転生した先で蔑まれ追放された俺の異世界冒険ライフ 〜魔法も使えない無能と言われた俺には、クリスタルを全属性扱える才能があったみたいです!?〜

ニゲル

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二章 正義vs正義

49話 罪悪感からの解放

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「私は小さい村で暮らしていたの。平和でのどかで。何にもないところだったけれど、私はあの村が好きだった。家族や優しくしてくれるみんなが大好きだった」

 その言葉を聞くなりディスティは目を逸らしミーアを直視できなくなる。今まで悪と見なしていた魔族のこのような内情を知り罪悪感に駆られているのだろう。
 彼らも人と同じように営み暮らしている。その事実が冷えたディスティの頭の中に入り込む。

「でもその日常は赤の他人が勝手に起こした戦争で崩れ去った」

 二十年前の人間と魔族の戦争のことだろう。戦争は無関係の人を巻き込む残虐なものだ。彼女もその被害者の一人となったのだろう。
 
「私達の村は戦える者もいなくて人間に占拠されて、国からも見捨てられて助けも来なかった。そこで私の家族や友達は殺されて、私は捕虜になったの」
「捕虜に……!?」

 熾烈を極めた戦争で捕虜になった人間がどうなるかは前世で嫌というほど見てきた。だからか狼狽の声を漏らしてしまう。

「そうよ。そこで私は……私は……ウッ!!」

 ミーアは口を押さえ必死に這い上がってくる吐瀉物を吐き出さないようにする。酸っぱいものを食べたかのように目を瞑り辛い表情をし、顔をほんの少し青ざめさせる。

「それ以上は話さなくていい。無理しないで」

 俺はうずくまる彼女の背中を摩り辛い気持ちを楽にさせてあげようとする。段々と呼吸が整ってきて、数分もすればまた話せるようになる。

「とりあえずこれが私が平和や共存を目指す理由よ。もうこれ以上誰も私のような戦争の被害者を出したくない。
 そのためには人間と魔族が共存することが必須なの」

 やはり彼女はよくできた者だ。それだけのことをされれば人間に殺意や憎悪を抱いても仕方ないというのに、彼女はそうならなかった。弱くはなかったのだ。
 
「だからこれからも私の願いのために、今この世界を生きる人間と魔族両方のためにこれからも協力してくれないかしら?」

 こう言われてしまったらもう答えは一つだ。選択の余地なんて、断る理由なんてあるはずもない。
 アキもどうやら同意見のようで、お互い顔を見合わせてタイミングを合わせ答えを返す。

「もちろん。これからもぜひ君の夢に協力させてくれ」
「はいもちろんです! これからもよろしくお願いします!」
 
 暖かい空気がこの部屋に流れ、やっと長い夜が終わりを告げ陽の光が辺りを照らし出す。
 ミーアは人間の姿へと戻り、バリケードにしていたベッドを元の場所に戻す。

「……光のクリスタルはしばらくリュージさんが持っていてください」

 しばらく黙っていたディスティが徐に口を開く。目に生気こそ宿っていたが、彼女らしくなく鋭く攻撃的なものだ。
 
「持ってていいの?」
「はい。ワタクシにはまだ何が正しいのか、世界がどうなるべきなのか分かりません。そんな迷いや未練だらけの状態では……それを受け取る資格はありません。
 ですのでいつか答えを見つけられたら、覚悟が決まったらその時渡してもらえませんか?」
「いいよ。それが君の決めた道だっていうのなら俺は口出ししない。
 時間はたっぷりある。だからいっぱい悩んで、そして後悔しない選択をしてね」

 意味ありげな言葉を手渡そうとするが、俺の心に重たい何かがまた乗っかり、ミーアは自分の内情を話したというのに俺は逃げてしまうのかと罪悪感を覚えてしまう。
 胸の中で何本何万本もと刺さった針が暴れ出し早くあのことを吐き出せと急かしてくる。

「実は俺もみんなに話してなかったことがあるんだ」
「え? 何かしら?」

 状況を悪化させるに決まっていると分かっていたのに、このことはこの世界では墓場まで持っていくと決めたのにそれでも吐き出したかった。
 そうすれば少しは楽になれるはずだと信じてしまったから。

「ディスティは聞くのが初めてだね。二人にはもう話したと思うけど、俺は違う世界で刺されて死んでこの世界に転生してきたんだ」
「は、はぁ……そうですか」

 ディスティは半信半疑といった様子だが、俺がまだ本題を後に抱えていることを察してくれてそれ以上は何も言わない。

「そこで平和のために世界を駆け回っていたというとこまでは二人に話したと思うんだけど、実は話してない部分が、一番重要なあることがあったんだ」

 息を呑み、俺はこの半年間ずっと溜め続けてきたものを吐き出す決意をする。

「俺はとある戦争に参加していて、ミーアが言うところのその赤の他人。つまり戦争で人を殺めてた側の人間なんだ」

 出ていたはずの陽の光は雲に遮られ、もう止められなくなった脱線した列車はこのまま進み続ける。
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