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六章 文化祭
70話 準備
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「焼き加減お好みハンバーグです」
店員さんが両手にハンバーグの乗ったお皿を持ち机の上に置く。
ハンバーグの横には焼き石が置いてあり、ここでハンバーグをお好みに焼くのだろう。
「えっと、さっきの話ってどういうこと?」
店員さんによって遮られてしまった話を再開させる。
「いやー前から思ってたんだけど、君ってアイドルの才能があると思ってね。ライブの最後の方だけで良いから……本当に一曲だけでいいからライブに参加してくれないかなって」
「でも僕音楽に関しては素人だよ? 椎葉さんの隣になんてとてもじゃないけど……」
椎葉さんは超一流アイドルだ。その隣に立って歌うなんて末恐ろしい。僕なんかができるわけがない。
「君って物覚え良いしきっと大丈夫だと思うんだ。それに上手くやるんじゃなくて良い感じに盛り上げてもらうことが今回の目的だし」
「盛り上げる?」
「文化祭でやるライブって多分見る人の大多数が生徒さんとかになるでしょ? だから知名度や人気が高い生人くんがいれば盛り上がると思うんだ」
彼女の言うことは筋が通っていて間違ってはいないが、それでも僕はライブに出ることが怖い。初めてやることに自信がないのだ。
でも、それでも僕の答えは決まっていた。友人の頼みを断るなんて選択肢は僕の中にはないのだから。
「分かった。できる限りになっちゃうけど、僕も頑張ってみるよ」
「やったー! ありがとー!」
こうして彼女の無茶振りとも思える頼みを引き受けて、少ししょっぱい気もするハンバーグを食べてその日は帰るのだった。
☆☆☆
椎葉さんとハンバーグを食べに行った数日後。僕は学校で晴人と一緒に展示品の製作をしていた。
この学校は大学かと思うほど広く、文化祭で僕のクラスが使うのはいつもの教室ではなく、別の棟の広めの教室を使うことになっている。
「生人そっちどう? 動かしても崩れない?」
「うん大丈夫! テープも外から見えないし、動かしても取れたりしないよ!」
今僕達が作っていたのは、等身大のエンジェルマンティスアーマーの像。
ダンボールで作ったものだが細かいところは別の素材を使っているので安っぽさはあまりなく、色もしっかり丁寧に塗れていて出来栄えは非の打ち所がない。
「あ! そろそろ時間だ……僕はもう帰るね」
壁に立てかけてある時計は七時を指しており、僕は鞄を持ち上げ部屋から出る。
「おう。俺はもうちょい残ってから帰るわ!」
「うんバイバイ!」
走ってDO本部まで戻り、自分の部屋ではなく椎葉さんの部屋の前まで行く。
「椎葉さん来たよ!」
ノックと共に僕は扉の向こうに元気良く声をかける。
集合時間をあらかじめ決めていたので数秒もしないうちに扉が開く。
「いらっしゃい! じゃあまた練習しよっか!」
僕は椎葉さんの部屋に入る。
中はアイドル関連のもので埋め尽くされていて、ポスターや椎葉さんほどではないが有名なアイドルのグッズが大量に置かれている。
「じゃあまずダンスの振り付けの確認からいこう! そこの開けたところでやってくれる?」
僕は椎葉さんが指差した部屋の物などが置かれていない所まで行き、それを確認した彼女がパソコンのエンターキーを押す。
すると部屋に置かれたスピーカーから音楽が鳴り始める。
それに合わせて僕は教えられた通りに完璧にダンスをし、特に間違えることなく終えることができる。
「やっぱり生人くんはすごいよ! たった数日でここまで振り付けを完璧に覚えれるなんて! プロの子でも中々いないよ」
「物覚えは昔から良い方だからこれくらい余裕余裕!」
「じゃあ次に教えるのは……ちょっとこっちまで来てくれる?」
僕は椎葉さんの座っている所まで行き、パソコンに表示されている過去の彼女のライブ映像を一緒に見る。
その映像をじっくり見て気づいたのだが、椎葉さんは一点に視線が集中することを避け、観客みんなに目線を向けるよう努力している。
その他にも僕が配信の際に行っていた技法と似たような足取りや体術なども用いており、偶然なのだろうが本当に僕と彼女はよく似ている。
「これ僕の動きとかなり似てますね」
「そうっ! よく分かったね! 君と初めて会った時もそのことがずっと頭の片隅にあったんだよね~」
初めて会った時……あの海上ライブの時か。あの時の椎葉さん不審者っぽくて怖かったんだよな……初対面で詰め寄られたし。
「だからアタシから頼みたいのは、ライブの時はいつもの配信みたいにやってほしいってことかな」
「分かった! それにしてもアイドルって奥が深いんだね……人の興味を集めることは僕がヒーローになることにも通じてるし、僕もっと知りたくなっちゃった!」
椎葉さんのキラキラとした姿をたくさん見てそれに感化されたのか、僕は彼女の行っている技法や信念などもっと詳しく知りたくなる。
店員さんが両手にハンバーグの乗ったお皿を持ち机の上に置く。
ハンバーグの横には焼き石が置いてあり、ここでハンバーグをお好みに焼くのだろう。
「えっと、さっきの話ってどういうこと?」
店員さんによって遮られてしまった話を再開させる。
「いやー前から思ってたんだけど、君ってアイドルの才能があると思ってね。ライブの最後の方だけで良いから……本当に一曲だけでいいからライブに参加してくれないかなって」
「でも僕音楽に関しては素人だよ? 椎葉さんの隣になんてとてもじゃないけど……」
椎葉さんは超一流アイドルだ。その隣に立って歌うなんて末恐ろしい。僕なんかができるわけがない。
「君って物覚え良いしきっと大丈夫だと思うんだ。それに上手くやるんじゃなくて良い感じに盛り上げてもらうことが今回の目的だし」
「盛り上げる?」
「文化祭でやるライブって多分見る人の大多数が生徒さんとかになるでしょ? だから知名度や人気が高い生人くんがいれば盛り上がると思うんだ」
彼女の言うことは筋が通っていて間違ってはいないが、それでも僕はライブに出ることが怖い。初めてやることに自信がないのだ。
でも、それでも僕の答えは決まっていた。友人の頼みを断るなんて選択肢は僕の中にはないのだから。
「分かった。できる限りになっちゃうけど、僕も頑張ってみるよ」
「やったー! ありがとー!」
こうして彼女の無茶振りとも思える頼みを引き受けて、少ししょっぱい気もするハンバーグを食べてその日は帰るのだった。
☆☆☆
椎葉さんとハンバーグを食べに行った数日後。僕は学校で晴人と一緒に展示品の製作をしていた。
この学校は大学かと思うほど広く、文化祭で僕のクラスが使うのはいつもの教室ではなく、別の棟の広めの教室を使うことになっている。
「生人そっちどう? 動かしても崩れない?」
「うん大丈夫! テープも外から見えないし、動かしても取れたりしないよ!」
今僕達が作っていたのは、等身大のエンジェルマンティスアーマーの像。
ダンボールで作ったものだが細かいところは別の素材を使っているので安っぽさはあまりなく、色もしっかり丁寧に塗れていて出来栄えは非の打ち所がない。
「あ! そろそろ時間だ……僕はもう帰るね」
壁に立てかけてある時計は七時を指しており、僕は鞄を持ち上げ部屋から出る。
「おう。俺はもうちょい残ってから帰るわ!」
「うんバイバイ!」
走ってDO本部まで戻り、自分の部屋ではなく椎葉さんの部屋の前まで行く。
「椎葉さん来たよ!」
ノックと共に僕は扉の向こうに元気良く声をかける。
集合時間をあらかじめ決めていたので数秒もしないうちに扉が開く。
「いらっしゃい! じゃあまた練習しよっか!」
僕は椎葉さんの部屋に入る。
中はアイドル関連のもので埋め尽くされていて、ポスターや椎葉さんほどではないが有名なアイドルのグッズが大量に置かれている。
「じゃあまずダンスの振り付けの確認からいこう! そこの開けたところでやってくれる?」
僕は椎葉さんが指差した部屋の物などが置かれていない所まで行き、それを確認した彼女がパソコンのエンターキーを押す。
すると部屋に置かれたスピーカーから音楽が鳴り始める。
それに合わせて僕は教えられた通りに完璧にダンスをし、特に間違えることなく終えることができる。
「やっぱり生人くんはすごいよ! たった数日でここまで振り付けを完璧に覚えれるなんて! プロの子でも中々いないよ」
「物覚えは昔から良い方だからこれくらい余裕余裕!」
「じゃあ次に教えるのは……ちょっとこっちまで来てくれる?」
僕は椎葉さんの座っている所まで行き、パソコンに表示されている過去の彼女のライブ映像を一緒に見る。
その映像をじっくり見て気づいたのだが、椎葉さんは一点に視線が集中することを避け、観客みんなに目線を向けるよう努力している。
その他にも僕が配信の際に行っていた技法と似たような足取りや体術なども用いており、偶然なのだろうが本当に僕と彼女はよく似ている。
「これ僕の動きとかなり似てますね」
「そうっ! よく分かったね! 君と初めて会った時もそのことがずっと頭の片隅にあったんだよね~」
初めて会った時……あの海上ライブの時か。あの時の椎葉さん不審者っぽくて怖かったんだよな……初対面で詰め寄られたし。
「だからアタシから頼みたいのは、ライブの時はいつもの配信みたいにやってほしいってことかな」
「分かった! それにしてもアイドルって奥が深いんだね……人の興味を集めることは僕がヒーローになることにも通じてるし、僕もっと知りたくなっちゃった!」
椎葉さんのキラキラとした姿をたくさん見てそれに感化されたのか、僕は彼女の行っている技法や信念などもっと詳しく知りたくなる。
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