上 下
95 / 130
八章 ボク

90話 相反する想い

しおりを挟む

「みんなご苦労様だった。寧々は足の怪我は大丈夫か?」
「はい。殴られた箇所もすぐに手当てしたおかげで大事には至りませんでした」

 キュリアに殴られたふくらはぎは腫れてはいたが、適切な治療を受けたのでもう大体治っている。それに最悪わたくしにはエンジェルの飛翔能力があるので大丈夫だろう。

「今日集まってもらったのはこの前美咲の居場所を教えてくれたある人の話を聞いてもらいたいからだ」

 先日指揮官はある線から情報をもらったと言っていた。きっとその人だろう。
 会議室の扉が開かれ中老の身なりの整った男性が入ってくる。
 
 恐らくこの場にいる人間なら職業上彼の顔を知っているはずだ。ダンジョン省の大臣。いや元大臣である安寺智成さんだ。
 美咲さんがエックスだと判明してからメディアに詰め寄られ、それからすぐに大臣を辞任している。

「智成さん。今回は協力ありがとうございます。こちらへどうぞ」

 相手が相手なので指揮官もかしこまり丁寧に応対し椅子に案内する。

「そんなかしこまらなくてもいいさ。今の私はただの無職のジジイさ」

 大きな権力を持った人は態度が大きくなることが多いが、この人はそんなことはなく謙虚で礼儀正しい。
 ダンジョン省の大臣は海外相手に日本にしかないダンジョンをどう扱うか話し合ったりするので、その癖で誰にでも礼儀正しく話すのだろう。

「実は私は今まで秘密裏に田所君と会っていた。そして私の娘が……美咲が裏で違法な実験を行っていたことについて話し合っていたんだ」

 手紙の内容から田所さんが裏で動いていたのは察しがつくが、まさか智成さんまで関わっていたとは思ってもみなかった。
 
「私は田所君が調査している最中美咲の隠れ家を部下や知り合いを使っていくつか探していた。今回のもその見つけたうちの一つだ」
「なら今も美咲さんの居場所は分かるのでしょうか?」
 
 わたくしのその質問に対して彼はあまり良い顔色を返さず、渋い表情で語り出す。

「恐らく探られていることはあいつも気づいているだろう。だがこちらもあらゆる手を使って探す。一週間もらえれば居場所は割り出せると思う。
 それまで君達には心身の調整などを行ってもらいたい」

 そうだ。あの二人を止められるのはDOであるわたくし達四人しかいない。自衛隊や警察の人達じゃ蹂躙されてしまうだけ……わたくし達に全てがかかっている……

 そう考えてしまいグッとプレッシャーがかかる。前までの自分だったら耐えられなかったかもしれない。
 でも今の自分は違う。生人さんのおかげで前向きになれて、勇気をもらえて。だからわたくしは下を向かずにいられる。

 指揮官に健康に気をつけるよう一言言われ会議は終わりとなる。
 指揮官が智成さんを連れていき、それに続いて生人さんも部屋に戻っていく。

 わたくしも自室で怪我した部分をマッサージでもしようかと思ったが、じっと鋭い視線を生人さんに向ける風斗さんのことが気になってしまいその場に留まる。

「真太郎さん? どうしたの?」

 それには椎葉さんも気づいており、彼は生人さんが部屋に入ったのを確認してから口を開く。

「生人について例の件……あのことをずっと考えてしまうんだ」
「あの件ですよね? でもそれはこの前指揮官と話し合って方針を取り決め……」
「俺の妹が災厄の日に死んだって話は知っているか?」

 初めて聞く話だ。
 確かにそれならこの前アイ……椎葉さんが妹に似てるという話をした時どこかもの悲しげな表情をしていたことに説明がつく。
 
「生人は大事な後輩だ……田所先輩の意思も尊重してあいつを守りたい……その考えは間違いなく俺の中にあるんだ」

 風斗さんは頭を抱えながらも話し続ける。目も口からも感情が感じ取れない無表情のまま。

「それでも、あいつさえいなければ妹が死ぬことはなかった。あんな悲惨な目に遭うことはなかった。そう考えてしまうんだ」

 生人さん……つまり寄生虫はダンジョンを生み出した……災厄の日を発生させた原因そのものだ。
 災厄の日に親族を失った人は多い。だからこそサタンに対して恨みを持つ人も少なくないし、結果今の風斗さんのような心情となるのも理解できる。
 実際わたくしはそのことについて上手く反論することができないのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件

桜 偉村
恋愛
 別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。  後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。  全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。  練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。  武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。  だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。  そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。  武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。  しかし、そこに香奈が現れる。  成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。 「これは警告だよ」 「勘違いしないんでしょ?」 「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」 「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」  甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……  オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕! ※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。 「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。 【今後の大まかな流れ】 第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。 第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません! 本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに! また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます! ※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。 少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです! ※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。 ※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

処理中です...