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八章 ボク

92話 謀反

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 しばらく進み着いた先はもう使われていない廃ホテルの前。
 わたくし達がそこに着くなりキュリアが三階の窓から飛び降りてきて、落下しながら回し蹴りを放ってくる。それは先頭にいた生人さんを狙っており、その場でバク転しながら躱し迎撃の姿勢を取る。

「随分と早い到着だったね。一体どうして……」

 ホテルの玄関から美咲さんが頭の上に疑問符を浮かべながら出てくる。しかし余裕も含んでいたそれはすぐに崩れ去る。智成さんの、父親の顔を見たからだ。

「あぁ……そういうことか。そのクズが情報を流したのか。ほんっとう昔から私の邪魔になることだけは一丁前に一流だからな」

 明らかに敵意を孕んだ言葉を投げつけられても智成さんは表情を一切変えない。その穏やかな心持ちで一歩前へと歩み寄る。

「美咲。もうこんなことはやめるんだ。お前が私を憎む理由は分かる。病気の母親を仕事を理由に見舞いに来ず死なせた私が憎いのだろう?
 でもそれを他の人に向けないでくれ。お前はこんなことをする人間じゃなかったはずだ」

 嘘偽りのない彼の本音なのだろう。だが奴はそんなものに靡く様子はない。

「勘違いするなよ。私の今やっていることは母さんやあんたには関係ない。
 全ては私の好奇心を満たすため。実験を完成させるためにやってるんだ」
「なぁ美咲? もう始めていいか? 今度はとことん最後までやらせてくれるんだろ?」

 キュリアが我慢できずに体を震わせる。今にもこちらに飛びかかってきそうな気迫だ。

「やれ。今回私は高みの見物とさせてもらうよ」

 二人は変身し美咲さんは跳び上がって四階の窓に座りこちらを見下ろす。

「さぁやろうぜ! ここが最終ステージだ!」
「智成さん下がっててください! ここからは僕達が……」

 彼を避難させるよりも先にキュリアの拳が生人さんに届いてしまう。青色のグローブが腕に深くめり込む。
 智成さんは迷いを見せながらもこの場から立ち去り、わたくし達も加勢し四人がかりで奴の動きを封じ込めるように立ち回る。

「邪魔くせなぁ!!」

 奴は両手を大きく広げて振り回しわたくし達四人をそれぞれ違う方向に跳ね飛ばす。

「オレもこれ、使わせてもらうぜ」

 奴が取り出したのは一枚のスキルカード。それを菱形のランストの前に持ってくる。

[scan……スキルカード 疾風]

 それを使用した途端奴の姿が見えなくなり、いつのまにかわたくし達は高く宙を舞っていた。

[スキルカード 疾風]

 生人さんも同じカードを使用して対抗するものの明らかに奴の方が速く、応戦するだけでなく合間にわたくし達にも通り魔のように攻撃を放ってくる。
 そのせいで生人さん以外みんな変身を解かれてしまい、生人さんも傷だらけだ。

 これが本気のキュリアの力……わたくし達じゃ勝てない……!!
 
 目の前に諸悪の根源がいるというのに自分ではどうすることもできない。そのことに怒りが頭の中で沸騰するものの体に力が入らない。

「生人……あの時の力使えよ」
「あの時……?」
「キュリアァ!!」

 必死に声を張り上げ奴が言おうとしていたことを遮る。今奴は生人さんに知ってはいけない真実を告げようとした。
 それを止めなければ彼の心は壊れてしまう。たとえこの戦いに負けたとしてもそれだけは避けなければならない。

「寧々君の言う通りだ。余計なことは言うな」
「ちっ……分かったようっせーな!」

 奴は悪態をつきながら一発生人さんの顔面に拳を入れる。彼は踏ん張るもののそのせいで追加で数発殴られてしまう。

「ごはっ!!」

 最後に一発重たいアッパーをくらい彼の変身も解けてしまう。
 
「つまんねぇ……おい起きろ! まだできんだろ!?」

 もうズタボロの彼を持ち上げ、乱雑に扱い彼の尊厳を踏み躙る。

「さっさと本気出せよ! そんなんじゃ楽しくねぇんだよ!」
 
 奴の拳が一発彼の腹にめり込む。軽く小突いただけだが鎧を着ていない彼にとっては致命傷になり得る一撃だ。
 
「いつまで人間ぶってる気だ? 焦らすのもいい加減に……」
「おい」

 美咲さんが飛び降りてきて低い声を出しキュリアの腕を掴み上げる。そのおかげで生人さんへの暴力が止み彼はその場に倒れる。
 幸いまだ意識はあるようだが出血が酷く、内臓がやられているのか口からも血が漏れ出ている。

「変身していない状態ではデータが取れない。それに生人君は代えが効かないんだ。殺すような真似はするなと何度も言ったはずだ」

 美咲さんは掴んだ腕を強く引っ張り生人さんからキュリアを引き離す。
 
「お前うぜぇんだよ……オレに指図するな!!」

 だがなんとキュリアはその拳を美咲さんに向かって放ちホテルの方へと吹き飛ばすのだった。
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