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二章 正義vs正義
50話 太平洋戦争
しおりを挟む「え……? リュージは戦争を止めるために平和活動をしていたんじゃないの?」
「そう受け取ってて当然だよね。だってそう思うように話してたんだから……あはは。相変わらず卑怯だな俺は」
自虐の意を込めた言葉で自身を傷つけ、また少し体が軽く、楽になったような気がする。アキとディスティに至っては話に上手くついて来れていない。
それでも俺は構わずに話し続ける。
「俺の生まれ故郷はある島国で、俺が生まれた頃から戦争をして豊かになろうって、他国を侵略して自国を裕福にさせることが正しいって教育を受けてきた。
俺もそれを真に受けた一人で、人を殺すことが正しいって信じ込んでいたんだ。本当に馬鹿だったよ」
今でもあの時の自分が許せない。もし一瞬でも過去に戻れるならその時の自分を殴ってやりたい。
「当時の俺はそんな思想に支配されて、正義感に酔って、神童だともてはやされて最前線で大量の人間を殺してきた。
なぁミーア。エルフの村の件覚えてるか?」
「えぇ。一ヶ月前のあの事件よね。大体覚えてるわ」
「俺も昔はあそこを襲った奴隷商人と似たようなことをしていたんだ」
あれは防衛だけに飽き足らず、隣の国を侵略した時のことだ。今でも思い出すだけであの時の自分の行動に反吐が出る。
「ちょうどアキくらいの子供だった。祖国を侮辱した子供達を親の前で袋に詰めて出られないようにして、蹴って殴って投げて。
そして最後には油を染み込ませて燃やして殺したりもした」
「ひっ……!!」
別に何か意図があったわけではない。だが偶然俺の揺れ動く視線がアキの瞳を捉えてしまう。
アキは蛇に睨まれた蛙のように震え出し手を体の前に持ってくる。最初に出会った時のような警戒心を見せる。
怖がるのもしょうがないよな……当然のことをしたんだ。これは俺が受けるべき報いなんだ。
仲間から信頼を失い、頼ってくれていた女の子からも失望されたかもしれない。でもそれが何故か今の俺には心地良い。
「それでどうしてそんな人間が、今のリュージみたいな性格になったのかしら? 少なくとも今のあなたはそんなことをする人間には見えないわ」
「もちろん俺を変えてくれる、目を覚ましてくれる出来事があったんだ。
あれは戦争が一区切りして他国に行った時だった。俺は祖国に負けた国で偶然小さい子供と友達になったんだ。向こうも俺の戦争を勝利に導いた英雄って肩書きを知らずに素直に接してくれた」
しばらく人と対等に接してこれなかった頃、久しぶりにできた友達だった。あの頃は本当に楽しかった。数週間の付き合いだと分かってはいたが戦争で失った青春が戻ってきたような気がしたのだ。
「でもある日キャッチボールをしていたら子供が手元を狂わせて俺の顔にボールをぶつけてしまったんだ」
「それがどうかしたのですか? ただの事故じゃ……」
アキは歳故このことの重大性や危険性について勘付いていない。一方他二人はもうなんとなくだが察しがついているようで言葉を飲み込む。
「その怪我が上層部の人達にバレて、早とちりしたそいつらがその子供と家族を磔にして見せしめにして殺したんだ」
俺がそのことを知ったのは日本に帰ってからだった。
急いでまたアメリカに向かい、そこで誰もいなくなったその子の家を見て呆然と突っ立ってることしかできなくなったのだ。
「それからその子の友達に、何度も遊んだことのある子供に石を投げつけられた。大した威力も、技術もないはずなのにあれは痛かったなぁ……」
今でもそれが当たった場所は覚えている。俺は右頬を摩りあの罪を忘れないようにしっかり何度でも心に刻み込む。
「それから自分がしてきたことに違和感を覚えて、やっと気付いたんだ。今まで何て残酷なことをしてたんだって。
それから俺達に殺された人達の家族や、負けた国の悲惨な現実を見て心を痛めて今までしてきたことの罪を償おうって決意したんだ」
これが俺の本当の過去。今悪人だろうと誰だろうと救おうとする独特な思想の真相だ。
その思想は俺の過去のトラウマと贖罪思想からくるものだ。
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