43 / 53
二章 正義vs正義
42話 死別
しおりを挟む
「うっ!? 遅かったか……」
中はもう既に火の手が周り出しており、焦げ臭い匂いが鼻をつく。
「誰か助けて!!」
「いや! やめて! 来ないでぇぇぇ!!」
離れた所から悲鳴が聞こえてくる。勝てないかもしれないが時間稼ぎくらいはできるはずだ。俺は血相を変えて悲鳴の方向へと駆け出す。
開け放たれている部屋を何個も通り過ぎる中、俺は信じられないものを目撃する。
「え……シア?」
シアがベッドにもたれ掛かりダランと脱力して目を閉じている。それだけなら寝てしまっているようにも見えたかもしれない。
だが目の前の惨状がそう見させてはくれない。
ベッドのシーツが所々真っ赤に染め上げられ、多量の血が地面に飛び散っている。そしてダランと開かれた口にはあるはずのものがない。舌が抜き取られている。
「クソ……!!」
また一つの命を助けられなかった。その罪悪感が新たに一つ胸の中に放り込まれる。
だが悲しみに暮れる暇もない。これ以上被害を出さないためにも一早くエムスを捕らえなければいけない。
「これは……どういうことですか?」
振り返って悲鳴が聞こえる方へ再び向かおうとしたところ、いつのまにかディスティが背後にいたらしく彼女の見開かれた瞳とバッタリ目が合ってしまう。
丸く小さくなっていく二つの瞳はハッキリと妹の亡骸を捉えている。
「あ……あぁぁぁぁ!!」
数秒遅れてディスティの声が悲鳴の一つに加わる。絶叫と共に亡骸に走り寄りそれを抱き寄せる。
体に触れた際に冷たさでより妹の死を自覚してしまったせいか涙が更に溢れ出す。
「ディスティ……気持ちは痛いほど分かるよ。でも今はエムスを……」
自分でも残酷なことを言っているのは分かっている。それでもこれ以上の被害は食い止めなければならない。
「嫌だ……いやぁぁぁ!! なんで!? どうしてあなたも置いて行くの!?」
もはや彼女には俺の声は届いていない。目の前の現実を受け止められずただ泣きじゃくっている。
もうだめか……彼女は置いていくしかないな。
「リュージ!? これは一体……」
遅れてミーアとアキもやってくる。ミーアはこの惨状を見せないためにアキを抑え部屋に入れないようにする。
「エムスはもうここにいるはずだ。ディスティはもう……とにかく三人でも行こう!」
部屋を出て扉を閉め、三人で悲鳴が鳴り響く方へと走る。道中でアキが炎を吸い込んで消火してくれるがそれを上回る量で燃え盛っている。
何人もの惨殺死体を目の当たりにしながらも突き進んでいき、ディスティと初めて会った広場まで辿り着く。そこには真っ赤に染まったバールを握ったエムスが立っている。
「よぉお前ら……」
俺達は構えるが奴からは殺意をあまり感じられない。俺達に興味がないようだ。
「今お前達はどうでもいい。それよりディスティって奴を知らねぇか? あいつも殺してやらなきゃいけねぇんだよ」
「お前いい加減にしろよ……親が死んだことには同情するし、そのせいで辛かっただろうよ。でもこんなことするのは違うだろ!」
俺の叫びを聞いても奴は顔色一つ変えず、ただバールで地面を軽く叩くだけだ。
「死んだぁ? 殺されたんだよ俺の親は。それに正直もう親が殺された件についてはもうどうでもいい」
奴は薄ら笑いを顔に貼り付け、徐に近くにある柱に頭を強く打ち付ける。
「お前何やって……」
「親が殺された後、まだ弱かったオレはこいつらに半殺しにされて雪山に放り捨てられた。崖から投げ下ろされた。
あれは殺す気だったんだろうなぁ……だがオレは死ななかった」
聞いていた話と違う。大司祭様の話だとエムスは逆恨みで殺人を始めたはずだ。話が食い違っている。
「でもよ……あの日から寒いんだよ。凍え死にそうになってから、手足の痺れも治したはずなのにずぅーっとあの日の寒さが体から取れねぇ……取れねぇんだよ!!」
エムスは落ちている燃えている建材を掴みその炎を自分に押し当てる。服が燃え炎が広がるが、その熱に奴は痛がるどころか寧ろ喜んでいる。
「ダメだ……こんなんじゃ足りねぇ……あぁ!! イライラするぜぇ……!!」
奴がバールを一振りし、それによって生じた風圧だけで自分に纏わりつく炎を掻き消す。
「気が変わった……ディスティを殺す前にお前らで体を温めてやる。さぁ……オレを熱くさせてくれよぉ!!」
中はもう既に火の手が周り出しており、焦げ臭い匂いが鼻をつく。
「誰か助けて!!」
「いや! やめて! 来ないでぇぇぇ!!」
離れた所から悲鳴が聞こえてくる。勝てないかもしれないが時間稼ぎくらいはできるはずだ。俺は血相を変えて悲鳴の方向へと駆け出す。
開け放たれている部屋を何個も通り過ぎる中、俺は信じられないものを目撃する。
「え……シア?」
シアがベッドにもたれ掛かりダランと脱力して目を閉じている。それだけなら寝てしまっているようにも見えたかもしれない。
だが目の前の惨状がそう見させてはくれない。
ベッドのシーツが所々真っ赤に染め上げられ、多量の血が地面に飛び散っている。そしてダランと開かれた口にはあるはずのものがない。舌が抜き取られている。
「クソ……!!」
また一つの命を助けられなかった。その罪悪感が新たに一つ胸の中に放り込まれる。
だが悲しみに暮れる暇もない。これ以上被害を出さないためにも一早くエムスを捕らえなければいけない。
「これは……どういうことですか?」
振り返って悲鳴が聞こえる方へ再び向かおうとしたところ、いつのまにかディスティが背後にいたらしく彼女の見開かれた瞳とバッタリ目が合ってしまう。
丸く小さくなっていく二つの瞳はハッキリと妹の亡骸を捉えている。
「あ……あぁぁぁぁ!!」
数秒遅れてディスティの声が悲鳴の一つに加わる。絶叫と共に亡骸に走り寄りそれを抱き寄せる。
体に触れた際に冷たさでより妹の死を自覚してしまったせいか涙が更に溢れ出す。
「ディスティ……気持ちは痛いほど分かるよ。でも今はエムスを……」
自分でも残酷なことを言っているのは分かっている。それでもこれ以上の被害は食い止めなければならない。
「嫌だ……いやぁぁぁ!! なんで!? どうしてあなたも置いて行くの!?」
もはや彼女には俺の声は届いていない。目の前の現実を受け止められずただ泣きじゃくっている。
もうだめか……彼女は置いていくしかないな。
「リュージ!? これは一体……」
遅れてミーアとアキもやってくる。ミーアはこの惨状を見せないためにアキを抑え部屋に入れないようにする。
「エムスはもうここにいるはずだ。ディスティはもう……とにかく三人でも行こう!」
部屋を出て扉を閉め、三人で悲鳴が鳴り響く方へと走る。道中でアキが炎を吸い込んで消火してくれるがそれを上回る量で燃え盛っている。
何人もの惨殺死体を目の当たりにしながらも突き進んでいき、ディスティと初めて会った広場まで辿り着く。そこには真っ赤に染まったバールを握ったエムスが立っている。
「よぉお前ら……」
俺達は構えるが奴からは殺意をあまり感じられない。俺達に興味がないようだ。
「今お前達はどうでもいい。それよりディスティって奴を知らねぇか? あいつも殺してやらなきゃいけねぇんだよ」
「お前いい加減にしろよ……親が死んだことには同情するし、そのせいで辛かっただろうよ。でもこんなことするのは違うだろ!」
俺の叫びを聞いても奴は顔色一つ変えず、ただバールで地面を軽く叩くだけだ。
「死んだぁ? 殺されたんだよ俺の親は。それに正直もう親が殺された件についてはもうどうでもいい」
奴は薄ら笑いを顔に貼り付け、徐に近くにある柱に頭を強く打ち付ける。
「お前何やって……」
「親が殺された後、まだ弱かったオレはこいつらに半殺しにされて雪山に放り捨てられた。崖から投げ下ろされた。
あれは殺す気だったんだろうなぁ……だがオレは死ななかった」
聞いていた話と違う。大司祭様の話だとエムスは逆恨みで殺人を始めたはずだ。話が食い違っている。
「でもよ……あの日から寒いんだよ。凍え死にそうになってから、手足の痺れも治したはずなのにずぅーっとあの日の寒さが体から取れねぇ……取れねぇんだよ!!」
エムスは落ちている燃えている建材を掴みその炎を自分に押し当てる。服が燃え炎が広がるが、その熱に奴は痛がるどころか寧ろ喜んでいる。
「ダメだ……こんなんじゃ足りねぇ……あぁ!! イライラするぜぇ……!!」
奴がバールを一振りし、それによって生じた風圧だけで自分に纏わりつく炎を掻き消す。
「気が変わった……ディスティを殺す前にお前らで体を温めてやる。さぁ……オレを熱くさせてくれよぉ!!」
0
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?
不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。
次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。
時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く――
――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。
※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。
※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ
さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる