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八章 ボク
87話 仇
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「みんなに知らせがある。キュリアが脱獄したらしい」
田所さんの葬式から五日後。世間は年越しムードで盛り上がっていたがわたくし達はそうではなかった。
風斗さんは謝りはしたものの険悪な空気は変わらず、生人さんもわたくしへの笑顔こそ絶やさないがここ数日自室に閉じ籠り気味だ。
今はこうして会議室に居てはくれているが、別れたら次会えるのは十数時間後になってしまうだろう。
「もしかして美咲さんが……?」
「目撃情報から考えるにそうだろう」
状況は更に最悪な方向へと進展している。
敵は田所さんすらも勝てなかった今の美咲さんに、レベル25の力があるキュリア。
どちらも一対一で向かい合ったらまず勝てない強敵だ。
それに今は田所さんもいない。いくらわたくし達がレベル20の力を手にしたといっても、この空いてしまった穴はあまりにも大きい。
「で、でもアタシ達みんなで力を合わせればきっと何とかなるよ!」
「そうですよ! 頑張りましょうよ!」
わたくしも椎葉さんに呼応するように三人に呼びかけるが、反応はあまり良いものではなかった。
生人さんと指揮官は暗い顔をして小さく返事をするだけで、風斗さんにいたっては何も話さず押し黙るだけだ。
「じゃあ各々解散してくれ。いつキュリアや美咲が現れるか分からない。いつ緊急連絡が来ても大丈夫なようにしてくれ」
解散を言い渡され各々会議室から出ていき、そこで自室に戻ろうとする生人さんの肩を掴み引き留める。
「どうしたの峰山さん?」
「えっとその……い、今から生人さんの部屋に行ってもよろしいでしょうか?」
何も言うことを考えていなかったので、とにかく咄嗟に適当なその場しのぎの言葉を紡ぐ。
優しい生人さんはそんな頼みでも二つ返事で承諾してくれてわたくしを部屋に招き入れてくれる。
部屋に入ってしばらく無言の時間が続き、その間わたくしはずっと彼を見続ける。
美咲さんが裏切り者だと分かってからずっとどこか落ち込んでいるようだったが、この前の葬式場での一件以降輪をかけて酷くなっている。
「ごめん。もしかして心配かけちゃってた?」
生人さんはコップに注がれたメロンソーダをちょびちょびと少しづつ飲みながら、ばつが悪そうにする。
「い、いえそんなことは……すみません。正直に言いますと最近の生人さんは見てて不安になります。落ち込む気持ちも、その心情もお察しします。
ですが、そんなに辛いならもっと周りを頼ってください。わたくしは生人さんの味方です」
彼の持っているコップの中の氷が音を立て揺れ出す。それを机に置きわたくしの方に向き直り再び口を開く。
「実は美咲さんに寝返れって誘われてたんだ。二十四日の夜に電話がかかってきて、みんなに言えずにいたんだ。
あはは……こんな隠し事しているようじゃ風斗さんに疑われて当然だよね……ヒーロー失格だ……」
身近な人間が、身内当然の人間が自分を殺そうとしてきた凶悪犯だった。
そのことによる精神的ダメージは計り知れない。いつも明るい彼から光が失われてる。
「あなたはヒーローなんです」
「えっ……? そりゃ僕はヒーローを目指してるけど……」
「あなたはわたくしのヒーローなんですよ。こんな姉へのコンプレックスを抱えて、才能がある人を誰かれ構わず嫉妬するわたくしさえも救ってくれた。
あなたは間違いなくヒーローなんです。これだけは決して揺るぎません」
わたくしは身を乗り出し彼の瞳を覗き込む。綺麗で純粋な瞳だ。その何でも受け入れてくれるような器に訴えかける。
「そうだね……一人で抱え込んで悩んで……うん! もう一人で悩むのはやめた! だから……頼ってもいいかな?」
生人さんの瞳は光を取り戻しており、わたくしを救ってくれた時のような温かさが戻っている。
「はいもちろんです! 一緒に美咲さんを捕まえて……田所さんの仇を取りましょう!」
「うん!! 僕達ならきっと……」
さぁ気合いを入れようと意気込もうとしたが、生人さんの言葉に被せてランストから緊急連絡のアラーム音が鳴る。
「もしもし父さん!?」
「今ある人からの情報で美咲の居場所が分かった! すぐに向かってくれ!」
それだけ伝えると通話は切れ、わたくしと生人さんの視線が合う。
言葉は交わさず、迷いなくすぐに部屋を飛び出すのだった。
田所さんの葬式から五日後。世間は年越しムードで盛り上がっていたがわたくし達はそうではなかった。
風斗さんは謝りはしたものの険悪な空気は変わらず、生人さんもわたくしへの笑顔こそ絶やさないがここ数日自室に閉じ籠り気味だ。
今はこうして会議室に居てはくれているが、別れたら次会えるのは十数時間後になってしまうだろう。
「もしかして美咲さんが……?」
「目撃情報から考えるにそうだろう」
状況は更に最悪な方向へと進展している。
敵は田所さんすらも勝てなかった今の美咲さんに、レベル25の力があるキュリア。
どちらも一対一で向かい合ったらまず勝てない強敵だ。
それに今は田所さんもいない。いくらわたくし達がレベル20の力を手にしたといっても、この空いてしまった穴はあまりにも大きい。
「で、でもアタシ達みんなで力を合わせればきっと何とかなるよ!」
「そうですよ! 頑張りましょうよ!」
わたくしも椎葉さんに呼応するように三人に呼びかけるが、反応はあまり良いものではなかった。
生人さんと指揮官は暗い顔をして小さく返事をするだけで、風斗さんにいたっては何も話さず押し黙るだけだ。
「じゃあ各々解散してくれ。いつキュリアや美咲が現れるか分からない。いつ緊急連絡が来ても大丈夫なようにしてくれ」
解散を言い渡され各々会議室から出ていき、そこで自室に戻ろうとする生人さんの肩を掴み引き留める。
「どうしたの峰山さん?」
「えっとその……い、今から生人さんの部屋に行ってもよろしいでしょうか?」
何も言うことを考えていなかったので、とにかく咄嗟に適当なその場しのぎの言葉を紡ぐ。
優しい生人さんはそんな頼みでも二つ返事で承諾してくれてわたくしを部屋に招き入れてくれる。
部屋に入ってしばらく無言の時間が続き、その間わたくしはずっと彼を見続ける。
美咲さんが裏切り者だと分かってからずっとどこか落ち込んでいるようだったが、この前の葬式場での一件以降輪をかけて酷くなっている。
「ごめん。もしかして心配かけちゃってた?」
生人さんはコップに注がれたメロンソーダをちょびちょびと少しづつ飲みながら、ばつが悪そうにする。
「い、いえそんなことは……すみません。正直に言いますと最近の生人さんは見てて不安になります。落ち込む気持ちも、その心情もお察しします。
ですが、そんなに辛いならもっと周りを頼ってください。わたくしは生人さんの味方です」
彼の持っているコップの中の氷が音を立て揺れ出す。それを机に置きわたくしの方に向き直り再び口を開く。
「実は美咲さんに寝返れって誘われてたんだ。二十四日の夜に電話がかかってきて、みんなに言えずにいたんだ。
あはは……こんな隠し事しているようじゃ風斗さんに疑われて当然だよね……ヒーロー失格だ……」
身近な人間が、身内当然の人間が自分を殺そうとしてきた凶悪犯だった。
そのことによる精神的ダメージは計り知れない。いつも明るい彼から光が失われてる。
「あなたはヒーローなんです」
「えっ……? そりゃ僕はヒーローを目指してるけど……」
「あなたはわたくしのヒーローなんですよ。こんな姉へのコンプレックスを抱えて、才能がある人を誰かれ構わず嫉妬するわたくしさえも救ってくれた。
あなたは間違いなくヒーローなんです。これだけは決して揺るぎません」
わたくしは身を乗り出し彼の瞳を覗き込む。綺麗で純粋な瞳だ。その何でも受け入れてくれるような器に訴えかける。
「そうだね……一人で抱え込んで悩んで……うん! もう一人で悩むのはやめた! だから……頼ってもいいかな?」
生人さんの瞳は光を取り戻しており、わたくしを救ってくれた時のような温かさが戻っている。
「はいもちろんです! 一緒に美咲さんを捕まえて……田所さんの仇を取りましょう!」
「うん!! 僕達ならきっと……」
さぁ気合いを入れようと意気込もうとしたが、生人さんの言葉に被せてランストから緊急連絡のアラーム音が鳴る。
「もしもし父さん!?」
「今ある人からの情報で美咲の居場所が分かった! すぐに向かってくれ!」
それだけ伝えると通話は切れ、わたくしと生人さんの視線が合う。
言葉は交わさず、迷いなくすぐに部屋を飛び出すのだった。
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