カードで戦うダンジョン配信者、社長令嬢と出会う。〜どんなダンジョンでもクリアする天才配信者の無双ストーリー〜

ニゲル

文字の大きさ
上 下
18 / 130
二章 失った者達と生人の秘密

17話 蠢く疑念(風斗視点)

しおりを挟む
「話ですか? もう遅いんで手短ならいいですけど」
「了解。じゃあとりあえず部屋入ろうか」

 俺達は俺の部屋に入り、適当な所に座る。

「じゃあ早速本題に入るんだけど、生人ちゃんに何があったの? 報告書にはエックスに胸を貫かれたってあったけど」
「俺にはそう見えたってだけです。今考えてみると、奴の作った幻だったりとかいくらでも仮説は立てれますし」

 俺はそれっぽい理屈をこじつけてあの時見た光景を忘れようとしていた。
 何も得れず、不快感を残すだけならいっそのこと忘れてしまいたいとすら思っていた。

「もし本当だったとしたら?」
「はい? そんなことありえないですよ。実際生人は生きているんですし。まぁ今は検査受けてますけど」

 俺には彼が何を言いたいのか全く分からなかった。
 彼は報告書をただ読んだだけだ。普通ならあの内容は俺の狂言だと思うはすだろう。なのに彼は誰よりも、当事者の俺よりもその狂言を信じていた。

「ありえないから、あるはずがないから。そんなつまらない先入観に囚われている限りは自分らはいつまでも真実に辿り着けない」

 田所先輩はいつになく真剣な様子で、いつものおちゃらけた雰囲気を全て消して話し出す。

「それじゃだめなんだよ。真実に辿り着かなきゃ、そうしなきゃいなくなった人達に顔向けできないだろ?」
「いなくなった人……」

 俺はいなくなった人と言われて、真っ先に妹の顔が思い浮かんだ。
 俺の目の前で、俺が置き去りにして逃げ出したせいで死んでしまった愛花のことを。
 あの時の俺は恐怖心に支配されていた。異形の化物を目の前にして、当時高校生だった俺は冷静さを失い正常な判断ができなくなっていた。
 その時の後悔が今も俺の中に残り、こんな性格になってしまっているのだ。

「だから逆説的に考えてみよう。生人は死んでないから、胸を貫かれてはいない。あの時の光景は現実ではなかった。
 そうではなく、あの時の光景は現実だった。だからこそ生人は胸を貫かれている。だが死んでいないってな」
「それは前提が矛盾していませんか? 人間は胸を貫かれたら、心臓を潰されたら死にますよ?」
「それすらも逆に考えるんだ。人間だから死んでしまう。ではなく、人間じゃないから死ななかった……てな」

 彼の話す突拍子もない内容に、しかしどこか説得力があるその言葉に俺は深く考えさせられてしまう。
 
 結局俺は見たくない現実から目を逸らして、あの時から全然成長してない……ガキのままだな。
 
 自分に嫌気が差し、それでも、だからこそ俺は変わろうとする。

「仮に生人が人間じゃないとしたら、あいつはサタンだってことですか? 例えば……人間に化けたまま、自分のことを人間だと思い込んでしまっていたり……とか?」

 俺はもう先入観や見たくないという感情をかなぐり捨て、躊躇わずに自分の率直な考えを述べる。

「その可能性もあるが、やはり現状では判断しきれないな。証拠や根拠が少なすぎる。
 うーん、困ったなー。これは悩みすぎて明日仕事できないかも」

 田所先輩の声色がいつもの調子に戻り、今までのかっこよさや頼れる男感が一瞬にして消え失せる。

「証拠って、そんなものあるんですか?」
「ないな。だからこそ……」
「だからこそ、今から集めようってことですよね?」

 俺はあえて彼の言葉を遮るようにして、不敵な笑みを浮かべながら言う。

「良い顔になったじゃないの。まっ、その様子ならもう大丈夫そうだな」
「心配させてすいません」

 俺は軽く頭を下げ、周りをよく見ずに悩み、心配させてしまったことを謝る。

「気にすんなって、実際生人ちゃんの件は自分も色々気になってたし」
「あいつのことで何か気になることが……?」

 妙に含みのあるその言い方が引っ掛かり、俺はその違和感めいたものの正体を尋ねる。

「それについてもまだ確証がないからまた今度で。でも今自分達は確実に真実に近づいてるって感覚はある。
 このままいけば……」

 田所先輩が先程よりもさらに真剣に、それでもってどこか悲しげな表情をする。

「どうしたんですか?」
「ちょっと考え事。まぁ生人ちゃんの件は自分に任せてちょうだいな。今度それとなく探りとか入れてみるから。風斗ちゃんはいつも通りいてくれればそれでいいから」

 彼はそれだけ言うと立ち上がって部屋から出てい行った。
 
 それにしても、生人が人間じゃない……か。そんなことが……
 
 そんな事実信じたくなかったが、そう仮説を立てれば確かに物事の辻褄は合う。
 これからの不安を抱きつつも、田所先輩のような人もいるのだと。きっとどうにかなるんだと俺は自分に言い聞かせるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

能力『ゴミ箱』と言われ追放された僕はゴミ捨て町から自由に暮らすことにしました

御峰。
ファンタジー
十歳の時、貰えるギフトで能力『ゴミ箱』を授かったので、名門ハイリンス家から追放された僕は、ゴミの集まる町、ヴァレンに捨てられる。 でも本当に良かった!毎日勉強ばっかだった家より、このヴァレン町で僕は自由に生きるんだ! これは、ゴミ扱いされる能力を授かった僕が、ゴミ捨て町から幸せを掴む為、成り上がる物語だ――――。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

勇者召喚に巻き込まれたおっさんはウォッシュの魔法(必須:ウィッシュのポーズ)しか使えません。~大川大地と女子高校生と行く気ままな放浪生活~

北きつね
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれた”おっさん”は、すぐにステータスを偽装した。  ろくでもない目的で、勇者召喚をしたのだと考えたからだ。  一緒に召喚された、女子高校生と城を抜け出して、王都を脱出する方法を考える。  ダメだ大人と、理不尽ないじめを受けていた女子高校生は、巻き込まれた勇者召喚で知り合った。二人と名字と名前を持つ猫(聖獣)とのスローライフは、いろいろな人を巻き込んでにぎやかになっていく。  おっさんは、日本に居た時と同じ仕事を行い始める。  女子高校生は、隠したスキルを使って、おっさんの仕事を手伝う(手伝っているつもり)。 注)作者が楽しむ為に書いています。   誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第直していきますが、更新はまとめて行います。

処理中です...