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五章 ヒーローの存在意義
49話 虐待
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学校が終わりDO本部に帰るまで峰山さんとの会話はなかった。
僕を避けているというよりみんなを避けているようで、今の彼女は誰も近づけさせない雰囲気がある。
「よっ生人ちゃん」
DO本部があるビルの前で、歩きながら彼女についてあれこれ考えている時田所さんに肩を叩かれる。
「お疲れ様田所さん!」
「ちょっと一ついい? 寧々ちゃんのことなんだけど……あの子最近ピリピリしてるけど何かあったの?」
「それは……」
僕は彼女の家が問題の原因ではないかと思ってはいたが、これは彼女の繊細な部分の事なので口に出していいか迷ってしまう。
「分からないけど、ともかく何か問題やトラブルがあるなら僕が解決してみせるよ!」
だからこんな風に根拠もなく明るく返すしかない。
「とりあえずは生人ちゃんに任せるけど、何かあったら自分も頼ってよ?」
「はい。もちろんです!」
察してくれたのか田所さんはこれ以上詮索してくる様子はない。
「おーい生人君!」
ビルの前で立ち話をしている最中。離れた所から車の窓から美咲さんが頭だけ出して僕の名前を呼ぶ。
車を僕達の目の前に止め、美咲さんは車から降りる。
「約束の時間だよ。準備は大丈夫?」
「うん! 荷物は準備できてるからあとは着替えるだけだよ!」
美咲さんが先日言っていた僕専用の武器のためのデータ収集。
二泊三日になるらしかったので、僕は今日の朝のうちに着替えの用意を済ませておいたのだ。
「生人ちゃんどっか行くの?」
「美咲さんと僕のための実験に行ってくるの!」
「要約すると私の新しい開発に生人君の身体のデータが必要だってことだね」
僕の説明では分かりづらかったので美咲さんが後から補足を入れてくれる。
「へぇ……まぁ危ないことはしないでよ?」
「分かってるって! 命あってこそのヒーローだからね!」
ほんの一瞬空気が止まり沈黙の時間が訪れる。
美咲さんと田所さんが互いに何かを伝え合うようにして見つめ合う。
「どうしたの二人とも?」
「い~や何でもない。自分はやることあるからまたね~」
田所さんは仕事なのか、はたまたサボりかどこかに行ってしまう。
「私はあそこで待ってるから」
美咲さんはこのビルの駐車場を指差し、車をそこに止める。
あまり時間を無駄にはしたくないので、僕は素早く自室に戻り着替え荷物を持ってまた戻ってくる。
「それじゃあ行こうか」
「そういえばどこに行くの?」
「少し離れたところにある北岡山ってところだね。そこの一部の所有権がDOにあるから、訓練施設として使えるよう改造してみたんだ。
きっと君なら気に入ってくれると思うよ」
僕は父さんが多忙なこともあって、よくこうやって美咲さんにどこかに連れて行ってもらうことが多かった。
一緒にキャンプに行ったり、遊園地で遊んだり映画を見に行ったり、僕はその時間がとても好きだ。
だから今とてもわくわくしている気分で、きっと今から見る施設にも満足することだろう。
「……生人君は、今に満足しているのかい?」
日が沈みかけた辺りで、美咲さんがハンドルを握る力を強めながらゆっくり口を開く。
「それってどういう意味?」
「君は遊生さんの養子になるまで……酷い虐待を受けていた。今も体の発達に影響が出てしまうくらいの」
僕の明るい表情が停電するかのようにスッと消え失せる。
彼女の言った通り、僕は今の父さんに引き取られるまで虐待を、ネグレクトを受けていた。
ご飯はろくに食べさせてもらえず、そのせいで僕の体は未発達で小さい。
泣けば殴られ、泣かずにずっと黙っていたら気味が悪いと言われ蹴られた。
あまりこういう言葉は使いたくないが、本当に僕を産んだだけの、あの肉体上だけの両親は最低のクズ野郎だったと思う。
あの二人は災厄の日にサタンに殺されたが、それでも僕はあの二人を許していない。
「私と遊生さんは……本当に君のことを大切に思って育ててきた。
でも時々心配になるんだ。君は過去に囚われたままで今はちっとも幸せじゃないんじゃないかって」
彼女の言葉に悪意は一切感じられなかった。本心からの、僕だけを想っての言葉だった。
「幸せだよ僕は。父さんや美咲さんだけじゃない。峰山さんに田所さん。風斗さんに椎葉さん。
他にもいっぱい友達や頼れる人ができたし、僕は大満足だよ!」
「それは良かった……本当に」
「でもせめて我儘を言うなら、僕を助けてくれたあのヒーローに会いたいな……」
あの時僕の命を救ってくれて、生き方を示してくれたヒーロー。
父さんも美咲さんも正体は掴めていないが、いつか会ってお礼が言いたい。
「会えるよ……いつかね」
「そうだといいなぁ……」
暗い話を乗り越え、暗くなる視界とは反対に車内の空気は明るくなっていく。
そうこうしているうちに車は目的地の北岡山に着くのだった。
僕を避けているというよりみんなを避けているようで、今の彼女は誰も近づけさせない雰囲気がある。
「よっ生人ちゃん」
DO本部があるビルの前で、歩きながら彼女についてあれこれ考えている時田所さんに肩を叩かれる。
「お疲れ様田所さん!」
「ちょっと一ついい? 寧々ちゃんのことなんだけど……あの子最近ピリピリしてるけど何かあったの?」
「それは……」
僕は彼女の家が問題の原因ではないかと思ってはいたが、これは彼女の繊細な部分の事なので口に出していいか迷ってしまう。
「分からないけど、ともかく何か問題やトラブルがあるなら僕が解決してみせるよ!」
だからこんな風に根拠もなく明るく返すしかない。
「とりあえずは生人ちゃんに任せるけど、何かあったら自分も頼ってよ?」
「はい。もちろんです!」
察してくれたのか田所さんはこれ以上詮索してくる様子はない。
「おーい生人君!」
ビルの前で立ち話をしている最中。離れた所から車の窓から美咲さんが頭だけ出して僕の名前を呼ぶ。
車を僕達の目の前に止め、美咲さんは車から降りる。
「約束の時間だよ。準備は大丈夫?」
「うん! 荷物は準備できてるからあとは着替えるだけだよ!」
美咲さんが先日言っていた僕専用の武器のためのデータ収集。
二泊三日になるらしかったので、僕は今日の朝のうちに着替えの用意を済ませておいたのだ。
「生人ちゃんどっか行くの?」
「美咲さんと僕のための実験に行ってくるの!」
「要約すると私の新しい開発に生人君の身体のデータが必要だってことだね」
僕の説明では分かりづらかったので美咲さんが後から補足を入れてくれる。
「へぇ……まぁ危ないことはしないでよ?」
「分かってるって! 命あってこそのヒーローだからね!」
ほんの一瞬空気が止まり沈黙の時間が訪れる。
美咲さんと田所さんが互いに何かを伝え合うようにして見つめ合う。
「どうしたの二人とも?」
「い~や何でもない。自分はやることあるからまたね~」
田所さんは仕事なのか、はたまたサボりかどこかに行ってしまう。
「私はあそこで待ってるから」
美咲さんはこのビルの駐車場を指差し、車をそこに止める。
あまり時間を無駄にはしたくないので、僕は素早く自室に戻り着替え荷物を持ってまた戻ってくる。
「それじゃあ行こうか」
「そういえばどこに行くの?」
「少し離れたところにある北岡山ってところだね。そこの一部の所有権がDOにあるから、訓練施設として使えるよう改造してみたんだ。
きっと君なら気に入ってくれると思うよ」
僕は父さんが多忙なこともあって、よくこうやって美咲さんにどこかに連れて行ってもらうことが多かった。
一緒にキャンプに行ったり、遊園地で遊んだり映画を見に行ったり、僕はその時間がとても好きだ。
だから今とてもわくわくしている気分で、きっと今から見る施設にも満足することだろう。
「……生人君は、今に満足しているのかい?」
日が沈みかけた辺りで、美咲さんがハンドルを握る力を強めながらゆっくり口を開く。
「それってどういう意味?」
「君は遊生さんの養子になるまで……酷い虐待を受けていた。今も体の発達に影響が出てしまうくらいの」
僕の明るい表情が停電するかのようにスッと消え失せる。
彼女の言った通り、僕は今の父さんに引き取られるまで虐待を、ネグレクトを受けていた。
ご飯はろくに食べさせてもらえず、そのせいで僕の体は未発達で小さい。
泣けば殴られ、泣かずにずっと黙っていたら気味が悪いと言われ蹴られた。
あまりこういう言葉は使いたくないが、本当に僕を産んだだけの、あの肉体上だけの両親は最低のクズ野郎だったと思う。
あの二人は災厄の日にサタンに殺されたが、それでも僕はあの二人を許していない。
「私と遊生さんは……本当に君のことを大切に思って育ててきた。
でも時々心配になるんだ。君は過去に囚われたままで今はちっとも幸せじゃないんじゃないかって」
彼女の言葉に悪意は一切感じられなかった。本心からの、僕だけを想っての言葉だった。
「幸せだよ僕は。父さんや美咲さんだけじゃない。峰山さんに田所さん。風斗さんに椎葉さん。
他にもいっぱい友達や頼れる人ができたし、僕は大満足だよ!」
「それは良かった……本当に」
「でもせめて我儘を言うなら、僕を助けてくれたあのヒーローに会いたいな……」
あの時僕の命を救ってくれて、生き方を示してくれたヒーロー。
父さんも美咲さんも正体は掴めていないが、いつか会ってお礼が言いたい。
「会えるよ……いつかね」
「そうだといいなぁ……」
暗い話を乗り越え、暗くなる視界とは反対に車内の空気は明るくなっていく。
そうこうしているうちに車は目的地の北岡山に着くのだった。
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