カードで戦うダンジョン配信者、社長令嬢と出会う。〜どんなダンジョンでもクリアする天才配信者の無双ストーリー〜

ニゲル

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一章 ヒーローで配信者!?

7話 ウルフアーマー

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「ドロップカードだ! 今回はどんなカードかな?」

 サタンは倒せば死体は残らず消滅し、ドロップカードと呼ばれるカードを落とす。
 これに関しては美咲さんが前に、サタンは自身以外のどこかから生命エネルギーを補給されているのでそれが関係しているのではないか。とか持論を語っていたが、僕には難しくてよく分からなかった。
 
 基本的にはアイテムカードと呼ばれる、武器だったり地上で有効活用できる資源だったりを落とし、運が良い時にはスキルカードを落とすのでとにかく拾って損はない。
 僕は奴が落とした数枚のカードを拾う。墨だったり塩の塊だったり、一般生活で確かに必要な物ではあるが、僕にとってはあまり興味を惹かれるものではない。

『やっぱり疾風は配信映えする~』
『え、こんなキレのある動きできる人いたんだすごーい!』
『これはDOの期待の新人だ!』

 しかし一方視聴者達は僕の完璧な戦闘に想像以上に盛り上がってくれたので僕は十分満足だ。
 
 まぁスキルカードはまた今度美咲さんに頼んで何か面白そうなの作ってもらえばいいか。

 そうして僕が再びボス部屋に向けてマラソンを始め、その間どうやって間を繋ごうか悩んでいた時、また海からイカが飛び出してきた。しかも今度は何十匹もだ。
 コメント欄では阿鼻叫喚の声が上がっていたが、僕はこの状況をどう上手く扱おうかだけ考えていた。

「よし!」

 そして僕は奴らが進行方向とは逆の方にいることを良い事に、奴らに背を向け全速力で駆け出す。
 無論奴らも逃すまいと追いかけてくる。海洋生物のくせして地上でも中々素早く、更に背後から槍やら弓やらが飛んでくる。しかしそれすらも僕は対処して走ってゆく。
 
 そんな逃走劇を繰り広げて数分が経過したところで、進行方向に崖とそこにある洞窟が見えてきた。きっとこのダンジョンのボスが居るのだろう。
 
「さて、何体くらい来たかな?」

 ブレーキをかけ振り向き追ってきた奴らの数を数える。その数何と三十六。クラス一つ作れる程だ。

 疾風を使っても一気に倒すのは無理だよな……なら、アレを使うか。
 
「視聴者のみんな! そしてそこのイカ軍団! ここからが本番だ!」

 僕は迫ってくるイカの群れを正面に、デッキケースから【アーマカード ウルフ】と書かれたカードを取り出す。
 アーマーカードとは更に使用者の身体能力を上げるもので、併用はできないものの、一枚だけでも凄まじい力を発揮してくれる優れ物だ。

「もう一回……変身!!」

 僕はアーマーカードをランストに力強くセットする。
 
[アーマーカード ウルフ レベル5 start up……]

 突如目の前にバラバラの鎧が現れる。それらは迫り来るイカ達にタックルをかましながら次々と僕の体に装着されていく。
 瞬く間に僕は灰色の、鋭い爪と犬耳のようなものがついた狼の鎧を纏う。

「レベル5。今までとは一味違うよ」

 僕はそう啖呵を切り、グッと踏み込み足に力を入れる。
 次の一瞬で、まだ十メートル程あったイカまで距離を詰め胴体を爪で切り裂き真っ二つにする。
 圧倒的なスピードと攻撃力に奴らは戸惑いながらも、各々武器を構えて一斉に襲いかかってくる。 
 
 やっぱり一斉に襲いかかってきたな……ここにいるので全部みたいだし、計画通りだ。一気に蹴散らしてやる!
 
 先程までだったらできても四、五体を同時に相手するのが限界だっただろう。しかしアーマーを着たことによって更に身体能力が向上し、いくら相手にしようとも余裕になっていた。

「ちょっと頭借りるね!」

 僕は奴の頭を踏み台に高く、辺りを俯瞰できるまで跳び上がる。
 
 海の中にはもう居ないっぽいな。ここにいるので全部……よし。
 
 デッキケースから再び疾風のスキルカードを取り出し使用する。奴らは矢を放ってきていたが、疾風により全てがスローに見えていたので容易に躱せる。
 着地と同時に再び攻撃を再開し、疾風の効果が終わるのと同時に最後の一匹を仕留める。
 
 辺りにドロップカードが散乱する。一気に三十体以上も倒したのでかなりの枚数ある。

「拾うの手伝いますよ」

 今まで上空にいた峰山さんが降りてくる。

「先程までの動きお見事でした。わたくしに足りないものが少し分かった気がします」
「君の役に立てたなら良かったよ」

『あれこの人ってエンジェルって名前で活動してる峰山寧々さんじゃん! 確かラスティーと同い年くらいだったよね?』
『もしかして付き合ったりとかしてるのかな?』

 チラリと少し確認してみたが、僕の配信の方では彼女のことを知っている人がちらほらいて、何故か根も葉もないことを言っていた。
 とはいっても視聴者が憶測で盛り上がることは日常茶飯事なのでスルーして僕は峰山さんと一緒にカードを拾うことに専念する。
 
「この洞窟にボスがいるのですよね、恐らく」

 全てのドロップカードをデッキケースに仕舞い込み、僕達は洞窟の中を覗き見る。

「そうだろうね……あっ! この先は天井低くて飛ぶのキツそうだけど大丈夫?」

 洞窟は横幅はそこそこ広いのだが、高さは僕の背丈の二倍ちょい、つまり三メートルもなく飛行するには不向きに思える。

「ではわたくしはあなたの背後から見ています。あなたが危なくなった時、もしくはサタンがこちらに襲いかかってきた時にのみ交戦する。ということでどうでしょうか?」
「それで大丈夫そうだね。じゃあそれでいこう」

 僕はそう決まるとすぐに洞窟の中へと入り、恐れずガンガン突き進んでいく。
 
「思ったより暗いですね……」

 中の暗さに峰山さんが声を漏らす。僕は視力が良いのでまだ見えているが、彼女には少しキツかったようだ。
 
 確かに今は歩いているだけだから良いかもしれないけど、これで戦うってなったら少し危ないかも……

「生人さん。少し伏せてもらえますか?」

 あ、本名……って、もうDOに入ったんだし、名前は公表されてるから個人情報とか気にして隠す必要はないか。
 僕は言われた通りその場に伏せる。峰山さんはデッキケースからアイテムカードを取り出しそれを具現化させる。それは何の変哲のない弓。

「はぁぁぁ……」

 突然矢を番えた峰山さんの手が発光する。矢に光が移り、その発光する矢は僕の上を通り過ぎていき地面に突き刺さる。
 矢は適度に良い発光で辺りを照らしてくれていて、そのおかげで周りがかなり見やすくなる。

「ありがとう峰山さん! 助かるよ!」
「どういたしまして。わたくしが進む度に今の矢を放ちますので、それを光源にして進んでください」

 進んで光源の光が届かなくなってきたら峰山さんにまた矢を放ってもらう。それを繰り返しながら洞窟の中を進んでいくと少し広い場所に出る。
 そこに入った途端空気がガラッと変わったのを肌で感じ取る。すぐにここがボス部屋なのだと分かった。
 それを証明するかのように大きなヒキガエルのようなサタンがいた。奴はこちらを睨むと口を大きく開き、舌をまるで鞭のように放ってくる。
 
「危なっ!」
 
 僕はその場に屈んで舌は僕の頭上を通過していく。その舌は壁に当たるのだが、当たったそこは大きく凹んでおり、その威力は凄まじいものだ。
 
 あの舌どんな物質でできてるんだよ……ともかくくらったらヤバそうだな。僕があんなのくらうわけないけど。
 
 僕は屈んだ姿勢のまま、四足歩行の狼を模したスタートを切る。そのまま奴の舌攻撃を掻い潜り、一気に奴の眼前まで飛び出る。
 爪で奴の眼球を引っ掻き視界を奪う。もちろん奴はパニックとなり滅茶苦茶に暴れ散らかすが、そんな攻撃僕に当たるわけもなかった。

「それじゃあボスのトドメは必殺技でいこうか!」

 僕はデッキケースから必殺カードを取り出しセットする。

[必殺 ウルフクラッシュ]

 僕は素早い動きで奴に連撃を放ち、最後は渾身の力を込めた右手で殴りつけ壁に叩きつける。奴は数枚のカードをドロップして消滅する。

[ダンジョンのボスが倒されました。一分後に地上へ転送します]

 ランストからダンジョンをクリアした際に流れる音声が聞こえてきた。今のがダンジョンのボスで間違いなかったようだ。
 この一分はボスが落としたカードを拾ったりする時間で、一分が経過すると光に包まれてダンジョン内にいる人間は元いた場所へと転送されるのだ。

「じゃあみんな! また今度もよろしくねー!!」

 僕はボスが落としたカードを拾いながら、手短に視聴者へ別れの挨拶を済ます。

「皆様この度は視聴してくださりありがとうございました」

 峰山さんも同様別れの挨拶をしていた。僕とは正反対に堅苦しかったが。
 やがて僕達は光に包まれ、それと同時に配信が終了する。元いた場所まで転送されるのだ。そして光が晴れて元いた場所に……転送されていなかった。

「あ、あれ?」

 先程までと同じ場所。洞窟の中だった。僕は困惑して辺りを見渡すが、そこには峰山さんもいて僕と同様の反応をしていた。

「えっと、これって何かDO限定の特殊なシステムとかだったり……」
「いえ、こんなことわたくしも初めてです」

 彼女もこんな事態に出会ったことはないらしい。

「って、あれ? 配信されていない!?」

 僕は視聴者の誰かなら今の事態を知っている人がいるかもと思い配信画面を開いたが、ランストから出たウィンドウにはエラーと表示されて何も見れなくなっている。

「わ、わたくしのも同じです。一体どうなって……」

 戸惑いどうしたらいいか分からずジタバタしていると、洞窟の入り口の方からコツコツと一つの足音が聞こえてきた。

「先程のイカのサタンでしょうか?」
「いや違う。イカのあの触手だったらこんな硬い足音は鳴らないはず……」

 不安が胸の中で高まり、向かってくる足音の方を僕達は凝視する。数十秒後、足の音の主は姿を現した。
 それは僕達と同じ人間だった。ランストをつけて全身真っ白な鎧をつけている配信者だった。
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