42 / 53
二章 正義vs正義
41話 舌抜き(シア視点)
しおりを挟む
わたくしはリュージさん達と別れ指示通り中にいるはずの人がいるか確認し、部屋の扉を開け窓が割られていないか確かめる。
「まぁここまで入ってこれるわけないですよね」
姉さんが知ったら叱られるかもしれないが、正直わたくしはこの件は何事もなく片付くと思っている。
外には騎士団とここの精鋭達が集まって布陣を敷いている。それにとんでもない力を身につけたリュージさんとその仲間達もいるのだ。ここにエムスが辿り着く前に捕えられるのは明白だ。
「もしわたくしが頼んだら、仲間に加えてくださるのか……」
油断が影響してしまったのか、ふと考えていたことが口から漏れてしまう。幸い近くには誰もおらず聞かれていない。
わたくしは傲慢ながらリュージさんと再び一緒にパーティーを組むことを視野に入れている。この一ヶ月で自分もかなり強くなったし、彼と一緒に居ればもっと強くなれるような気がしたからだ。
あの人はわたくしが見捨てたというのに、酷いこともしてきたというのにそれらを気にせずに受け入れてくれた。とても暖かいお方です。
その暖かさが心地良くて思い出すだけで自然と頬が緩んでしまう。
バニスさんの時とは違う感情が芽生える。きっとこれは恋愛や愛情ではなく尊敬の念なのだろう。
今わたくしは彼を心の底から尊敬し憧れている。献身的に誰かに尽くし、そのための努力や能力も飛び抜けている。その姿は自分にとってお手本そのものだ。
でもあのお二人は受け入れてくれるでしょうか? 特にアキさんはわたくしのことを目の敵にしてしまっていますし。
それに関しては追放の件が発端なのでわたくしが全面的に悪いのだが、これから旅を共にする身としては彼女らとも仲良くなっておきたい。
「はぁ……何て声をかけたらいいか……」
溜息を吐きながらまた一室、一室と扉を開けて中を確認する。
その流れ作業の中で突然わたくしの腕が引っ張られ部屋の中に引き込まれる。
「あがっ!!」
次に頭に硬いもので殴られたような衝撃が襲い、わたくしはベッドのすぐ側に倒れてしまう。
運が良いことにベッドに頭を乗っけれたことで頭部へのダメージの追加はなかったが、赤く染まっていくシーツがわたくしの胸の鼓動を速くさせる。
「よく見たらお前ぇ……シアかぁ……」
部屋の中に潜伏していてわたくしの頭を殴ったのはエムスだった。今奴が目の前に立っている。
バールには新鮮な血がこびり付いており、それを引きずりながら動けないわたくしの方へと迫ってくる。
「会いたかったぜぇ。十五年前は殺し損ねたからなぁ?」
まだ痛みが響くわたくしの顔を手で掴み上げ、血がついたバールを口の中に無理矢理入れてくる。
「う、うむぅ……!!」
声を出そうにも頭痛とバールのせいでそれすらできず、至近距離での奴との睨めっこになる。
「その目。分かるぜぇ……オレが憎いんだろ? 十五年前に親を殺したこのオレがよ?」
「んんん!!」
ここで一方的に殺されるくらいならとわたくしは隠し持っていた短剣を取り出す。それを奴の右目に突き刺す。
短剣は防御されることもなくグチュリと嫌な音を立てて眼球を貫く。だが奴はそんな傷を負っても全く動じない。
「でもよぉ……オレだって憎いんだよお前らが。人を殺して事件をでっちあげるお前らがよぉ……ガキを悪魔の子だとほざいて雪山に追い込みやがって。
あの日からずっと寒いんだよ。だから……温めてくれよ……!!」
舌にバールが突き刺さり奴はそれを一気に引っ張り抜く。
顎がガクンと外れる感覚の後口の中でブチッと千切れる音がする。
「あむ……案外硬いな」
エムスがわたくしの舌をよく噛み咀嚼する。遅れて痛みが全身を駆け巡り浮いている足をバタつかせる。
「ガポポ! ガピュ!!」
舌がないせいで喋れない、というより血が溢れ出るせいで呼吸すらままならない。
「美味かったぜ。少しは温まった」
エムスはまるでゴミのように乱雑にわたくしを放り捨て部屋を出て行く。
嵐が過ぎ去り、わたくしから血の気も引いていく。
もしかして……死ぬ?
今まで守られ続けてきたわたくしにとってそれは御伽話を聞かされている感覚に近かった。だがそれが段々と明瞭になっていき、心の中で恐怖が芽生え出す。
「誰か……ゴヒュ!! リュー……ゴポッ!! オエッ!! 助け……!!」
伸ばした手には誰も気づくわけもなく、わたくしは外の雪と同じぐらい冷たくなっていく。
「まぁここまで入ってこれるわけないですよね」
姉さんが知ったら叱られるかもしれないが、正直わたくしはこの件は何事もなく片付くと思っている。
外には騎士団とここの精鋭達が集まって布陣を敷いている。それにとんでもない力を身につけたリュージさんとその仲間達もいるのだ。ここにエムスが辿り着く前に捕えられるのは明白だ。
「もしわたくしが頼んだら、仲間に加えてくださるのか……」
油断が影響してしまったのか、ふと考えていたことが口から漏れてしまう。幸い近くには誰もおらず聞かれていない。
わたくしは傲慢ながらリュージさんと再び一緒にパーティーを組むことを視野に入れている。この一ヶ月で自分もかなり強くなったし、彼と一緒に居ればもっと強くなれるような気がしたからだ。
あの人はわたくしが見捨てたというのに、酷いこともしてきたというのにそれらを気にせずに受け入れてくれた。とても暖かいお方です。
その暖かさが心地良くて思い出すだけで自然と頬が緩んでしまう。
バニスさんの時とは違う感情が芽生える。きっとこれは恋愛や愛情ではなく尊敬の念なのだろう。
今わたくしは彼を心の底から尊敬し憧れている。献身的に誰かに尽くし、そのための努力や能力も飛び抜けている。その姿は自分にとってお手本そのものだ。
でもあのお二人は受け入れてくれるでしょうか? 特にアキさんはわたくしのことを目の敵にしてしまっていますし。
それに関しては追放の件が発端なのでわたくしが全面的に悪いのだが、これから旅を共にする身としては彼女らとも仲良くなっておきたい。
「はぁ……何て声をかけたらいいか……」
溜息を吐きながらまた一室、一室と扉を開けて中を確認する。
その流れ作業の中で突然わたくしの腕が引っ張られ部屋の中に引き込まれる。
「あがっ!!」
次に頭に硬いもので殴られたような衝撃が襲い、わたくしはベッドのすぐ側に倒れてしまう。
運が良いことにベッドに頭を乗っけれたことで頭部へのダメージの追加はなかったが、赤く染まっていくシーツがわたくしの胸の鼓動を速くさせる。
「よく見たらお前ぇ……シアかぁ……」
部屋の中に潜伏していてわたくしの頭を殴ったのはエムスだった。今奴が目の前に立っている。
バールには新鮮な血がこびり付いており、それを引きずりながら動けないわたくしの方へと迫ってくる。
「会いたかったぜぇ。十五年前は殺し損ねたからなぁ?」
まだ痛みが響くわたくしの顔を手で掴み上げ、血がついたバールを口の中に無理矢理入れてくる。
「う、うむぅ……!!」
声を出そうにも頭痛とバールのせいでそれすらできず、至近距離での奴との睨めっこになる。
「その目。分かるぜぇ……オレが憎いんだろ? 十五年前に親を殺したこのオレがよ?」
「んんん!!」
ここで一方的に殺されるくらいならとわたくしは隠し持っていた短剣を取り出す。それを奴の右目に突き刺す。
短剣は防御されることもなくグチュリと嫌な音を立てて眼球を貫く。だが奴はそんな傷を負っても全く動じない。
「でもよぉ……オレだって憎いんだよお前らが。人を殺して事件をでっちあげるお前らがよぉ……ガキを悪魔の子だとほざいて雪山に追い込みやがって。
あの日からずっと寒いんだよ。だから……温めてくれよ……!!」
舌にバールが突き刺さり奴はそれを一気に引っ張り抜く。
顎がガクンと外れる感覚の後口の中でブチッと千切れる音がする。
「あむ……案外硬いな」
エムスがわたくしの舌をよく噛み咀嚼する。遅れて痛みが全身を駆け巡り浮いている足をバタつかせる。
「ガポポ! ガピュ!!」
舌がないせいで喋れない、というより血が溢れ出るせいで呼吸すらままならない。
「美味かったぜ。少しは温まった」
エムスはまるでゴミのように乱雑にわたくしを放り捨て部屋を出て行く。
嵐が過ぎ去り、わたくしから血の気も引いていく。
もしかして……死ぬ?
今まで守られ続けてきたわたくしにとってそれは御伽話を聞かされている感覚に近かった。だがそれが段々と明瞭になっていき、心の中で恐怖が芽生え出す。
「誰か……ゴヒュ!! リュー……ゴポッ!! オエッ!! 助け……!!」
伸ばした手には誰も気づくわけもなく、わたくしは外の雪と同じぐらい冷たくなっていく。
0
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。
次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。
時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く――
――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。
※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。
※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ
さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる