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八章 ボク

93話 これが現実

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 美咲さんはホテルの外壁にめり込み低い唸り声を上げる。

[必殺 ウォーターウィップ]

 キュリアの腕が鞭のように伸びて、それは美咲さんに向かって何度も打ちつけられる。それは壁や体を抉り取り、ついには美咲さんの変身を解かせて地面に這いつくばらせる。

「オレを生人の生体サンプルから生み出しただけで親ズラしてんじゃねぇよ!!」

 奴は美咲さんの髪の毛を掴み上げ、一言吐き捨てた後にゴミ袋を扱うようにその場に放り捨てる。
 そしてその一言はこちらにも多大な影響を与える。

「僕から生み出された……?」

 生人さんは何が何だか分かっておらず、一方わたくし達三人は額に嫌な汗が流れる。

「ふっ……ふふふ。私は君の意思を尊重しなかった。その報いを受けたというわけか。いいだろう。甘んじて受けてあげよう」

 美咲さんは諦めたようにその場にグッタリとして力を抜く。
 
「最初からそう言っときゃよかったんだよ。さ、続きやろうぜ生人?」

 本当に邪魔者が全員居なくなり、奴は足を浮つかせて生人さんの方へと近づいていく。

「とでも言うと思ったかこの低脳の間抜けがぁ!!」

 しかし突如として美咲さんの口から今までの丁寧な口調からは考えられない下品な言葉が放たれる。

「生人君に真実を隠していたのは君のためでもあったんだよ。全部思い出したら彼の心が壊れて戦いどころじゃなくなるからねぇ!
 だから……これは君への罰だ。そして私の新たなステージへと踏み出す、歴史を揺るがす一歩となるだろう」

 美咲さんがゆっくりと立ち上がり、邪悪な笑みを顔に貼り付け大きく息を吸い込む。

「寄元生人ぉ!! 何故君が重症を負ってもすぐにそれが完治してしまうのか!? どうしてそこまでの異常な身体能力を発揮できるのか!?」

 この場にいる生人さん以外の全員が奴が何を言おうとしているか察する。そしてその先には破滅しかないことを瞬時に理解する。

「黙れ!! それ以上口を開くなぁ!!」

 風斗さんが血まみれの体を動かしフラフラになりながらも奴に向かって走り始める。
 
「何故ダンジョンというものが偶然君が生きている時代に現れたのかぁ!? どうしてすぐ側に私という黒幕がいたのかぁ!? そして何故あれらのアーマーカードを産み出せたのかぁ!?」
「生人さん!! 耳を塞いでください!!」
「生人くん!! 聞いちゃだめぇ!!」

 わたくしと椎葉さんが彼の耳を塞ごうとするも距離が遠く、この体じゃ間に合わない。
 キュリアもやっと自分が不利な立場にいることを理解し駆け出すもこれも間に合わない。

「それは君がこの惨状を作り出した……史上最悪の宇宙からの外来生物。外から飛来した寄生虫だからだぁぁぁぁぁ!!!」

 ついに告げられてしまった。
 ついに彼は知ってしまった。
 自分がヒーローなどではなく全てを破壊し尽くそうとする悪魔だということを。今まで正義として裁いてきた悪は全て自分が生み出したものなのだと。

「嘘だ……そんなはずがない。僕が……ボク……が……あ、ぼ、ボ、ボクは……嫌だ。違う。違う違う違う違う違う!!! あ、ぁぁぁぁ!!!!」

 彼の体が膨れ上がり始め、メキメキと骨が折れ砕ける音を鳴り響かせる。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 ついには彼の背中が裂けそこから白い大量の細い足が生えた虫が飛び出てくる。その大きさは廃ホテルなど優に越してしまうほどで、それはただ破壊の限りを尽くさんとする悪魔そのものだ。

「あれが寄生虫……生人なのか? うわっ!!」

 呆気に取られているうちに暴れ狂う足の一本がキュリアに命中して彼は宙に投げ飛ばされどこかへ消えてしまう。

「ふ、ふふっ……予想以上だ。流石一族でも最大級の力を持つだけはある。流石だ生人君!! おっと、もう声は聞こえていないか……」

 美咲さんは足を引きずりながらもこの場から立ち去ろうとする。

「じゃあね。みんなの幸運を、生人君の心が壊れないことを祈ってるよ」

 美咲さんはそのまま曲がり角を曲がり姿を消してしまう。

「キシャァァァァァァァ!!!」

 もう生人さんの面影などないただの巨大な白い芋虫の形をした化け物は辺りの廃墟に体をぶつけ倒壊させる。

「生人さん!! 目を覚ましてください!!」

 わたくしは必死に呼びかけるものの返答などなく、頭部と思われる箇所をこちらに向けたかと思えばそのまま突進してくる。
 頭の中が真っ白になる。死の危険が目の前に現れて何も考えられなくなる。あの質量にあの速度でぶつかられた死んでしまうことは明白。そして躱すことは不可能。
 わたくしがここで死んでしまうことは自明の理だ。

 わたくしはここで死んでしまう。でも生人さんの人生はこれからも……きっと続いていく。ならせめてこれだけは言っておかないと……たとえ伝わらなかっとしても……!!

「生人さん。今までありがとうございました」

 生人さんはピタリと動きを止めて、その際の風圧によりわたくしはその場に尻餅を突いてしまう。
 生人さんはみるみる体を縮ませて、最終的にはいつもの人間の姿になって裸でわたくしの前に横たわる。意識はなく顔色が大変悪い。
 とりあえず九死に一生を得たのは間違いない。だけれども状況は確実に悪い方へと急降下しているのは嫌でも理解できてしまうのだった。
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