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七章 最高のクリスマスプレゼント

84話 炎火

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 田所さんの葬式で念仏が唱えられている最中生人さんがお腹を痛そうに手で覆いながら席を外す。
 トイレに行きたくなるのも仕方ない。親しい人が死んで彼はこの二日気分が沈んでいた。そのせいで体調も優れないのだろう。

 しばらくして念仏が終わり、順番に花を彼の元まで持っていき最後の別れの挨拶をする。
 生人さんはまだ帰ってきておらず、わたくしの順番が来ても帰ってくる気配はない。
 
 もう十分は経っているというのに戻ってこないことを不自然に思うが、きっと本当にお腹の調子がすこぶる悪いのだろう。
 それでも早く戻ってこないと最後の別れができなくなってしまう。
 そのような心配を抱えながらも、わたくしは棺桶の前まで花を持っていく。

「今までありがとうございました……後は任せてください」

 花を彼の顔の横に置き、手向けの言葉を投げかける。今までの感謝と美咲さんを必ず捕まえて償わせるという決意を込めて。
 美咲さんはあの日の後姿を眩ませ今もなお見つかっていない。
 今どこにいるかも、何をしているのかも分からない。でも必ず捕まえてみせる。悪事を働き彼を殺した罪を償わせてやるという気持ちだけは揺るがない。

 椎葉さん、指揮官、風斗さんも最後の別れが済みこの時間も終わりを告げようとしていた。
 それなのにまだ生人さんは戻ってこない。このままでは彼は最後の言葉を伝えられなくなってしまう。

「生人は何をやってるんだ? 最後の別れだっていうのに……」

 隣に座っていた風斗さんがギリギリ聞こえるくらいの声で言葉を漏らす。
 きっと無意識に口から出た本心なのだろう。彼も喋ったことに気づいていないようだ。

 結局最後まで生人さんは戻らず、遺体が火葬場まで運ばれることとなる。

「指揮官。生人さんはお手洗いですか?」
「そうだが……遅いな。何してるんだあいつ? ちょっと様子を見てくる」

 指揮官が部屋を出て生人さんの様子を見に向かう。
 田所さんが運び出されようとしている。これでもう二度と彼の顔は見れなくなる。
 わたくしは拳を握り悔しさを噛み締める。自分がもっと強ければ、初めてエックスと会った時に奴を捕えていれば彼は死なずに済んだのではないかと考えてしまう。

「寧々ちゃん。何か焦げ臭くない?」

 田所さんがまさに今運び出されようとした時、近くにいた椎葉さんが話しかけてくる。

「確かに……何でしょうかこの臭い……」

 意識してみれば彼女の言う通り焦げ臭い臭いがどこからか来ているような気がする。

「みんな火事だ!!」

 違和感を覚えるのと同時に扉が開け放たれ指揮官が血相を変えて戻ってくる。

「向こうで火の手が上がっている! それにサタンもいるんだ!」
「何で先輩の葬儀の時にそんなことが……」

 風斗さんが即座にランストを装備し指揮官の元まで向かい事情を伺う。
 わたくしと椎葉さんは扉の方まで行き廊下の様子を確認する。

「ギャルゥァ!!」

 そこには狼人間のような形状のサタンがいた。牙を剥き出しにし手には鋭い爪を生やしとにかく壁を引っ掻き破壊している。
 しかしこちらに視線を移すと咆哮を上げ四足歩行に切り替え走ってくる。

「変身」
「変身っ!」

[エンジェル レベル1 ready…… デビルマンティス レベル20 start up……]
[アイドル レベル1 ready…… ドールマジシャン レベル20 start up……]

 こちらの部屋に飛び込む直前にわたくし達はカードをセットし各々の形態へと変身する。
 飛びかかってくる狼人間を掴みそのまま投げて天井に激突させる。その衝撃で狼はグシャリと潰れ、血が垂れてくるがそれらが地面に着く前に消滅し数枚のカードがパラパラ落ちてくる。
 
 周りからは悲鳴が上がり、そんな彼らを風斗さんと指揮官が避難させてくれる。

「ねぇ寧々ちゃん。これもしかしてエックス……いや美咲がやったのかな? サタンを呼び出して……」
「きっとそうでしょうね。許せません……田所さんを殺害した上にこんなことをして彼の命を侮辱するなんて……」

 廊下の奥から見える燃え盛る炎を見て、こんなことをした美咲さんに憤りを感じる。

「他のサタンもいるかもしれません。わたくし達で対処しましょう!」
「そうだね。行こう寧々ちゃん!」

 幸いわたくし達は今レベル20のアーマーを装着している。ただのサタンは敵ではないだろう。
 サタンももちろんだがこの火災も何とかしないといけない。
 わたくしと椎葉さんは部屋を出て廊下を突き進むのだった。
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