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一章 出会いとクリスタル
26話 忌まわしき記憶
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山に入って少ししたところで、遠くの方で断続的に衝撃音が聞こえてくる。恐らくガラスアと例の冒険者達が戦い始めたのだろう。
「まずい急がないと……!」
「音と気配はこっちからよ!!」
ミーアが旋回した方へ俺も向かい、数分走ったところで信じ難いものを目の当たりにする。
暴れていたのはガラスアではなく謎の巨大な魔物だ。皮膚は紫色の禍々しいもので、しかし四足は正反対に神々しい光を放っている。二本の角は緑色に発光しておりそこから風が流れ出している。
そして何より驚いたのは、応戦していた冒険者達だ。彼らはついこの前俺をパーティーから追放したバニス達だったのだ。
「な……リュージ!? 何でお前がここに……!?」
戦闘中だというのにバニスは視線を目の前の標的から俺に移す。
「バニス様!! 攻撃が……」
シアが叫ぶも虚しく、魔物から放たれた風の刃がバニスの全身をズタズタにし、いたるところから血が流れ出す。
「いってぇ……クソ!! おいリュージ!! 後で覚えてろよ!!」
バニスもプロの冒険者だ。即座に踵を返し魔物から距離を取る。何故か俺のせいにしているのはいただけないが。
「あれは……子供……?」
だがその件についてはもうどうでもよい。今の俺の視線は木の近くで腹から血を流し倒れいる子供に奪われてしまっているのだから。
「リュージ。大体事情は察するけど、今は迅速に行動しないと……」
俺はミーアの言葉を無視して子供の方へ駆け出す。彼女の声や周りの音は今の俺には届いていない。それどころか俺の視界は今失われたいる。
過去のある日の景色がフラッシュバックしているから。
焼ける住宅街の中、水をくださいとこちらに手を伸ばす、腸が飛び出している女の子の姿。
洞窟の中で夜を過ごしたあの日、泣く声で居場所がばれると言われ生まれたばかりの我が子の口にタオルを押し込み、結果的に殺してしまい声を押し殺してすすり泣く母親の姿。
俺は今まで数多の人の死ぬ姿を、殺される姿を見てきた。だから今消えようとしている小さな命を視認し我を失ってしまう。
これを魔物が見逃してくれるわけもなく、隙だらけの俺に向かって突進してくる。
「うおぉぉぉぉぉ!!」
クリスタルの力を全て出せる限り発揮し一気に加速する。ギリギリのところで突進を躱し子供のところに転がり込む。急いで簡単な止血をしてからシアのところまで運ぶ。
その間にデポとデンリが魔物の注意を引いてくれる。そこにバニスとミーアも加勢するので少しだが落ち着いて話せる隙ができる。
「できるだけの止血はやった!! 早くこの子の治療をしてくれ!!」
「は、はい!!」
強気で語尾を荒々しくする俺の言動に戸惑いつつも彼女は子供に治癒魔法をかけようとしてくれる。
「リュージ!! そっち攻撃いったわ!!」
戦っている四人をすり抜け、風の刃が何発かこちらに向かってくる。
俺は日本刀を抜きそれらを全て叩き落す。
「あなたその力どこで……」
魔法を使えない無力な俺しか知らないシアはクリスタルで超人的な力を手にした俺の能力に驚き呆気に取られる。
「何してるんだ!! 早くその子を治せ!!」
罪もあるはずもない子供の命がかかっていることもあってつい罵倒するかのような声色で怒鳴ってしまう。
俺はシアを庇うように立ち塞がり、段々と数を増やすすり抜けてくる攻撃を叩き落す。気づけばミーアと俺とシア以外はボロボロになってしまっている。
治療は終わり子供は意識こそ戻っていないが傷は完璧に治っている。
バニス達はもうボロボロ。長くは保たないだろう。
それに今は子供がいる。このまま戦っていれば流れ弾が当たってしまうかもしれない。
「バニス!! その子供達を連れて村まで逃げろ!!」
「あぁ!? 逃げろだって!? オレに指図するな!!」
プライドが高いバニスは俺の言うことなど聞こうともしない。昔からこいつはこうだ。俺の忠告を聞かずに突っ走ることが多い。
バニスを説得するのは無理だと判断し、どうすればいいか周りを見渡し思考を巡らせる。そこで俺はバニス以外の三人の、特にシアの様子に目がいく。
あいつここから逃げたそうにしている……自分達じゃ勝てないことが薄っすら分かっているんだ。
「悪いなバニス! でもお前も助けたいからちょっと我慢してくれ!」
俺は悪いと思いながらも彼の腹に一発蹴りをくらわせる。
クリスタルの力をある程度纏った蹴りは彼の鳩尾に深く入り、彼は白目を向いてその場に倒れてしまう。
「シア!! その子を頼む!! それとデポはバニスを!!」
俺は魔物の注意をこちらに移しながらバニスをデポの方に向かって放り投げる。
「デポ!! お前なら力量差くらいハッキリ分かるはずだ!! 死にたくなかったら逃げろ!!」
「……すまない」
デポはバニスを抱えここから逃げ出してくれる。それに引き寄せられるようにデンリとシアもついていく。
俺は彼らに、特にシアが背負っている子供に追撃がいかないよう魔物を日本刀で斬り裂き注意を引く。
「なぁミーア? もしかしてこいつ傷が治っているのか……?」
「そうみたいね。私がさっき与えた傷ももう治りきってるわ」
切り傷がみるみる塞がっていき、一方俺達にはそんな能力はないし、ポーションを使おうにもそんな隙はないだろう。
俺達が今戦っている敵は予想以上に強大だ。
「まずい急がないと……!」
「音と気配はこっちからよ!!」
ミーアが旋回した方へ俺も向かい、数分走ったところで信じ難いものを目の当たりにする。
暴れていたのはガラスアではなく謎の巨大な魔物だ。皮膚は紫色の禍々しいもので、しかし四足は正反対に神々しい光を放っている。二本の角は緑色に発光しておりそこから風が流れ出している。
そして何より驚いたのは、応戦していた冒険者達だ。彼らはついこの前俺をパーティーから追放したバニス達だったのだ。
「な……リュージ!? 何でお前がここに……!?」
戦闘中だというのにバニスは視線を目の前の標的から俺に移す。
「バニス様!! 攻撃が……」
シアが叫ぶも虚しく、魔物から放たれた風の刃がバニスの全身をズタズタにし、いたるところから血が流れ出す。
「いってぇ……クソ!! おいリュージ!! 後で覚えてろよ!!」
バニスもプロの冒険者だ。即座に踵を返し魔物から距離を取る。何故か俺のせいにしているのはいただけないが。
「あれは……子供……?」
だがその件についてはもうどうでもよい。今の俺の視線は木の近くで腹から血を流し倒れいる子供に奪われてしまっているのだから。
「リュージ。大体事情は察するけど、今は迅速に行動しないと……」
俺はミーアの言葉を無視して子供の方へ駆け出す。彼女の声や周りの音は今の俺には届いていない。それどころか俺の視界は今失われたいる。
過去のある日の景色がフラッシュバックしているから。
焼ける住宅街の中、水をくださいとこちらに手を伸ばす、腸が飛び出している女の子の姿。
洞窟の中で夜を過ごしたあの日、泣く声で居場所がばれると言われ生まれたばかりの我が子の口にタオルを押し込み、結果的に殺してしまい声を押し殺してすすり泣く母親の姿。
俺は今まで数多の人の死ぬ姿を、殺される姿を見てきた。だから今消えようとしている小さな命を視認し我を失ってしまう。
これを魔物が見逃してくれるわけもなく、隙だらけの俺に向かって突進してくる。
「うおぉぉぉぉぉ!!」
クリスタルの力を全て出せる限り発揮し一気に加速する。ギリギリのところで突進を躱し子供のところに転がり込む。急いで簡単な止血をしてからシアのところまで運ぶ。
その間にデポとデンリが魔物の注意を引いてくれる。そこにバニスとミーアも加勢するので少しだが落ち着いて話せる隙ができる。
「できるだけの止血はやった!! 早くこの子の治療をしてくれ!!」
「は、はい!!」
強気で語尾を荒々しくする俺の言動に戸惑いつつも彼女は子供に治癒魔法をかけようとしてくれる。
「リュージ!! そっち攻撃いったわ!!」
戦っている四人をすり抜け、風の刃が何発かこちらに向かってくる。
俺は日本刀を抜きそれらを全て叩き落す。
「あなたその力どこで……」
魔法を使えない無力な俺しか知らないシアはクリスタルで超人的な力を手にした俺の能力に驚き呆気に取られる。
「何してるんだ!! 早くその子を治せ!!」
罪もあるはずもない子供の命がかかっていることもあってつい罵倒するかのような声色で怒鳴ってしまう。
俺はシアを庇うように立ち塞がり、段々と数を増やすすり抜けてくる攻撃を叩き落す。気づけばミーアと俺とシア以外はボロボロになってしまっている。
治療は終わり子供は意識こそ戻っていないが傷は完璧に治っている。
バニス達はもうボロボロ。長くは保たないだろう。
それに今は子供がいる。このまま戦っていれば流れ弾が当たってしまうかもしれない。
「バニス!! その子供達を連れて村まで逃げろ!!」
「あぁ!? 逃げろだって!? オレに指図するな!!」
プライドが高いバニスは俺の言うことなど聞こうともしない。昔からこいつはこうだ。俺の忠告を聞かずに突っ走ることが多い。
バニスを説得するのは無理だと判断し、どうすればいいか周りを見渡し思考を巡らせる。そこで俺はバニス以外の三人の、特にシアの様子に目がいく。
あいつここから逃げたそうにしている……自分達じゃ勝てないことが薄っすら分かっているんだ。
「悪いなバニス! でもお前も助けたいからちょっと我慢してくれ!」
俺は悪いと思いながらも彼の腹に一発蹴りをくらわせる。
クリスタルの力をある程度纏った蹴りは彼の鳩尾に深く入り、彼は白目を向いてその場に倒れてしまう。
「シア!! その子を頼む!! それとデポはバニスを!!」
俺は魔物の注意をこちらに移しながらバニスをデポの方に向かって放り投げる。
「デポ!! お前なら力量差くらいハッキリ分かるはずだ!! 死にたくなかったら逃げろ!!」
「……すまない」
デポはバニスを抱えここから逃げ出してくれる。それに引き寄せられるようにデンリとシアもついていく。
俺は彼らに、特にシアが背負っている子供に追撃がいかないよう魔物を日本刀で斬り裂き注意を引く。
「なぁミーア? もしかしてこいつ傷が治っているのか……?」
「そうみたいね。私がさっき与えた傷ももう治りきってるわ」
切り傷がみるみる塞がっていき、一方俺達にはそんな能力はないし、ポーションを使おうにもそんな隙はないだろう。
俺達が今戦っている敵は予想以上に強大だ。
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