
「あっ……ごめっ……」
血を垂らすわたくしの頭を見てやっと自分がしてたことに気づいたのか、怯えた表情で後退る。
「大丈夫……です。まだ間に合います。だからまた、わたくしと一緒に……一緒にヒーローになりましょう?」
「あ、あぅ……」
精神的に追い詰められた彼はついに限界を迎え、選択から逃げ窓を突き破り外に飛び出す。
「待ってください!! ここは三階……」
重く鈍い音が鳴り響く。
わたくしはすぐに窓から下を覗くが、そこにはもう生人さんの姿はない。もう既に走り出しておりここの敷地外に向かっている。
落下したと思われる地点には血や内臓が飛び散っており、生人さんは怪我を高速で治しながら遠ざかっていく。
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