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二章 正義vs正義
46話 悪魔と魔族
しおりを挟む「十五年前の仕返しだ! お前も寒さを味わえ!」
エムスはバールで地面に積もった雪をゴルフに似た動きで殴り飛ばし、大きく舞い上がった雪は雪崩のようにディスティに襲いかかる。
それ自体は大したことはない。雪がぶつかったとしても大した威力ではない。だが問題は視界が遮られたことだ。
エムスはその視界の悪さを利用してご自慢の接近戦に切り替えようとするが、アキが飛ばした火の塊によって雪が解け視界が晴れる。
そこにミーアが風の弾丸を飛ばし、体勢を崩したところをディスティの杖と俺の日本刀が襲う。
だが奴はその不安定な体勢から攻撃に対処する。日本刀はバールで受け止め、杖は素手で掴んで止める。
「痺れるぜぇ……中々の攻撃だ」
あの速度の物体を両手でそれぞれ受け止めて、確実に衝撃は伝わっているはずなのに奴はその痛みを苦にせず笑いながらディスティごと杖を上空へ放り投げる。
そうして空いた片手で俺の顔面目がけて殴りかかってくる。
ディスティは空中でミーアにキャッチされ、アキはこちらから距離が離れている。今すぐに援護はこない。
それならここで鍔迫り合いを行うのは不利だと判断して一旦後ろに退こうとするが、その拳は俺ではなく日本刀の方へ軌道を変える。
「掴んだぜぇ……!!」
奴は刃物である刀を強く掴み、手から血を溢れさせながらもガッチリと固定する。その手を斬り落とそうとするが切れ味が奴の力に負けてしまう。
そのまま奴はバールを俺の頭部を狙って振るう。躱そうとはしたもののこの距離ではそれもできず頭に重い一撃をくらってしまう。
追撃しようとする奴をアキが離してくれたおかげでこれ以上のダメージはなかったが、その一撃のせいで頭が割れそうになり足が動かなくなる。
脳に強い衝撃を受けた……軽い脳震盪が起きているな。どうする? これはしばらく動けないぞ……
「あと三人……!!」
エムスは舌舐めずりし、アキから放たれた火球を蹴り上げミーアとディスティにぶつけようとする。
アキは即座に火球を放つのを止め、トンファーに魔力を込めエムスに飛び込んでいく。
「お前の攻撃は熱くて好きだからくらいたいが……今回はお断りだ」
エムスは体を大きく仰け反らせトンファーを躱す。アキは空中で奴からの反撃に備えるものの、奴の攻撃の方が一枚上手だった。
彼女の進行方向。奴の立っていたすぐ後ろには黒い亀裂が設置してあり、奴が笑みを浮かべるのと同時にアキを吸い込んでしまう。
「あがぁぁっ!!」
それに触れた途端肉や骨が様々な方向に強力な引力を受け、彼女の背中の肉が裂け腕に至っては骨が剥き出しになる。
だが亀裂には大して魔力が使われていなかったのか、アキが死んでしまう直前で亀裂が消失する。
「あと二人ぃ」
アキは死んでこそいないが、出血も酷く剥き出しになった骨にはところどころヒビが入っている。もう動くことはできないだろう。
「殺してやる!! エムスゥゥゥゥ!!」
ディスティがミーアの手を振り払いエムスへと落下していく。
その途中で光のクリスタルとノーマルクリスタル複数個杖に押し当て魔力を武器にチャージする。呼応するように奴もバールにノーマルクリスタルを詰め込めるだけ詰め込む。
二人の武器がぶつかった瞬間大きな衝撃波が辺りに飛び交う。それによりアキが俺の方まで飛ばされてくる。
「大……丈夫か?」
やっとマシになってきた脳を回転させ、飛び火がアキに当たらないよう彼女の前まで這いずる。
剥き出しになった色白の骨にさえ血肉が飛び散って赤く染め上げている。彼女の容態は深刻だ。
「これで最後だぁぁ!!」
なんとか動かせる片手で必死に応急手当をする中、ついにバールがディスティの頭部を捉えてしまう。頭部が少し抉れ、そこから血肉を散らしながらその場に倒れてしまう。
「殺し……いやまだ意識があるな。頭蓋骨までは割れなかったか」
彼女は倒れながらも殺意の籠った睨みを効かせる。だがそんなものに意味などない。
「で、どうする? あとはお前一人になったわけだが?」
ミーアが地面に降りてきてエムスと対峙する。
圧倒的な戦力差だ。一騎当千のエムスに対してこちらはもうミーアのみ。
回復している暇はない。周りを見る感じ援軍も期待できない。
「仕方ないわね……あまりなりたくはないけれど、これはもう我儘言っていられないわね」
ミーアはこの絶望的な状況でも悲観せず、寧ろ顔つきはよりギラつきを孕んだものとなる。
「やっと本気の……本当のお前と戦えるというわけか。なれよ……それまでは待ってやるよ」
エムスはこれから何が起こるのか分かったような様子で、ディスティを蹴飛ばして退かし仁王立ちでミーアの行動を待つ。
「ディスティ。見てなさい。
今からあなたを助けるのは、魔族である私よ」
ミーアはまず上着のボタンを外し胸や体の締め付けを緩くする。そして全身に力を込め筋肉と血管を浮かび上がらせる。
彼女の肌に冒涜的な模様が浮かび上がり、体格がみるみるうちに大きくなっていく。額からは二本の角が生え、彼女から感じる圧が圧倒的に強まる。
「今からは魔族としてあなたと戦う……さぁ勝負よ!!」
自分は魔族だと正体を明かし、ナイフを捨てアイテムボックスから金色の手袋を取り出して装着する。
魔族の力を持ったミーアと、誇張なく最強の力を持っていると言えるエムス。この二人が今ぶつかり合おうとしている。
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