カードで戦うダンジョン配信者、社長令嬢と出会う。〜どんなダンジョンでもクリアする天才配信者の無双ストーリー〜

ニゲル

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二章 失った者達と生人の秘密

15話 また(風斗視点)

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 俺はエックスの不意打ちをくらってしまい、生人と共に崖を転げ落ちてしまう。幸いこの鎧のおかげでダメージは少なかったが、問題はそこではない。問題は、奴が今もこちらを狙ってきているという点だ。
 崖の上からこちらを見下ろし、今にも次の手を打ってこようとしていた。

「一旦この場から離れるぞ!」

 俺は生人をつれ急いでこの場から離れる。走っている最中にランストのウィンドウを開き、緊急通話を使用する。その際見えたのだが、生人や寧々の報告通り配信画面にはエラーと表示されていた。

「田所先輩! 緊急事態です! 今エックスが……」
「何だって? すまねぇ! 今こっちでドンパチやってて声が聞こえづらいんだ!」

 通話状態のランストの向こうからは、銃撃音や何か建物が壊れる音が聞こえてくる。

「こっちは何故か門から大量に出てきたサタンの対応に追われている! そっちは何かあったのか!?」
「こっちはエックスが現れたんです! でもそっちは何でそんな事態に……まさか!?」

 俺の頭にある一つの仮説が思い浮かんだ。奴が俺達を襲うために、もしくはここで何かを行うために邪魔が入らないようにサタンを地上に向かわせたのではないかと。
 サタンを操るなんてありえない話だが、奴は配信をエラーにしたり本来考えられないことをやる奴だ。それくらいのことは想定の内に入れておいた方がいいはずだ。

「何!? エックスが!? 何だってこんな時に。分かった! すぐに応援に……」
「待ってください!」

 俺はすぐにもここに飛び込んで助けに来そうな田所先輩を制止する。
 
 もし先輩がこっちに来たら地上はどうなる? 寧々はまだ戦闘経験が浅い。あいつだけで地上に大量に出てきたサタンは何とかなるのか? 
 
 俺の脳裏には災厄の日のトラウマが、逃げ惑う人々が襲われるあの光景が焼きついていた。
 地上は音から判断してもかなりギリギリな状況だろう。寧々も経験が浅いとはいえ十分な戦力だ。今こっちに向かわせるわけにもいかない。
 
 俺が今やるべきことは、選ぶべき選択肢は……

「田所先輩! こっちは大丈夫です! エックスの確保は今回は諦めて、ダンジョンを制圧次第そちらに戻ります!」
「分かった!! 絶対に二人とも死ぬんじゃねぇぞ!!」

 俺は通信を切り迷いを振り捨て前方を、湖のある方向を見る。

「どうするんですか? このまま逃げるんですか? それとも……」

 生人が不安そうな声色でこちらに尋ねてくる。

「逃げる。あいつの相手をしている暇はない。今は人命を、ダンジョンの制圧を最優先に考えろ」

 俺は冷静に、出来る限り感情を殺し最善の判断をする。あの時のように、恐怖で正常な判断ができなくなり大切な誰かを失うのはもう御免だったから。

「風斗さん! 危ない!」

 背後から飛んできた紫色の光球を生人が上空へ蹴り飛ばす。
 いつのまにかエックスに追いつかれていたようで、奴はこちらに対して明確な殺意をぶつけてくる。

「先に行け」

 俺は剣を構え奴と対峙する。そして生人に先に行くように促す。彼の背中と行く道を俺が守る。

「先にって、一人で戦うつもりなんですか!? 危険ですよ!」

 彼は信じられないといった様子で俺の作戦に猛反対する。

「危険でもやるしかないんだ! お前があの湖に行ってボスを倒してくるんだ! ここを制圧しさえすれば、攻略した時のように俺達は光に包まれて元の場所に戻る!」
「ぐっ……分かりました」

 彼は俺の意図を汲み取ってくれたようで、こちらを振り返らず湖の方へ駆けて行く。
 
 今の状況での最善の結果は、俺がエックスを倒し捕獲して、生人がここの制圧を完了するといったところか……それくらいやってやる。

「勝負だ。何を企んでいるのかは知らないが、お前の悪行もここまでだ」

 俺は剣を構え、奴のどんな動きにも対応できるようにする。

「貴様に用はないのだがな……まぁいい。貴様でも良いデータが取れそうだ」

 データ……? こいつは何か実験でもしているのか? だとしたら、尚更逃すわけにはいかない。これ以上厄介な事をされる前に倒さないと……
 
 俺が思考を巡らせている内に奴が行動を見せる。手から再び紫色の光球を発射してきた。俺はそれを容易に剣で弾き、そのまま次の動きに繋げる。
 デッキケースからナイフのアイテムカードを取り出し、それを具現化させ奴に向かって虚を突くように素早く投げる。
 
「こんなものが当たるわけないだろう?」

 しかしそんな投擲は奴に受け止められてしまう。躱すこともできたのだろうに、あえて受け止めた。実力差を示すように。
 
 それでも俺はよかった。何故なら奴がそんな調子こいたことをしたおかげで、そのことによって生じた一瞬で一気に距離を、剣の射程まで距離を縮めることができたのだから。
 
 俺は剣を大きく下げ、そこから一気に引き上げて奴の胴体を斬り裂く。火花が舞い、奴が数メートル吹き飛ばされる。
 奴が着地する間も与えず、俺は駆け突きを繰り出す。閃光のようなその一撃は奴の体を捉えた……と思った。
 ギリギリのタイミングで奴が胴体の前に手を持ってきており、手に付いているサメの頭部のようなものが剣に噛み付く。そのせいで威力がほぼ殺されており、俺の突きは決定打には遠く及ばない。

「ぐっ……」

 しかも思ったより力が強く簡単に剣を引き抜くことができない。

「ここまでか。データを取る価値もなかったな」

 奴が空いている方の手を振り上げ、その手のサメの牙を俺に向ける。
 流石にこの場に留まるのは危険だと判断し、剣を離し後ろに下がり奴から距離を取る。
 剣を失った俺を見て奴は油断したのか、剣をその辺に放り捨ててこちらに歩み寄ってくる。

「その油断が命取りだぞ」

 俺は一枚のスキルカードをセットした。

[スキルカード オートアタック]

 捨てられた剣が勝手に動き出し、その場で暴れ回り奴の体を何度も斬り裂く。

「ぐっ……これは……」

 たまらず奴は横に跳んで躱し、俺はその隙に再び剣を手に取り構え直す。

「なるほど。腕は中々といったところか……興味が湧いてきたが、生憎お前に割く時間はもうない。こいつらと遊んでいろ」

 奴は五枚もカードを取り出し、その中の一枚をセットする。

[スキルカード リバイブ 【ベアー】【スクイード】【ウルフ】【スネーク】]

 スキルカードの音声が流れたかと思うと、奴の手に持っていた残り四枚のカードが光り始める。奴がそれを放り投げると、それらが全てサタンに変わっていく。
 熊、イカ、狼、大蛇。四体のサタンが俺の前に立ちはだかる。

「な、何っ!?」

 このようなスキルカードの存在は確認されていない。その未知のスキルに俺はいつもの冷静さを少し欠いてしまった。

「驚くのはまだ早いぞ」

 奴はもう二枚カードを取り出しセットする。

[スキルカード 【スピードアップギフト】【アタックアップギフト】]

 奴の体から光が溢れ出し、それらは四つに分かれサタン達に飛び込んでいく。するとサタン達の存在感が、覇気のようなものが明らかに増す。
 スキルカード名から考えるに、スピードと攻撃力が上がっているのだろう。

「では。楽しんでくれたまえ」

 奴はそれだけ言い残すと生人の方に向かって走り去って行ってしまう。

「なっ!? 待てっ!!」

 俺が追いかけようとするも、サタン達が立ち塞がるせいで追いかけられない。

「くっ、邪魔だ!」

 俺が剣を振り回すも、いつもなら当たるはずなのに、その攻撃は奴らに躱されてしまう。
 先程使ったスキルカードのせいもあるが、それよりも今俺が焦ってしまっているという状況にも原因がある。
 
 クソ……何を焦っているんだ俺は。冷静に、落ち着いて今できる最善策を考えるんだ!
 
 自分に言い聞かせるようにそう念じて、俺は今できることを考え抜く。

「はぁぁぁ!!」

 そしてまずわざとらしく、大振りに熊に一撃を与えようとする。もちろん熊は躱すし、他の奴らもその隙を見逃すわけがなかった。すかさず大蛇がこちらに向かって飛び掛かってきた。
 その瞬間に俺は素早くカードを取り出しセットする。

[スキルカード オートアタック]

 剣が手元を離れて大蛇をズタズタに斬り裂く。他のサタン達が驚く間を縫って、俺は地面を強く蹴り熊の腹に蹴りを放つ。
 流石に大柄のこいつにこれは決定打にはならなかったが、怯ませることができた。俺は大蛇を殺し終わった剣を手元に戻し、そのまま怯んでいる熊の胴体を真っ二つにする。
 
 この鬼神のような戦闘にイカと狼は威圧されたのか、少し引き下がってしまう。
 俺は今が好機と見て、必殺カードをセットする。

[必殺 ナイトスラッシュ]

 剣に大気を揺るがせるほどのエネルギーが貯められ、俺はそれを迷いなく二匹の悪魔に振るう。
 その一振りは奴らだけではなく、その背後の木も十数本は轟音と共に吹き飛ばすのであった。

「倒せたか……早く生人の所に……!!」

 俺は倒した後すぐに走り出し生人の所まで大急ぎで向かう。エックスにはもう追いつけないかもしれない。それでも奴との交戦中に割り込むことくらいはできるかもしれない。
 
 もう誰かが死ぬのは、俺のせいで誰かに死なれるのはもう御免なんだ! 頼む、耐えててくれ生人!
 
 俺は大事な後輩の安否だけを願いがむしゃらに走る。

[制圧が完了しました。一分後に地上に転送します]

 突然ランストから制圧完了した際の音声が流れ出す。しかし安堵するのも束の間。すぐに湖の方から大きな衝撃音が聞こえてくる。
 俺は焦る心を必死に抑え、生人がそう簡単に負けるわけがないと自分に言い聞かせる。

「生人! 今来……っ!?」

 しかし現実は非常だった。生人は変身が解かれた状態でエックスに首を締め上げられていた。
 変身することで着用できるこの鎧には痛みを緩和する機能があるが、痛みやダメージが一定値を超えると耐えれなくなり自動的に鎧は解除されるのだ。
 そしてその状態だと大抵もう身動きができないほど使用者もボロボロとなっているのだ。今の生人のように。

「やめろっ!! 生人を離せっ!!」

 この場にいる三人が光に包まれ、地上へと転送されようとしている中、奴は容赦なく、無慈悲にも動き出す。
 その手を突き出し生人の左胸を貫く。
 辺りに鮮血が舞い、地面に生えている草花の緑を赤く染め上げた。

「生……人……?」

 俺は目の前の光景が信じられなかった。生人はエックスに左胸を、心臓がある部分を貫かれたのだ。手は貫通しており、どう見てももう助からない怪我だった。
 そこから血が止めどなく溢れ出続け、その出血量は明らかに致死量。
 
 今目の前で生人が、大事な後輩が、いつも俺にあの輝かしい瞳を向けてくれていた一人の人間が殺された。
 
 見間違いではない。
 幻覚ではない。
 匂いもする。
 吐き気もする。
 生人の掠れるような声が耳にこびり付く。
 
 目の前の惨状は確かに現実だった。

「よくも……よくもっ!!」

 俺にはもう冷静さなど微塵も残っていなかった。もう、奴を殺すことだけしか考えていなかった。
 怒りに支配された俺はこうすることしかできなかった。自分を制御できなかった。弱い人間なのだから。
 しかし俺の剣は届かない。それよりも先に一分が経過したらしく、俺は無念を抱え地上へと転送されるのだった。
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