転生した先で蔑まれ追放された俺の異世界冒険ライフ 〜魔法も使えない無能と言われた俺には、クリスタルを全属性扱える才能があったみたいです!?〜

ニゲル

文字の大きさ
上 下
37 / 53
二章 正義vs正義

36話 親なし子

しおりを挟む
「なるほど。そちらの方々が今回の件に協力してくれる腕が立つ旅人さんですか。よろしくお願いしますね」

 ディスティが大司祭様に俺達を紹介してくれて、この人も快く俺達を受け入れてくれる。特にトラブルなく作戦に参加できるようで助かった。

「大司祭様。ワタクシと彼らがいれば警備の件もなんとかなるのではないでしょうか?」
「ふむそうじゃな……それもそうだが、その前にこの人らはエムスのことをどの程度知っているのじゃ?」
「過去に人を殺したことくらいしか……」

 シアから聞いた情報は奴が凶悪犯だということくらいだ。俺達三人は奴について大した情報は持っていない。

「ではわしから説明しましょう。
 エムスという男はこの国で生まれた人間で、両親が魔族友好派の人間じゃったのだ」

 この世界には少ないながらも人間と魔族が共存していくべきだと考えている人間もいる。ミーアもその一人だ。
 
「その両親はわしら反魔族教に対しても色々諭してきたが、段々と過激になっていきある日わしらの教会に火を点けたのじゃ」

 人間は自分の信じた正義のためならどこまでも残酷になれる。俺は戦争を通じてそのことを痛いほど痛感している。
 だからこの世界でもそのような事件があったことを知り呆れや諦めに似た感情を抱いてしまう。

「捕まえようとしたが狂った彼らはそのまま焼かれて死んでしまい、エムスは親に先立たれてしまいましたのじゃ」

 小さくして親無しになってしまったのか……

 奴が人を殺した極悪人とは知りつつも、その境遇には同情してしまう。親を、道を教えてくれる者を失った子供は大抵歪んでしまうことを知っているから。

「エムスは両親の死をわしらのせいだと激しく恨むようになり、反魔族教の人間を殺し回ったのです」

 子供にそんなことができるのかと疑問を抱きかけたが、エムスの戦闘センスは今までに見たことがないほどだ。小さい頃でも大人を殺すことくらいはできたと言われても納得できる。

「やはり魔族は悪ですね。人間を誑かして凶行へと移らせてしまう。ワタクシ達の手で人間と切り離すべきです」

 ディスティの口から美しい顔には似合わず毒が吐かれる。シアと大司祭様も頷き、その独特な思想に俺達はついていけない。
 アキはポカンと口を開け、ミーアに至っては大変気まずそうにしている。共存を目指す彼女にとっては複雑な感情があるのだろう。

「魔族の件は今は置いておいて、問題は今日ある追悼式ですじゃ」
「追悼式? 何ですかそれは?」

 生憎俺はここの宗教についてはあまり詳しくない。その追悼式と呼ばれる儀式については知識を持っていない。

「追悼式とは戦争で亡くなった人間達へ追悼をする儀式であり、毎年この時期にこの大聖堂でやっておりますのじゃ。
 反魔族教の上の者は必ず出席する決まりとなっておりまして、エムスの脅威がある今どうするべきか困っていたのです。
 当初は騎士団の者とディスティが率いるわしらの精鋭達でここを警備しようと思いましたが、あなた方も手伝ってくれるのでしたら心強いです」

 それならこちらにも都合が良い。みんなでエムスを捕らえることができれば奪われたクリスタルも取り返せるだろう。

「ではディスティとシアでその人達に警備する場所などを案内してくれ」
「はいかしこまりました。シアはそっちの二人を任せてもいい?」

 ディスティはシアの方を見て、ミーアとアキにも一瞬視線を送る。
 
「大丈夫ですが、二手に分かれる必要はありますか?」
「個人的にこのリュージさんと二人きりで話してみたくなりまして、それに二手に分かれても支障は出ませんので」

 ディスティが俺の腕を掴み自分の元へと手繰り寄せる。華奢な体の割に力が強く、俺のガッシリとしている体でも簡単に動かす。

「では二人ともわたくしが案内するのでついてきてください」

 二人はシアに外に連れていかれる。アキはもの寂しそうに何度もこちらを振り返るが、ミーアに手を引っ張られ渋々ついていく。

「リュージさんはワタクシとまず中を見て回りましょうか。適当な場所で少し話に付き合ってくれますか?」
「構わないよ。行こうか」

 そうして俺はディスティの後ろについてこの荘厳な室内を回るのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

処理中です...