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三章 すいちゃんは可愛い‼️

50話 許さない

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「永瀬教授……どうしたんですか?」

 夜道と友也を先に行かせた後に霧子は通話を開始する。

「大雑把な概要は友也君から伺っています。人間が魔物になっただとか」

「人間じゃありませんよあんなの。人を……アタシの大切な家族を傷つけようとする害虫です」

 兄には決して見せない鬼の形相で自然と体に力が入る。踏んでいた木の枝が音を立て割れるがそれは霧子の耳には入らない。

「はぁ……用件だけ伝えます。彗星君の体の一部を持ってきてください。最低指一本程の体積で。生死は問いません」

「えぇ……任せてください」

 思考を巡らせた結果、霧子はすぐさまパティシーを装備し直し先程彗星が行ったダンジョンを選択する。

「兄さん達が来る前にアタシがあいつを……!!」

 このパティシーには配信機能がないため配慮等は必要なく、霧子は怒りを隠そうとはせずその憤怒を溜めつつダンジョンに赴くのだった。


☆☆☆


「はぁぁぁっ!!」

 生い茂る森の中。打ちつける雨に体を濡らしながら彗星は魔物達を手当たり次第に舌で貫き殺す。
 パティシーでの変身を行っていないせいか魔物達は彼女を敵と見做し次々と襲いかかる。

「鬱陶しい!!」

 棍棒を振り上げる小柄のゴブリン達を一方的に惨殺する。

「クソ……変身さえできればもう少し楽だったのに」

 どれだけパティシーにオーブを嵌め込もうがアーマーが出現することはない。それでも無くすわけにはいかないので大切に腰に巻きつけたまま泥濘の中を歩く。
 
「はぁ……はぁ……うわっ!!」

 しかし連戦とマラソンで体力はかなり削れてしまっており、休める場所を探す前に限界を迎え足を地面に取られ顔から泥にダイブしてしまう。
 アイドルらしからぬ顔になってしまい、悔しさから出たものかそれとも雨か。一筋の水滴が頬を伝う。

「ちっ……」

 こうなってしまっては汚れなんて気にしてはいられない。彗星は側の木にもたれかかり体を休める。泥が雨で流され尻や足をさらに汚すがそれを堪えて回復を待つ。

「もうあんな惨めな想いは……」

 彗星は自分の下半身をなぞるように触り動くかどうかの確かめる。一年前とは違いしっかり動きこれであればまだ壇上で舞えるだろう。
 彗星の脳内に蘇る一年前の記憶。病院で自分より才能がないはずだった子達の活躍を見る日々。その時の怒りはまだ体に残っている。
 だからこそ副作用の有無が分からなくても薬に手を出してしまった。夢を叶えるために。

「何……この顔……?」

 近くにできた水溜りが、そこに映った自分の醜い顔が彗星の瞳に入り込む。

「違う……違う!! こんなのワタシじゃない!!」

 肩にある口から舌を一本出し水溜りを攻撃する。波紋が何回も発生し自分の顔が潰される。
 夢を叶えるためには仕方なかった。身も心も怪物になるしかなかった。
 夢に近づけば近づくほど本性は憧れたお姫様とは遠く離れたものとなる。しかしそうしなければまた惨めな生活に逆戻りだ

「ワタシはどうしたら……」

「死ねばいいんじゃないかな……」

 彗星の体が大きく跳ねて反射で声がした方へ舌を打ってしまう。
 同時に体に激痛が走り舌が切り落とされる。チェーンソーの駆動音を鳴らしながら黄色の薔薇の花弁を散らす霧子が迫ってくる。

「あんたは……へぇ。夜道さんや友也さんは説得しようとしてたけど……ワタシに嫉妬でもしたの?」

 体力はあまり回復しておらず、ほんの少しでも自分が有利になるために彗星は必死に言葉を考え会話しようとする。
 
「嫉妬……? 何でそんなことを? 兄さんがあなたなんて選ぶわけがない。絶対にアタシを選んでくれるからね」

「じゃあさっきの女の仇でも取りにきたの?」

「花華さんのこと……? まさか。そんなこと別に怒ってないよ。知り合いをいくら殺されても別に。気の毒だとは思うけどね」

「えっ……?」

 魔物になっていないのに人間性を疑う発言。予想外の返答に目的を忘れ言葉が詰まってしまう。

「アタシが許せないのはお前が兄さんを傷つけようとしたことだ……!! 兄さんを悲しませて、そして殺そうとした!!」

 霧子はオーブを一つセットして液体を注入する。右手だけにあったチェーンソーが左手にも出現する。

「殺してやる……この世から消えろ化物が!!」
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