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五章 ヒーローの存在意義
62話 大好きな彼と共に
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ダンジョン制圧が終わった数日後、僕と峰山さんはもう一度水希さんに会いに来ていた。
「この前は話の途中で飛び出して行ってしまい申し訳ありませんでした」
「別にいいわよ。制圧は人命にも関わっているんだから」
相変わらず向き合った二人の空気はピリついており、またいつ口論が始まってしまうのか分からず僕は内心ヒヤヒヤしている。
「制圧の時の配信見たわよ。中々頑張ってたじゃない」
「それはありがとうございます」
会話が一端止まりその空気に僕は耐えられずに押しつぶされそうになる。
「それで、あなたは結局DOを続けるということでいいのかしら?」
「あ、あの! 峰山さ……寧々さんはいつも頑張ってくれていて、DOにとって本当に必要なんです。だから……」
また口論が始まる前に僕は口を挟もうとしたが、峰山さんが僕の口を手で塞ぎ黙らせる。
「姉さん。正直に言いますとDOに入った理由は姉さんへの嫉妬心からです」
臆することなく、後ろめたさなく言い切る。前までの彼女からは考えられない態度だ。
「そう。そんなくだらない理由なら尚更……」
「でも! 今は違います!」
峰山さんはソファーから立ち上がり目つきを鋭くする。窓から差し込む陽光が彼女を照らし輝かせる。
「わたくしは誰かを助けることに、頑張ってる誰かの支えになれることにやりがいを感じています。
自分のためじゃない……誰かのために頑張れているんです。だからDOは続けます。誰が何と言おうとも」
「寧々……」
「失礼しました」
自分の意思をハッキリ伝え、彼女は姉と決別の意を示すかのようにこの部屋から出ていく。
しかし水希さんはいたって冷静で反応を示さず、紅茶を啜り目を瞑る。
「水希さん。僕はあなたが寧々さんのことを大事にしていることは何となく分かります」
「あら? そうかしら?」
峰山さんを追いかける前に、僕はどうしても一言言っておきたいのでこの部屋に留まる。
「でも、言葉にしないと伝わらないこともあります。
だから……今すぐにとは言いません。でもいつか寧々さんに本心を伝えてあげてください。では僕も失礼します」
「じゃあ私からも一ついいかしら?」
部屋を出る直前、水希さんは僕を呼び止める。峰山さんはもう既にエレベーターの前にいて、僕達の会話は聞こえていない。
「私はもうあの子には深く関われない。関わってはいけない。だからあなたがあの子の側に居てあげてくれないかしら?」
「はい! 何たって僕はヒーローですから! 頼みなら何でも請け負いますよ!」
「そう……ありがとう」
水希さんは初めて笑みを見せてくれる。屈託がなく、それに嘘偽りがないことが手に取るように分かる。
僕は部屋から出て、清々しい気持ちで峰山さんと一緒に帰るのだった。
☆☆☆
【峰山視点】
「生人さん。改めてお礼を言わせてくれませんか?」
昼過ぎの空いた電車の中、うとうとと眠りにつこうとしている彼に話しかける。
「あ、うん……なぁに?」
蕩けた顔をこちらに向け、とても可愛らしい声で反応してくれる。
「わたくしはあなたに会うまでずっと闇の中にいました。深く暗く……独りぼっちの怖い中に。
でもあなたが救い出してくれた」
彼と会えてわたくしは変われた。彼と会えたからわたくしは活き活きと生きることができる。その感謝をどうしても今伝えたかった。
「だから言わせてください。わたくしはあなたのことが……」
わたくしの今抱いているこの気持ちを伝えようとした。しかし彼の耳にわたくしの告白が届くことはない。
眠気に限界が来たのかこちらを向いたまま倒れ、わたくしの太腿の上にダイブする。
「すー……」
彼は寝息を立て気持ち良さそうに寝始める。
「ふふっ……おやすみなさい」
彼へのこの想いは、この告白はもっと先に取っておくことにする。
今回は彼の頭を優しく撫でるだけに留めて、わたくしは彼に寄り添いながら電車に揺らされるのだった。
「この前は話の途中で飛び出して行ってしまい申し訳ありませんでした」
「別にいいわよ。制圧は人命にも関わっているんだから」
相変わらず向き合った二人の空気はピリついており、またいつ口論が始まってしまうのか分からず僕は内心ヒヤヒヤしている。
「制圧の時の配信見たわよ。中々頑張ってたじゃない」
「それはありがとうございます」
会話が一端止まりその空気に僕は耐えられずに押しつぶされそうになる。
「それで、あなたは結局DOを続けるということでいいのかしら?」
「あ、あの! 峰山さ……寧々さんはいつも頑張ってくれていて、DOにとって本当に必要なんです。だから……」
また口論が始まる前に僕は口を挟もうとしたが、峰山さんが僕の口を手で塞ぎ黙らせる。
「姉さん。正直に言いますとDOに入った理由は姉さんへの嫉妬心からです」
臆することなく、後ろめたさなく言い切る。前までの彼女からは考えられない態度だ。
「そう。そんなくだらない理由なら尚更……」
「でも! 今は違います!」
峰山さんはソファーから立ち上がり目つきを鋭くする。窓から差し込む陽光が彼女を照らし輝かせる。
「わたくしは誰かを助けることに、頑張ってる誰かの支えになれることにやりがいを感じています。
自分のためじゃない……誰かのために頑張れているんです。だからDOは続けます。誰が何と言おうとも」
「寧々……」
「失礼しました」
自分の意思をハッキリ伝え、彼女は姉と決別の意を示すかのようにこの部屋から出ていく。
しかし水希さんはいたって冷静で反応を示さず、紅茶を啜り目を瞑る。
「水希さん。僕はあなたが寧々さんのことを大事にしていることは何となく分かります」
「あら? そうかしら?」
峰山さんを追いかける前に、僕はどうしても一言言っておきたいのでこの部屋に留まる。
「でも、言葉にしないと伝わらないこともあります。
だから……今すぐにとは言いません。でもいつか寧々さんに本心を伝えてあげてください。では僕も失礼します」
「じゃあ私からも一ついいかしら?」
部屋を出る直前、水希さんは僕を呼び止める。峰山さんはもう既にエレベーターの前にいて、僕達の会話は聞こえていない。
「私はもうあの子には深く関われない。関わってはいけない。だからあなたがあの子の側に居てあげてくれないかしら?」
「はい! 何たって僕はヒーローですから! 頼みなら何でも請け負いますよ!」
「そう……ありがとう」
水希さんは初めて笑みを見せてくれる。屈託がなく、それに嘘偽りがないことが手に取るように分かる。
僕は部屋から出て、清々しい気持ちで峰山さんと一緒に帰るのだった。
☆☆☆
【峰山視点】
「生人さん。改めてお礼を言わせてくれませんか?」
昼過ぎの空いた電車の中、うとうとと眠りにつこうとしている彼に話しかける。
「あ、うん……なぁに?」
蕩けた顔をこちらに向け、とても可愛らしい声で反応してくれる。
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でもあなたが救い出してくれた」
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「だから言わせてください。わたくしはあなたのことが……」
わたくしの今抱いているこの気持ちを伝えようとした。しかし彼の耳にわたくしの告白が届くことはない。
眠気に限界が来たのかこちらを向いたまま倒れ、わたくしの太腿の上にダイブする。
「すー……」
彼は寝息を立て気持ち良さそうに寝始める。
「ふふっ……おやすみなさい」
彼へのこの想いは、この告白はもっと先に取っておくことにする。
今回は彼の頭を優しく撫でるだけに留めて、わたくしは彼に寄り添いながら電車に揺らされるのだった。
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