カードで戦うダンジョン配信者、社長令嬢と出会う。〜どんなダンジョンでもクリアする天才配信者の無双ストーリー〜

ニゲル

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三章 ダンジョンの元凶

32話 炎水

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「まずはお前からだ天使!」

 奴は空中に浮かんでいる峰山さんとの距離をありえない速度で詰め、そのまま誰も反応できていない内に彼女に拳を放つ。
 炎を纏ったその拳は彼女の腹部に命中し大きく吹き飛ばす。彼女は背後にある壁に叩きつけられそこにめり込む。

[スキルカード 疾風 ヒート ジャンプ]
[必殺 ホッパーハイキック]

 彼女をやられたことに動揺するよりも先に体が勝手に動いていた。コイツの異常性はヤバいと。そして峰山さんを怪我させたコイツを許せないと心が叫んでいる。
 その熱く鋭く素早い蹴りは奴に一直線に飛んでいくが、僕の戦闘の過去最速だと思われるその一撃は奴に止められてしまう。当たり前のように手で受け止める。

「ぐっ……流石に真正面から必殺を受け止めるのは少し痛いな」

 本来必殺カードは使用して命中すればほとんど相手を仕留めることができるものだ。だから使うタイミングは絶対に命中させる自信がある時だし、今回だって奴が空中で身動きできない時を狙った。
 でも奴はその一撃必殺ともいえる一撃を真正面から受け止めたのだ。そのことが指し示す意味をすぐに理解できしまい、僕の全身に恐怖という感情が駆け巡る。

「男の子同士ワイワイやってるとこ悪いけど、犯罪者に遠慮する精神自分持ち合わせていないのよ。じゃ」

 僕と奴が落下する最中、田所さんも跳んで奴に張り付くような位置に来る。その銃口は奴の頭をゼロ距離で捉えている。
 その引き金を彼は容赦なく即座に引く。マシンガンモードにしていたのだろう。落下するまでに数十発の弾丸が奴の頭部に命中する。その痛さからか僕の足を離し、綺麗に着地する田所さんに対して僕と奴は地面に叩きつけられる。

「いったぁ……よくもやってくれ……」

 奴が立ち上がるのと同時に一閃の光が奴に向かって行く。その光の先が、剣先が奴の喉元へと向かう。

「良い攻撃だ。だが無意味だな!」

 奴はそれすらも体を少しずらすだけで躱し、風斗さんの腹に一発カウンターの蹴りを入れる。
 彼は地面に跡を残しながら大きく後退させられる。その跡から彼がどれほど大きな力で踏ん張ったのか、そして奴がどれくらい強大な力で蹴ったのか分かってしまう。

「こっちの方が良いか」
  
 奴がランストに似た装置の液晶部分をタップする。すると先程の正方形の物体が再び出現する。奴は今度は青色の部分をちょんと触る。

[change……アクアランス]

 青色の部分が大きくなり奴の全身を包んだかと思ったら、奴の鎧が変化していた。青色の鎧に更にグローブの代わりに槍を持っている。

「さぁ、近づけるものなら近づいてみな!」

 奴はその槍を振り回し僕達を近づけさせないようにする。先程の拳もある。どれ程の威力か計り知れないので僕達は奴にそう簡単に近づく訳にはいかない。
 奴の槍捌きはとても上手く、ほとんど入り込む隙がない。

 どうしたものかと間合いを取っていると、僕の真横を光の矢が通り抜ける。峰山さんが壁に埋まりながらも援護射撃してくれて、その矢が奴の頭部に直撃する。

「また不意打ちされたよ……やるじゃん。じゃあお返しくれてやるよ!」

 奴はその場で彼女のいる方向に槍を突き出す。壁までは二十メートル程あり、槍の長さから考えても確実に届くはずがない。

 しかし槍を突き出すと先が吹っ飛んでいったのだ。いや、飛んだのではない。先の金属部分と持ち手がくっついている部分から水が吹き出したのだ。
 それは峰山さんに向かっていくが、彼女の頬を掠るだけだった。
 奴が手元を狂わせ外したわけではない。田所さんが彼女の元に攻撃が届く前にスナイパーモードにした銃で奴の手を撃ったからだ。

 あの威力重視の貫通性の高いスナイパーの一発をもらっても、奴は攻撃先を少しずらしてしまうだけで怪我させることはおろか槍を弾くことすらできなかった。

「おいおい。その硬さはフェアじゃないだろ」

 完璧な一発をくらわせてもまともなダメージすら受けない奴に僕達は萎縮してしまう。奴はその間待ってくれるはずはなく、水が出たままの槍を振り回し僕達三人を薙ぎ払う。
 田所さんは即座に手をタイヤに変えて衝撃を殺したが、僕と風斗さんは上手く受け身を取れずに壁や柱に激突してしまう。

「おいおい勘弁してくれよ。タイマンは流石にキツいって。これは終わったら上に給料上げろって言ってもバチ当たんないだろ」

 田所さんは軽口の割にはかなり苦しい状況だということをしっかり理解しているようで、足もタイヤに変えて一旦奴から距離を取る。

「田所さん……僕……も……ゲホッゲホッ!」

 立ち上がろうとしたが、先程槍を当てられた腹部が痛く立ち上がれない。刺されなかったのは幸いだったが、それでも硬い物を素早く当てられたので痛みは凄まじかった。

「立つな立つな! コイツなんて自分一人で大丈夫だからさ……だから三人は休んでていいよ」

 彼は僕達三人に休むように促し、たった一人で奴と対峙する。

「タイマンか……じゃあこっちも応えてやるよ」

 奴は再び液晶部分をタップして正方形を出現させ、今度は緑色の部分をタップする。
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