カードで戦うダンジョン配信者、社長令嬢と出会う。〜どんなダンジョンでもクリアする天才配信者の無双ストーリー〜

ニゲル

文字の大きさ
上 下
47 / 130
四章 アイ参上!

44話 妹の影(風斗視点)

しおりを挟む
「大丈夫か生人!?」
「うん大丈夫! でもちょっとまずいかも!」

 いきなり床から高圧の水が噴射されたと思い転がり何とか躱わせたと思ったら、それが障壁となり生人と分断されてしまった。
 水の向こう側の歪んで見える光景はあまり良いものではなかった。六匹程のサタンが入ってきて生人を襲い始める。

「生人!」

 俺はすぐに助けに入ろうとするが、目の前の水の壁に触れた途端鋭い痛みが手を襲い弾かれてしまう。

「ちょっと真太郎さん!? 明らかにこれ通れる感じじゃないでしょ!」

 自分らしくもなく焦ってしまい、最善ではない行動をしてしまった。十個程歳が離れている女の子に注意され我ながら情けなくなる。

「そうだな……生人! すぐにボスを倒してここを制圧する! それまで持ち堪えてくれ!」
「了解!」

 その指示を聞き生人は攻め重視の戦い方から、時間稼ぎがしやすい受けや躱し重視の戦い方に変える。それでも更にサタンが集まればいくら生人でも持ち堪えられないだろう。
 つまり、俺とアイで短時間で今後ろで演奏している舐め腐ったボスを倒さなければならない。

「アイ。できる限り手短にあのクラゲを倒すぞ。それが今俺達にできる最善の行動だ」
「それが良さそうね。アタシも使える手札は全部使って速攻で倒しにいくわ」

 俺はすぐに気持ちを切り替え、二人でギターを演奏する奴に突っ走っていく。もうすぐ手前まで来たところで奴がやっと反応を見せる。その長い触手を活かしギターをこちらに投げてくる。
 野球選手顔負けの速度で投げられたそれは距離がまだあったから躱せたが、剣の射程でやり合っていたらどうなっていたかは分からない。

 近くでやり合うのは得策ではないな。ここはあれを使うか。

[スキルカード サウンドブラスト]

 辺りに金属音が鳴り響きそれが段々と大きくなっていく。剣の周りの空気が揺れて歪み、その歪みはやがて剣先の一点に集中する。
 俺はそれを奴に向かって突き出す。もちろん剣は奴に届くはずもない。剣で攻撃するには距離がありすぎる。

 しかし剣先にある歪みが高速で奴に向かって射出され、奴の帽子の部分に命中し爆発する。

 予想もしていなかったであろう一撃を貰い奴はふらつきつつもこちらに数本の触手を放ってくる。
 闇雲にやってくる攻撃はさほど脅威ではないが、万が一だが走る軌道上に飛んでくる可能性もあるので、俺は警戒して速度を緩める。

「隙ありだよっ!」

 触手の攻撃を掻い潜ったところで、アイがマイクを奴に向けたままそれについているボタンを押す。勢いよく発射された球体は奴の爆発で傷ついた部位に当たり、その部分がグニャリと変形する。
 奴は発声器官がどこにあるのかも分からないが、ともかく奇声を発し更に暴れ回る。
 
「意外に体力あるわね。こんなに暴れ回られたら……あっ」

 精密性が低い攻撃を俺達は躱していたが、運が悪いことにアイが躱した先に攻撃がピンポイントに来てしまう。
 彼女は躱すことはできなかったが咄嗟に手と足で体を庇い最大限ダメージを減らす。だが問題は当たったことによる衝撃ではなかった。

「あ、あぁぁぁぁぁ!!」

 奴の触手に触れた瞬間彼女の体がビクンと跳ね軽い痙攣を起こす。幸い彼女は弾かれたことによって奴の毒を浴びせられたのは一瞬で、特に何事もなく立ち上がる。

「大丈夫か!?」

 俺は彼女を抱きすぐに奴から距離を取る。

「だ、大丈夫よ。思ったよりビリってきてビックリしただけ。でもあれを長時間やられたら……」

 彼女はそれ以上言わなかった。だがその先の言葉は容易に想像できる。
 彼女の先程の反応。あれに掴まれて捕らわれたら最後激痛を与え続けられショック死してしまうのだろう。
 その時偶然目の前の地面を叩いた触手に俺は斬撃を食らわせ、触手がこの剣で斬れることを確認する。

「斬れるな……よし。お前は下がってていい。後は……」
「大丈夫だって言ってるでしょ」

 彼女の傷は本当に大したことないらしく、痛がる素振りもなく彼女はスッと姿勢を立て直す。

 心配しすぎだったか? だめだ。あいつの顔がどうしてもチラついてしまう。

 俺の頭にチラつくもの、それは彼女に似ている死んだ……いや、俺が殺したも同然の妹のことだ。
 アイが歌ったり踊ったりするのを見ているとまるであいつがそうしているように思えて、その時だけあの時のことが頭の中で薄れてくれる。
 だから俺は趣味でもないアイドルをテレビで見たり、今日みたいにライブに行ったりしていた。

 俺が過剰に心配したり、俺らしくもなく優しくしてしまうのもそういうことなのだろうか? もういないと分かっていてもこいつにあいつを重ねてしまっているのだろうか?
 俺の頭に動揺の二文字が浮かび上がる。しかしそれは目の前に迫る触手と、数年やったおかげで身に付いた体の反射によるスイッチの切り替えで消え去ることとなる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

元勇者の俺と元魔王のカノジョがダンジョンでカップル配信をしてみた結果。

九条蓮@㊗再重版㊗書籍発売中
ファンタジー
異世界から帰還した元勇者・冴木蒼真(さえきそうま)は、刺激欲しさにダンジョン配信を始める。 異世界での無敵スキル〈破壊不可(アンブレイカブル)〉を元の世界に引き継いでいた蒼真だったが、ただノーダメなだけで見栄えが悪く、配信者としての知名度はゼロ。 人気のある配信者達は実力ではなく派手な技や外見だけでファンを獲得しており、蒼真はそんな〝偽者〟ばかりが評価される世界に虚しさを募らせていた。 もうダンジョン配信なんて辞めてしまおう──そう思っていた矢先、蒼真のクラスにひとりの美少女転校生が現れる。 「わたくし、魔王ですのよ」 そう自己紹介したこの玲瓏妖艶な美少女こそ、まさしく蒼真が異世界で倒した元魔王。 元魔王の彼女は風祭果凛(かざまつりかりん)と名乗り、どういうわけか蒼真の家に居候し始める。そして、とあるカップルのダンジョン配信を見て、こう言った。 「蒼真様とカップル配信がしてみたいですわ!」 果凛のこの一言で生まれた元勇者と元魔王によるダンジョン配信チャンネル『そまりんカップル』。 無敵×最強カップルによる〝本物〟の配信はネット内でたちまち大バズりし、徐々にその存在を世界へと知らしめていく。 これは、元勇者と元魔王がカップル配信者となってダンジョンを攻略していく成り上がりラブコメ配信譚──二人の未来を知るのは、視聴者(読者)のみ。 ※この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす
ファンタジー
 病院で病死したはずの月島玲子二十五歳大学研究職。目を覚ますと、そこに広がるは広大な森林原野、後ろに控えるは赤いドラゴン(ニヤニヤ)、そんな自分は十歳の体に(材料が足りませんでした?!)。  時は、自分が死んでからなんと三千万年。舞台は太陽系から離れて二百二十五光年の一惑星。新しく作られた超科学なミラクルボディーに生前の記憶を再生され、地球で言うところの中世後半くらいの王国で生きていくことになりました。  べつに、言ってはいけないこと、やってはいけないことは決まっていません。ドラゴンからは、好きに生きて良いよとお墨付き。実現するのは、はたは理想の社会かデストピアか?。  月島玲子、自重はしません!。…とは思いつつ、小市民な私では、そんな世界でも暮らしていく内に周囲にいろいろ絆されていくわけで。スーパー玲子の明日はどっちだ? カクヨムにて一週間ほど先行投稿しています。 書き溜めは100話越えてます…

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます

neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。 松本は新しい世界で会社員となり働くこととなる。 ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。 PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。

リアルフェイスマスク

廣瀬純一
ファンタジー
リアルなフェイスマスクで女性に変身する男の話

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!

果 一
ファンタジー
二人の勇者を主人公に、ブルガス王国のアリクレース公国の大戦を描いた超大作ノベルゲーム『国家大戦・クライシス』。ブラック企業に勤務する久我哲也は、日々の疲労が溜まっている中、そのゲームをやり込んだことにより過労死してしまう。 次に目が覚めたとき、彼はゲーム世界のカイム=ローウェンという名の少年に生まれ変わっていた。ところが、彼が生まれ変わったのは、勇者でもラスボスでもなく、本編に名前すら登場しない悪役サイドのモブキャラだった! しかも、本編で配下達はラスボスに利用されたあげく、見限られて殺されるという運命で……? 「ちくしょう! 死んでたまるか!」 カイムは、殺されないために努力することを決める。 そんな努力の甲斐あってか、カイムは規格外の魔力と実力を手にすることとなり、さらには原作知識で次々と殺される運命だった者達を助け出して、一大勢力の頭へと駆け上る! これは、死ぬ運命だった悪役モブが、最凶へと成り上がる物語だ。    本作は小説家になろう、カクヨムでも公開しています 他サイトでのタイトルは、『いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!~チート魔法で無双してたら、一大勢力を築き上げてしまったんだが~』となります

処理中です...