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一章 四人の配信者

12話 配信者の王

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「うーん……」

 目覚ましが鳴り響く中俺は目を覚まし時計を止める。

「えっ……もうこんな時間かよ!?」

 時刻は予想よりずっと先を行っており、もうこの時点でバイトに間に合わないことは確定だ。俺は飛び起きて急いで霧子の弁当の準備をしようとする。

「おはよう霧子! 今すぐ弁当の準備をするから……」

「兄さん。今日は祝日で学校はないよ」

「あっそうか……いやでもスーパーのバイトあるから急いで……」

「スーパーならこの前ガス爆発が起きて今はやってないんじゃ?」

「あっ……そ、そうだったな」

 再び体を急がせようとしたが、ついこの前のことを思い出してまた停止させる。
 世間一般的にはこの前の事件はガス爆発として処理されて魔物の一件は隠蔽された。後から敷島さんに聞いたのだが混乱を避けるためだそうだ。
 俺もあのことは霧子には黙っている。花華もあの事件以来はあまり会ってはいないが、配信を頻繁に行い修行配信と称して魔物と戦っていたので心身共に元気なのだろう。

 それから特に急ぐ必要もなくなったので、ゆっくりと味噌汁と卵焼きにほうれん草を付けた朝食を出す。

「いただきます」

 俺達は手を合わしそれらを食べ始める。我ながら味付けは完璧で霧子も満足のようだ。
 
「そういえば兄さん。スーパーのガス爆発の件……本当は何があったの?」

 俺は飲んでいた味噌汁が気道に入り何回かむせてしまう。
 本当に霧子は感が良い。俺の些細なことでも見逃さなかったのだろう。

「別に何もなかったよ」

 霧子から冷たい視線が送られる。それが胸に突き刺さりとてもじゃないが彼女の目を見て話せない。

「危険なことはしないでね。兄さんは……たった一人の家族なんだから」
 
「あぁ……」

 俺はその言葉に強く、芯を持たせて返す。嘘こそ吐いてしまったが霧子を想うこの気持ちだけは絶対に揺るがないし嘘偽りもない。
 あの日助けられた唯一の家族だから。俺が絶対に守り抜かないといけない。

 朝食を食べ終わり霧子は自室で勉強し俺は配信関連の情報を集めようとする。

「それにしてもフォロワー中々増えたな」

 スマホで自分が運営する配信用のSNSを開くとまたフォロワーがかなりの数増えている。この短期間の間に数倍になった。これも花華のおかげだろう。
 配信も順調で入ってくるお金も増えるだろうが、とはいえバイトを探さないわけにもいかない。
 昨日の件もあるしいつ配信ができなくなってもおかしくない。もしかしたら今日からゲートに関する調査とかで配信に制限がかかる可能性だってある。だから安定した職も得ないといけない。

「ん? 配信者からメッセージが来てる」

 SNSのダイレクトメッセージを見ているとそのうちの一人が公式認可のマークが付いていることに気がつく。どうやら配信者のようで俺とコラボしたいとのことだ。

「えっーと、こいつ誰だ……って、ランキング一位のフォルティーじゃないか!?」

 コラボ依頼を出してきたのは長いこと一位の座に居座っている、ダンジョン配信に触れたことがある人なら誰でも知っているであろう人物だった。
 俺の最近の活躍に興味を持ったので近いうちに手合わせをしたいという旨のメッセージだ。

「うーん……でも今日の午後は新しいバイトの面接だし……明日でいいか」

 俺はとりあえず明日の午前から夕方にかけて空いていることを伝える。それからは何事もなく昼を迎えて、霧子と一緒に昼食をとってから俺は新しいバイト先である近所の薬局まで向かう。
 
「お願いです……やめてください!!」

 薬局までの道中。路地裏の方から女性の悲鳴めいた声が聞こえてくる。
 気になりその道を覗いてみると大柄の男性二人が小柄の可愛らしい女性に迫っている。女性の片腕は男にがっちりと掴まれており逃げられない様子だ。

「まぁまぁいいじゃんかよ~ちょっーーとお兄さん達と遊ぼうよ?」

 柄の悪い二人は明確に拒絶されても引き下がろうとはせず、二人組の内一方の男がポケットに手を入れて何かを取り出す。そこから取り出されたものは注射。その鋭利な針が女性の手首に迫る。

「まずいっ……!!」

 リスクなど考える暇もなく体が勝手に動くのだった。
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