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二章 正義vs正義
32話 闇夜から
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ガラスアと死闘を繰り広げてから一ヶ月後。
俺達は今とある雪原地帯の上空にいる。その辺の石材で作った小型の車を宙に浮かせて飛ばしているのだ。
これは光のクリスタル特有の能力で、無機物に擬似的な生命を与えたりこうやって自由自在に操ったりすることができる。
今は猛吹雪の中をこの中で耐え忍びながら次なる目的地に向けて飛んでいるところだ。
「また一段と寒くなってきたわね。もうちょっと火の勢いを強くしてもらえるかしら?」
凍えながら出された指示に従い、アキはこの車の床下に設置してある炎の勢いをほんの少し強める。
「火を強めるのはいいけど、くれぐれも調整は間違えないようにね。下手したら全員丸焦げだから」
「大丈夫ですよ。僕もこの力のコントロールには慣れてきましたから」
アキはこの一ヶ月でメキメキとクリスタルを扱う力を伸ばしていき、今では百人力と言っても過言ではない実力がある。
コントロールも完璧でこの一ヶ月で暴走をしてしまうということももうない。
「それに多少寒くても僕は大丈夫です。だって……えいっ!」
アキが俺にかけてある毛布を持ち上げその中に入り込んでくる。
「こうすれば暖かいですから。えへへ……」
小柄な体で毛布を頭から被り更に俺に抱きついてくる。生温かい彼女の体温が伝わってきて寒さが多少は緩和される。
「本当にあなた達仲良いわね……それでイチャイチャしてるところ悪いのだけれど、もう着くみたいよ」
ミーアが小さな覗き穴から外の景色を見る。俺ももう一つの覗き穴から外を見れば目的地であるサンクトゥス王国が見えてくる。
サンクトゥス王国とは比較的規模が小さい雪国であり、二十年前にとある宗教が立ち上げられたことで有名である。
「街の人に見られて騒ぎになると大変だし、そろそろ降ろして歩いて行くぞ」
高度をゆっくり下げて物陰に車を降ろし、魔法を解除して車をただの石材に戻す。
「このクルマ? ってかなり便利ですよね。リュージ様が元居た世界ではこんなのがいっぱい走ってたというのですか?」
この旅の中でアキにも前世のことについては話してある。彼女は俺が元居た世界の技術に対して興味深々で、このように尋ねてくることも少なくない。
「そうだよ。とはいえ燃料切れとかで坂道で止まった時はみんなで押さないといけなかったり欠点も多いけどね」
「でも今のリュージ様のクルマならそのようになる心配もありませんね」
あの車は俺の魔力で動かしているが、ただ浮遊させて動かすだけならそこまで消耗は激しくなく、なんなら自然回復の方が勝る。
俺が起きている限り半永久的に動かせる空飛ぶ車と考えればその利便性は計り知れない。
「もう街が見えてきたわよ。あー寒い寒い。早くどこかお店にでも入りましょ」
街の入り口の門を通り、俺達はそのすぐ側にある居酒屋に入る。
中にはお昼をかなり過ぎていることもあり人は少ない。暖かい空気が流れる店内に入るなり店員さんに席に案内される。
「では注文がお決まりになりましたらお呼びください」
店員さんが厨房に下がり、俺達はメニュー表を読み始める。
「この熱々ハンバーグっていうの中々良くないかしら?」
ミーアが一番に注文を決めたようだ。
確かバニスのパーティーに居た時にシアが故郷のハンバーグとシチューは絶品だと言っていたはずだ。
そういえばあいつの故郷ってここだよな。でももう関係ないよな。ここはバニス達の活動範囲からそこそこ離れてるし、あいつらとはもう会うこともないか。
寂しさを覚えながらも、三人でハンバーグを注文する。
そして運ばれてきたのはソースが泡を立てる熱々のハンバーグである。ジャガイモと人参がお供に置かれてあり、匂いからもそれらが絶品だというのは手に取るように分かる。
「あっ。舌火傷しちゃうかもだから食べるのは少し待った方がいいよ」
早速ハンバーグに手をつけようとしていたアキはピタリと動きを止める。
「せっかく来たのにお預けですか……そういえばリュージ様の闇のクリスタルってどんな力なのですか?」
手持ち無沙汰になってしまったので肉が焼ける音を背後に世間話を始める。
闇のクリスタルについては弱い魔物ならミーアが瞬殺してしまうので使う機会がなくその能力を二人は知らない。
「そういえば見せたことはなかったね。こういうのだよ」
俺は闇のクリスタルの力をほんの少しだけ引き出し、人差し指をナイフに見立てハンバーグを切るような動作を行う。
指の先に黒色のオーラが溜まり、それは線となりハンバーグを切断する。
「こうやって物体を切断、正確には消滅させたりできるんだよ。この前夜に試してみたんだけれど案外調整が難しいから使い所が少ないんだよ」
世間話もそこそこにハンバーグが適温になったのでそれをみんなで食べ始める。
肉汁が溢れ口の中で肉が溶けるように胃に流れていく。野菜もソースが染み込んでいて水々しく美味しい。
「あぁぁぁぁ!!」
そうしてハンバーグを半分食べ終わった頃、このお店の扉が蹴破られ黒スーツの男が入ってくる。
服に髪は黒で統一しており、寒いのか小刻みに震えている。
「寒ぃなぁ……でもいいか。見つけたいもんは見つかったことだし」
男の瞳がドス黒く光る。そして奴からクリスタルの圧が放たれる。
俺達は今とある雪原地帯の上空にいる。その辺の石材で作った小型の車を宙に浮かせて飛ばしているのだ。
これは光のクリスタル特有の能力で、無機物に擬似的な生命を与えたりこうやって自由自在に操ったりすることができる。
今は猛吹雪の中をこの中で耐え忍びながら次なる目的地に向けて飛んでいるところだ。
「また一段と寒くなってきたわね。もうちょっと火の勢いを強くしてもらえるかしら?」
凍えながら出された指示に従い、アキはこの車の床下に設置してある炎の勢いをほんの少し強める。
「火を強めるのはいいけど、くれぐれも調整は間違えないようにね。下手したら全員丸焦げだから」
「大丈夫ですよ。僕もこの力のコントロールには慣れてきましたから」
アキはこの一ヶ月でメキメキとクリスタルを扱う力を伸ばしていき、今では百人力と言っても過言ではない実力がある。
コントロールも完璧でこの一ヶ月で暴走をしてしまうということももうない。
「それに多少寒くても僕は大丈夫です。だって……えいっ!」
アキが俺にかけてある毛布を持ち上げその中に入り込んでくる。
「こうすれば暖かいですから。えへへ……」
小柄な体で毛布を頭から被り更に俺に抱きついてくる。生温かい彼女の体温が伝わってきて寒さが多少は緩和される。
「本当にあなた達仲良いわね……それでイチャイチャしてるところ悪いのだけれど、もう着くみたいよ」
ミーアが小さな覗き穴から外の景色を見る。俺ももう一つの覗き穴から外を見れば目的地であるサンクトゥス王国が見えてくる。
サンクトゥス王国とは比較的規模が小さい雪国であり、二十年前にとある宗教が立ち上げられたことで有名である。
「街の人に見られて騒ぎになると大変だし、そろそろ降ろして歩いて行くぞ」
高度をゆっくり下げて物陰に車を降ろし、魔法を解除して車をただの石材に戻す。
「このクルマ? ってかなり便利ですよね。リュージ様が元居た世界ではこんなのがいっぱい走ってたというのですか?」
この旅の中でアキにも前世のことについては話してある。彼女は俺が元居た世界の技術に対して興味深々で、このように尋ねてくることも少なくない。
「そうだよ。とはいえ燃料切れとかで坂道で止まった時はみんなで押さないといけなかったり欠点も多いけどね」
「でも今のリュージ様のクルマならそのようになる心配もありませんね」
あの車は俺の魔力で動かしているが、ただ浮遊させて動かすだけならそこまで消耗は激しくなく、なんなら自然回復の方が勝る。
俺が起きている限り半永久的に動かせる空飛ぶ車と考えればその利便性は計り知れない。
「もう街が見えてきたわよ。あー寒い寒い。早くどこかお店にでも入りましょ」
街の入り口の門を通り、俺達はそのすぐ側にある居酒屋に入る。
中にはお昼をかなり過ぎていることもあり人は少ない。暖かい空気が流れる店内に入るなり店員さんに席に案内される。
「では注文がお決まりになりましたらお呼びください」
店員さんが厨房に下がり、俺達はメニュー表を読み始める。
「この熱々ハンバーグっていうの中々良くないかしら?」
ミーアが一番に注文を決めたようだ。
確かバニスのパーティーに居た時にシアが故郷のハンバーグとシチューは絶品だと言っていたはずだ。
そういえばあいつの故郷ってここだよな。でももう関係ないよな。ここはバニス達の活動範囲からそこそこ離れてるし、あいつらとはもう会うこともないか。
寂しさを覚えながらも、三人でハンバーグを注文する。
そして運ばれてきたのはソースが泡を立てる熱々のハンバーグである。ジャガイモと人参がお供に置かれてあり、匂いからもそれらが絶品だというのは手に取るように分かる。
「あっ。舌火傷しちゃうかもだから食べるのは少し待った方がいいよ」
早速ハンバーグに手をつけようとしていたアキはピタリと動きを止める。
「せっかく来たのにお預けですか……そういえばリュージ様の闇のクリスタルってどんな力なのですか?」
手持ち無沙汰になってしまったので肉が焼ける音を背後に世間話を始める。
闇のクリスタルについては弱い魔物ならミーアが瞬殺してしまうので使う機会がなくその能力を二人は知らない。
「そういえば見せたことはなかったね。こういうのだよ」
俺は闇のクリスタルの力をほんの少しだけ引き出し、人差し指をナイフに見立てハンバーグを切るような動作を行う。
指の先に黒色のオーラが溜まり、それは線となりハンバーグを切断する。
「こうやって物体を切断、正確には消滅させたりできるんだよ。この前夜に試してみたんだけれど案外調整が難しいから使い所が少ないんだよ」
世間話もそこそこにハンバーグが適温になったのでそれをみんなで食べ始める。
肉汁が溢れ口の中で肉が溶けるように胃に流れていく。野菜もソースが染み込んでいて水々しく美味しい。
「あぁぁぁぁ!!」
そうしてハンバーグを半分食べ終わった頃、このお店の扉が蹴破られ黒スーツの男が入ってくる。
服に髪は黒で統一しており、寒いのか小刻みに震えている。
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