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五章 ヒーローの存在意義

54話 突き放す

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「生人さん。しばらくの間お昼は学食かどこかで買うかでお願いできますでしょうか?」

 キュリアと山奥で再戦した一週間後、月曜の朝学校に行く直前に峰山さんに話があると言われ呼び出され、このようなことを告げられる。

「えっ……どうして?」
「すみません。最近その……色々と余裕がなくて」

 峰山さんは最近日を重ねる度に顔色が悪くなっており、目には隈ができており誰が見ても心配してしまう顔つきだ。

「謝らなくていいよ。僕が今まで峰山さんに甘え過ぎてたってだけだし。それよりも大丈夫? 最近ずっと調子が悪そうだけど」

 拒絶され、自分で何とかできるからと突き放されるかもしれない。
 そのことが頭の隅にあってもそれでも僕は聞くしかなかった。聞かないという、困っている人を助けないという生き方を僕は知らないから。

「別に……大丈夫です」

 峰山さんは僕の顔を見ようともせず、僕を置き去りにして登校してしまう。
 胸に大きな穴を開けられたような寂しさを覚え、僕も曇り空の下を歩き登校するのだった。


☆☆☆


「おーい」 
 
 体育の授業が終わり着替えている最中。僕は後ろからトントンと肩を叩かれる。
 声からして晴人なのだろう。
 振り返ったら僕の頬に指が突き刺さる。

「うわっ!! なんだよ晴人」
「ははは引っかかった。いやさお前最近……というか特に今日元気なさそうだからどうしたのかなって」

 晴人はサッカー部のエースで気遣いができて友達も多い。だから僕のことにもすぐ気がいきこうして心配してくれる。

「いや…….まぁちょっと心配なことがあって……」
「言わなくても分かるよ。峰山さんのことだろ?」

 歯切れが悪く上手く言葉にできなかった僕の話そうとした内容を晴人は当ててみせる。

「そうだけど……何で分かったの?」
「最近の峰山さんは俺から見ても明らかに様子がおかしかったし、それにつられてお前も元気なくしてたから分かるよそりゃ」

 僕は周りのことばかり、峰山さんのことばかり気にしていたせいで自分の振る舞いに注意がいってなかった。
 そのことが分かり僕も人のことが言えず複雑な気持ちになる。

「友達なら困ってる時に助けてもらって嫌な気持ちにはならない。俺は峰山さんを元気づけられるのはお前しかいないと思ってるぜ」
「晴人……うんありがとう! おかげで少し元気が出たよ!」

 そうだよな。めげちゃだめだ。前に進み続けなきゃ。そうしなきゃヒーローになれないんだから……

 彼から勇気づけられ、僕は気持ちを前向きにすることができる。
 それから明るい気持ちで着替え授業の準備をしていると、岩永さん達のグループの女子達がザワザワしていることに気がつく。

「ねぇねぇどうしたの岩永さん?」

 つい気になってしまい僕は彼女達の話に混ざりにいく。
 
「あっ生人くん。実はね、峰山さんが体育の途中で怪我しちゃって保健室に運ばれたの」
「えっ……?」

 途端僕の体内に氷を大量に入れられたような悪寒が走る。
 
「今日女子は跳び箱やってたんだけど、峰山さんが頭から落ちちゃって」
「そ、それって大丈夫なの!?」
「ウチが運んだんだけど、先生が言うにはとりあえずは大丈夫らしいから今は保健室で安静にしてるよ」

 話を流し聞いた後僕は言葉を返さずに教室から飛び出す。

「えっ!? 生人くん!?」

 もう既に岩永さんの声すら掠れ聞こえ辛くなる距離まで走り、そのまま保健室まで人を避け駆け抜ける。

「峰山さん!?」

 保健室の扉を強く開け放ち僕は倒れ込むように中に入る。

「保健室ではお静かに」

 中には長髪の女性の先生がおり、ベッドで寝かされている峰山さんと彼女以外保健室には誰もいない。

「ごめんなさい……」

 先生の一言で頭が冷え、僕は一度息を整える。

「峰山さんは今寝てるわよ。起こさないであげてね」
「あ、はい……それで峰山さんは大丈夫なんですか?」
「怪我はそこまでじゃないわね。ただ体にすごい疲労とストレスが溜まってる感じね。起きたら帰らせるつもりよ。
 ま、この調子じゃ下校時間までに起きるかも怪しいところだけどね。もし起きなかったら運んでくれるかしら?」

 彼女はDOなどを通じてか僕のことを知っており、もしもの時のことを頼んでくる。
 僕はそれを快く了承し、峰山さんの何事もなさそうな様子を見て安堵し教室に帰るのだった。
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