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三章 ダンジョンの元凶

29話 ショッピングモールでの一戦

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 狼はこちらが変身してもお構いなしに、一切怯まず速度を緩めず突っ込んで来る。
 後ろには逃げ遅れた人がいる。もし躱したらあの人達の元にこいつが行ってしまう。

 僕は落ち着き、それでもって一瞬の間に周りを見て被害を出さずにコイツを倒す道筋を模索する。まずは全身に力を入れ奴を受け止めようとする。

「ぐっ、ぐぐぐ……」

 奴がぶつかった途端もの凄い衝撃が僕を襲い、数十センチ足を引きずり後退してしまう。
 それでも押し負けるわけにはいかずその勢いをなんとか耐え、奴に隙ができた瞬間顔面に拳を入れる。

「みんな早く逃げて!!」

 逃げ遅れた人や先程まで腰を抜かしていた子に呼びかけ、この場から立ち去らせる。

「ガルルル……」

 サタンは不機嫌そうに唸り声を上げ、こちらをギロリと睨む。そこには人間の恨み辛みからくる殺意ではなく、野蛮な、知性のない獣の殺意が含まれていた。

[ホッパー レベル6 start up……]

 僕はすかさずアーマーカードをセットする。

 奴を吹き飛ばすのは避けた方がいいよね。逃げ遅れた人の所に行ったり、その一撃で倒せたとしてもガラスが割れたりしたら下にいる人が危ない。

 周りへの被害も考慮して奴の倒す方法を思いつき、僕は構え奴の攻撃を待つ。
 奴はすぐに我慢できなくなりこちらに向かって飛びかかってくる。

「今だっ!」

[スキルカード ジャンプ 疾風]

 奴が空中に浮かび上がった瞬間に僕はスキルカードを使用し、奴が地面に着くよりも先に背後に周り空中で羽交締めにしてそのまま地面に叩きつける。
 コイツに時間をかけるわけにもいかないので、僕は即座に脳天に重めの一発を喰らわして倒し奴をカードにして消滅させる。

 確か門は三階だったよね。サタンは門から出てくるから、そっちにいる可能性が高いし制圧することも鑑みて今すぐに向かわないと!
 
 疾風の効果が残っている内に僕は急いで三階へと向かう。階段なんて使った方が遅いので、僕は跳び上がりそのまま直で三階に跳び入る。
 もう流石に人は避難していたが、そこには四体のサタンがいた。

 どれもこれもが二足歩行の人間サイズの動物で、先程の狼に加え、猫とハムスターと鳥が元になっていると思われるサタンだ。

 サタンは門が出現した場所を元にして生み出されるって聞くけど、これはペットショップを元にしているのか? いや考えるのは後だ。まずはこの四体を何とかしないと。

「おい! 僕が相手だ!」

 僕の大声に反応して、四体全員が僕に興味を持ち始め、そしてそれはすぐに殺意へと変わる。各々が全く違う動きと速度でこちらに向かってくる。

 よし。これで奴らがこの場から他の人達がいるところへ行く可能性は無くなった。後は僕が倒すだけだ。
 
 しかし見栄を張ったのはいいもの、四体はそれぞれ全く違う動きで向かってくるため対応し辛い。何ヶ月か前のイカのサタンのように同じだったら対処しやすいが、こうも違う動きをされるだけで厄介さは倍増だ。
 しかも先程疾風を使用したせいで、今はそのカードが使えなく、再び使えるようになるには少し時間が必要だ。そしてその時間戦わずにいることは他の人の安全上できない。

[スキルカード ヒート]

 まずは真っ先に来た猫と揉みくちゃになったところで、顔面に引っ掻きを食らいながらもヒートのスキルカードを使用する。
 アーマーの温度が急激に上昇し、自分は何ともないが、奴にとっては熱々の鉄板を押し付けられているのも同然で、力一杯に暴れ出し抵抗する。

「離すか……!!」

 それを更に上回る力で抑え込もうとするものの、残った三体が隙だらけの僕に攻撃を仕掛けてくる。このままではモロに攻撃を受けてしまうので、僕は猫を蹴飛ばし倒れた姿勢から素早く立ち上がり後退する。

 アーマーから熱が引いていく。ヒートの効果はもう切れてしまったらしい。
 
 猫にダメージは与えられたけど、それも倒すまではいかなかったし残りの三体は万全の状態か。門から新手が来る可能性もあるし、ちょっと面倒だな。

「キャーー!!」

 そのまま攻撃を貰わないようにして一体一体に対処している最中、一人の女の子の悲鳴が僕の耳を劈く。
 慌てて組みついてきていたハムスターに蹴りを入れ引き剥がしその声の方向を見る。女の子が十数メートルはある大蛇に今にも噛みつかれそうになっていた。
 きっとトイレにいたとか、もしくは怯えて動けなかったとかで逃げ遅れたのだろう。

「くっ!」

 僕はこの四体は一旦放置して、すぐに彼女の元へと走る。しかし距離が少しあるせいで間に合わず、僕が辿り着く前に大蛇は大きく口を開く。

 まずい! この距離は必殺カードの射程外だし、疾風もジャンプも今はちょうど使えない! 間に合わない!!

 最悪の未来が脳裏をよぎるが、その景色が再現されることはなかった。ある一人の女性が物陰から飛び出してきて大蛇にタックルをくらわしたのだ。
 
 その女性は銃を持った美咲さんだった。大した威力ではなかったが大蛇は驚き美咲さんの方を向き睨みつける。
 彼女は射線上に女の子が来ないよう位置取りし、銃から光弾を発射する。それは大蛇の皮膚を少し焼く程度の威力だったが、奴が必殺カードの射程内に入るまでの時間稼ぎとしては十分だ。

[必殺 ホッパーハイキック]

 僕の足に濃い緑色のオーラが纏い、凄まじい熱を持ち力が溢れてくる。一歩踏み出し奴の顔面目掛けてハイキックを放ち頭を破裂させ即死させる。
 
「ありがとう美咲さん!」
「感謝や話は後だ! 今はあのサタン達を何とかするんだ!」

 僕は振り返り先程までいた場所の方を見る。四体は律儀に僕を追いかけてくれていたみたいだ。逃げられなくて良かった。

「この子は私が保護して外まで連れていく。それと寧々君や他の人も応援に来させる。だからここは頼む!」
「うん任せて!」

 僕は美咲さんにその子を託し、彼女は僕に背中を預けてくれる。そして僕は再び四体のサタンと対峙する。

「かかってこい!」

 誰かが背中を預けてくれた。そのことにより、一層気合いが入り全身に力が漲ってくる。
 そんな状態知ったこっちゃないと言わんばかりに四体は再び僕に向かって突っ込んで来る。
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