35 / 53
二章 正義vs正義
34話 反魔族教
しおりを挟む
薬品の匂いが鼻をつき、目を開くとそこは白色を基調にした部屋。俺はその部屋で柔らかいベッドの上で寝ていた。
「やっと起きましたか。一ヶ月ぶりですね。リュージさん」
近くの椅子には信じられない人物が座っていた。バニスパーティーの一員であり、聖女のシアが居る。
「シア!? 何でここに……!?」
「バニスさんのパーティーを抜けて、ここにて鍛え直しを行っています。あなた達の治療もその一環で行って差し上げました」
あの頭のトチ狂った男につけられた傷は全て治っている。それに今やっと気づいたがここは病院だ。きっと彼女は手伝いなどをやっているのだろう。
「達ってことはミー……じゃなくて連れの二人も無事だったのか?」
「連れの二人なら無事ですよ。小さい子はかなり重症でしたが、治癒魔法でなんとか治せました」
「そうか。よかった……ありがとうシア」
アキが助かったことに心から安堵して彼女の手を握り感謝の意を述べる。
「そうですか……こちらこそどういたしまして」
改めて近くで見て思い出すが、シアはミーアにも勝るとも劣らない美貌を持ち合わせている。
女性の欲を完全に失っている今の俺じゃないなら好きになってしまうかもしれない。
「久しぶりに思い出しましたよ。あなたの優しさを。
すみませんでした。ここ最近はその優しさが当然となってしまっていて感謝が足りませんでした」
「えっ……どうしたの急に?」
シアは確かにバニスと比べ優しく暴言もほとんど吐いてこなかったが、追放された近くは俺を見下すような視線が多かった気がする。
そんな彼女が改まって謝るものなので俺はそれを真正面から上手く受け取れない。
「この前の巨大な魔物の一件で悟ったのです。わたくし達は傲慢で未熟だったと。ですから故郷のここで育ててくれた教会の元で再び修行を始めたのです」
「そうなのか。ともかく新しく前に進み出したなら、辛いことや大変なこともあると思うけど頑張ってね。応援してるよ」
「ふふっ。ありがとうございます」
何ヶ月ぶりだろうか、シアは久しぶりのその美貌から繰り広げられる笑みをぶつけてくれる。
「ところで話は変わるけど、俺達を襲った男について何か知ってたりしない?」
「その男については目撃情報がありましたね。奴はとんでもない極悪人です」
先程までの笑みとは反対に、シアの目つきが汚らしいものを見るものに変わる。脳内で俺達を襲った男を見ているのだろう。
「その男は十五年前にわたくしが所属する宗教の幹部を片っ端から殺害して回った、ノックス・エムスという者です」
「連続殺人犯ってことなのか?」
「そうですね。奴は十歳の頃に殺人を犯し今まで逃げて行方知れずでしたが、最近この国で目撃情報が出ていました」
小さい子供の頃に人を殺した……か。
あの時奴が言ったあの言葉。俺と奴の目が似ているという嫌味めいた言葉が何度も胸の中で反響する。
口の中にベットリとした嫌な味が広がり、鼻の中に鉄臭い匂いが広がる。
「大丈夫ですか? 顔色が随分悪いように見えますが」
「問題ないよ。何ともない。もう何ともないんだよ」
何回か深呼吸をし余分な記憶を頭から掃き出す。
「それでエムスの動向は分かる? 実は奴に大事な物を盗まれてしまったんだ」
「いえ。ただ騎士に加えわたくし達の反魔族教の者も動いていますのですぐ見つかると思います」
反魔族教。二十年前の戦争の被害者の人間から作られた宗教だ。
人間を高尚な存在とし魔族を悪とする理念を持ち合わせていて、かなり過激なこともやっているらしい。
「奴はとんでもなく強い。よければ奴の捜査に俺達も加えてくれないか?」
奴の実力は体感だがミーアと共に戦った時のガラスア以上だ。
なら騎士団や宗教の人間だけには任せていられない。みんなできっちり対策を練って数の暴力で仕留めるべきだろう。
「あなた達の実力はこの前の一件でよく知っています。わたくしの方から宗教の上の方に頼んでみます」
「ありがたいけど、部外者の俺達を混ぜてくれるかな?」
「大丈夫だと思いますよ。あそこはわたくしの意見をあまり無碍にはできないはずなので」
「無碍にはできない?」
シアがこの国出身でここの宗教に所属していたことは知っていた。だがそこまで世間話を多くしたわけでもないのでそれ以上踏み込んだことは知らない。
「わたくしの姉は反魔族教の大司祭候補ですから」
「やっと起きましたか。一ヶ月ぶりですね。リュージさん」
近くの椅子には信じられない人物が座っていた。バニスパーティーの一員であり、聖女のシアが居る。
「シア!? 何でここに……!?」
「バニスさんのパーティーを抜けて、ここにて鍛え直しを行っています。あなた達の治療もその一環で行って差し上げました」
あの頭のトチ狂った男につけられた傷は全て治っている。それに今やっと気づいたがここは病院だ。きっと彼女は手伝いなどをやっているのだろう。
「達ってことはミー……じゃなくて連れの二人も無事だったのか?」
「連れの二人なら無事ですよ。小さい子はかなり重症でしたが、治癒魔法でなんとか治せました」
「そうか。よかった……ありがとうシア」
アキが助かったことに心から安堵して彼女の手を握り感謝の意を述べる。
「そうですか……こちらこそどういたしまして」
改めて近くで見て思い出すが、シアはミーアにも勝るとも劣らない美貌を持ち合わせている。
女性の欲を完全に失っている今の俺じゃないなら好きになってしまうかもしれない。
「久しぶりに思い出しましたよ。あなたの優しさを。
すみませんでした。ここ最近はその優しさが当然となってしまっていて感謝が足りませんでした」
「えっ……どうしたの急に?」
シアは確かにバニスと比べ優しく暴言もほとんど吐いてこなかったが、追放された近くは俺を見下すような視線が多かった気がする。
そんな彼女が改まって謝るものなので俺はそれを真正面から上手く受け取れない。
「この前の巨大な魔物の一件で悟ったのです。わたくし達は傲慢で未熟だったと。ですから故郷のここで育ててくれた教会の元で再び修行を始めたのです」
「そうなのか。ともかく新しく前に進み出したなら、辛いことや大変なこともあると思うけど頑張ってね。応援してるよ」
「ふふっ。ありがとうございます」
何ヶ月ぶりだろうか、シアは久しぶりのその美貌から繰り広げられる笑みをぶつけてくれる。
「ところで話は変わるけど、俺達を襲った男について何か知ってたりしない?」
「その男については目撃情報がありましたね。奴はとんでもない極悪人です」
先程までの笑みとは反対に、シアの目つきが汚らしいものを見るものに変わる。脳内で俺達を襲った男を見ているのだろう。
「その男は十五年前にわたくしが所属する宗教の幹部を片っ端から殺害して回った、ノックス・エムスという者です」
「連続殺人犯ってことなのか?」
「そうですね。奴は十歳の頃に殺人を犯し今まで逃げて行方知れずでしたが、最近この国で目撃情報が出ていました」
小さい子供の頃に人を殺した……か。
あの時奴が言ったあの言葉。俺と奴の目が似ているという嫌味めいた言葉が何度も胸の中で反響する。
口の中にベットリとした嫌な味が広がり、鼻の中に鉄臭い匂いが広がる。
「大丈夫ですか? 顔色が随分悪いように見えますが」
「問題ないよ。何ともない。もう何ともないんだよ」
何回か深呼吸をし余分な記憶を頭から掃き出す。
「それでエムスの動向は分かる? 実は奴に大事な物を盗まれてしまったんだ」
「いえ。ただ騎士に加えわたくし達の反魔族教の者も動いていますのですぐ見つかると思います」
反魔族教。二十年前の戦争の被害者の人間から作られた宗教だ。
人間を高尚な存在とし魔族を悪とする理念を持ち合わせていて、かなり過激なこともやっているらしい。
「奴はとんでもなく強い。よければ奴の捜査に俺達も加えてくれないか?」
奴の実力は体感だがミーアと共に戦った時のガラスア以上だ。
なら騎士団や宗教の人間だけには任せていられない。みんなできっちり対策を練って数の暴力で仕留めるべきだろう。
「あなた達の実力はこの前の一件でよく知っています。わたくしの方から宗教の上の方に頼んでみます」
「ありがたいけど、部外者の俺達を混ぜてくれるかな?」
「大丈夫だと思いますよ。あそこはわたくしの意見をあまり無碍にはできないはずなので」
「無碍にはできない?」
シアがこの国出身でここの宗教に所属していたことは知っていた。だがそこまで世間話を多くしたわけでもないのでそれ以上踏み込んだことは知らない。
「わたくしの姉は反魔族教の大司祭候補ですから」
0
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?


転生テイマー、異世界生活を楽しむ
さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる